3月のMPMとFRBのFOMCはいずれも予想通り現状維持となりました。背景はともにトランプ関税による不確実性。

FRBの次回利下げは6月、日銀の利上げは6月か早くて5月とみていますが、米国のスタグフレーション・リスクが高まる中で本当に動けるのか。MPMとFOMCの結果を整理します。


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著者の愛宕 伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 3月は日銀、FRBともに動かず ~トランプ関税に身構える中央銀行~ 」


FRBは政策金利の据え置きとQT(量的引き締め)の減額を決定

 まず、FRB(米連邦準備制度理事会)の3月FOMC(米連邦公開市場委員会)ですが、政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標を4.25~4.5%に据え置くことが決定されました。


 パウエル議長は記者会見で、「不確実性が異常に高まっている」、「成長率見通しが低下する一方、インフレ見通しが上昇し、それらが相殺している。極めて不確実性が高い状況では、動かないということも選択肢だ」と述べ、待つことが適切であることを強調しました。


 また、現在進めているQTについて、「マネーマーケットに若干逼迫(ひっぱく)する兆候が確認された」(パウエル議長の記者会見)として、国債保有残高の削減ペースを緩めることも決定されました。


 具体的には、毎月償還を迎えて国債の保有残高が減る上限額をこれまで250億ドルとしていましたが、4月から50億ドルに減額されます。パウエル議長は記者会見で、金融市場を混乱させないための措置であることを強調しています。


 同時に公表された経済見通しでは、前回(2024年12月)の見通しで年内2回としていた追加利下げ回数も維持されました(図表1)。


図表1 政策金利のドットチャート
3月は日銀、FRBともに動かず~トランプ関税に身構える中央銀行~(愛宕伸康)
出所:FRB、楽天証券経済研究所作成

 図表1は、FRBが公表した経済見通しに含まれる政策金利のドットチャートを前回と比較したものですが、2025年末の政策金利の中央値が3.9%(年内2回利下げ)で変わっていないことが確認できます。

ただし、これは不確実性があまりに高いため、前回の中央値が変わらない方が良いとの意識が、多くのFOMC参加者の間で働いた可能性があると筆者はみています。


異常に高まる不確実性~スタグフレーションを意識するFRB~

 不確実性が高いことは経済見通しを見ればよく分かります。図表2には、見通しの中央値(Median)と範囲(Range)を示しています。この実質GDP(Change in real GDP)(国内総生産)を見てください。


 数字はその年の10-12月期の前年比を示していますが、2025年を見ると、前回12月の2.1%から、今回1.7%に下方修正されています。これだけでも景気の見方がかなり慎重化したことが分かりますが、右の範囲(Range)を見てください。


図表2 3月FOMCで公表された経済見通し
3月は日銀、FRBともに動かず~トランプ関税に身構える中央銀行~(愛宕伸康)
出所:FRB、楽天証券経済研究所作成

 FOMC参加者19人の予測の最高値と最低値を示していますが、その2025年を見ると、前回が1.6~2.5%で0.9%ポイントの幅だったものが、今回は最低値が大幅に下振れて1.0~2.4%と、1.4%ポイントに幅が拡大しています。それだけ予測値が下方にバラついたことを表しており、景気に対する不確実性が高まったことを示唆しています。


 さらに物価の見通し(PCE inflation)を見てください。これもその年の10-12月期の前年比を示した数字ですが、2025年を見ると前回の2.5%から今回2.7%へ0.2%ポイント上振れています。コアPCEデフレーターも2.5%から2.8%に上振れています。


 GDP成長率が下振れてインフレ率が上振れる、景気停滞(Stagnation)とインフレ(Inflation)が同時に発生するスタグフレーション的な様相を呈していることが分かります。


 いやいや、成長率はプラスじゃないか、スタグフレーションだなんて大げさな、と思われた読者もいらっしゃるでしょう。

パウエル議長も記者会見で、景気と雇用には自信を示しています。しかし、パウエル議長の言葉とは裏腹に、経済見通しに掲載されたある重要な図表が、FOMC参加者がスタグフレーションの発生に身構えていることを示しています。


 経済見通しの10~12ページにある「不確実性とリスク」(Uncertainty and risks)という図表です。それを図表3に再現しました。


図表3 経済見通しの不確実性とリスクバランス
3月は日銀、FRBともに動かず~トランプ関税に身構える中央銀行~(愛宕伸康)
実質GDP見通し

3月は日銀、FRBともに動かず~トランプ関税に身構える中央銀行~(愛宕伸康)
出所:FRB、楽天証券経済研究所作成

 図表3の実質GDPを見ると、不確実性が高いと答えた参加者が19人中17人、リスクバランスが下振れ方向(downside)に傾いていると答えた参加者が19人中18人と、1人を除く全員が実質GDPは下振れる可能性が高いとみています。


 物価(PCEデフレーター)についても、不確実性が高いと答えた参加者が19人中17人、リスクバランスが上振れ方向(upside)に傾いていると答えた参加者が19人中18人となっています。


 このように、ほぼ全員が実質GDPは下振れリスク、物価は上振れリスクが高いとみており、こうした極めて珍しく極端な構図は、それだけトランプ政権の政策が経済・物価に与える影響が見通し難く、従って今回の経済見通しの数字がいかにナイーブな(簡単に変わり得る)ものかを示しているといえます。


 こうした政策の不確実性は、日本銀行の政策運営にも大きな影響を及ぼしています。


日本銀行も3月は予想通り現状維持~次回利上げは6月、早ければ5月~

 日本銀行の3月MPM(金融政策決定会合)も、予想通り現状維持という結果になりました。内田真一副総裁が3月5日の講演で、「想定される程度のペースの利上げであれば、経済の反応を確認しながら進めていけるだろう」、「その範囲内であれば、毎回利上げしていくようなペースではない」と、現状維持を仄めかしていたこともあり、サプライズはありませんでした。


 植田和男総裁は記者会見で、トランプ政権の関税引き上げなどが経済・物価に及ぼす影響が不確実であることが、現状維持を決めた背景にあると丁寧に説明した上で、特にハト派的でもタカ派的でもない言い回しで、次回以降の全てのMPMでの利上げの可能性を、上手に残したという印象を受けました。


 特に印象に残った植田総裁の発言は、以下の通りです。


(米や生鮮食品の価格高騰について)
コメを含む食料品の価格上昇は、それ自体は天候要因等を背景とするものだとしても、家計のマインドや予想物価上昇率の変化を介して、基調的な物価上昇率に2次的な影響を及ぼし得る点は認識しておく必要がある。


見通し通りに推移すれば、見通し期間の後半には基調的物価も2%に到達するという見通しをおいているので、上振れ要因が基調的物価について出てくるということは、そこから上振れるということを意味しており、それは緩和度合いの調整を早めるという方向に働く可能性がある。


(春闘について)
春闘の一次集計はオントラックの中でもやや強めであったと見ている。今日の決定会合でも一部の委員からは物価の上振れリスクについて引き続き注意したいとの発言もあった。


(トランプ政権の政策など海外発の不確実性について)
海外発の不確実性のところは…定量的にうまく把握できる段階では必ずしもないが、4月のはじめにはある程度のところが出てくるかもしれないという状況であり、次回決定会合は展望レポートがあるが、その中である程度消化できるかと思う。


アメリカや海外の不確実性が高い中で簡単に判断できない状態にある。4月初めにかけて(トランプ政権の政策が)もう少し明らかになった時点で、再度見通し等を検討し直したい。


出所:各種資料より楽天証券経済研究所作成


 このように、物価の上振れリスクを意識していること、トランプ政権の政策の影響については4月にある程度分析を進めること、さらには記者から市場が予想している半年に1回程度のペースの利上げについて問われ、特に否定しなかったことなどを踏まえると、次回利上げは「6月がメインシナリオ、早ければ5月」で変更する必要はないとみています。


(愛宕 伸康)

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