日本株は5週連続で上昇したものの、足元では上値の重さも意識され始めています。テクニカル分析では過熱感も指摘される中、今週は日米の関税交渉や米国の格付け引き下げなど、好悪材料が入り混じる相場となりそうです。
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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 強弱入り混じる相場ムードの中、上値を追えるか?<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」
日本株は5週連続で上昇も、上値の重たさが出てきた?
先週の国内株市場ですが、週末5月16日(金)の日経平均株価は3万7,753円で取引を終え、前週末終値(3万7,503円)からは250円高となりました。東証株価指数(TOPIX)の終値も2,740pで週末を迎え、前週末比で6.96p高となっています。
週間ベースでは、日経平均とTOPIXがともに5週連続で上昇した格好ですが、その一方で上値の重たさも出てきた印象です。
<図1>日経平均(日足)の動き(2025年5月16日時点)

実際に日足チャートで確認すると、先週の日経平均は週の前半に節目の3万8,000円台や200日移動平均線を上抜ける場面がありました。
特に、13日(火)の高値(3万8,494円)は、3月26日の高値(3万8,220円)を上回り、急落前の株価を回復することができたのですが、週末にかけては、この株価水準を維持できず、また、ローソク足の形を見ても、実体(始値と終値で構成させる四角い箱の部分)が短い、「コマ足」が多くなっています。
一般的に、コマ足は「買いと売りがせめぎ合っている」、もしくは「手控えや様子見が強い」状態の時に出現する傾向があります。
先週に頻発したコマ足は前者と後者のどちらに該当するのかが気になるところですが、先週の東証プライム市場の売買代金の推移を見ていきます。12日(月)が4兆8,542億円、13日(火)が6兆169億円、14日(水)が5兆4,483億円、15日(木)が4兆7,778億円、16日(金)が4兆4,706億円となっていました。
<図2>東証プライム市場の売買代金と騰落銘柄の状況

4月中旬の薄商い(3兆円台)だった時期と比べると、取引量が多くなっているため、前者の「買いと売りがせめぎ合っている」状態によるコマ足と判断することができそうです。
<図3>TOPIX(日足)の動き(2025年5月16日時点)

また、TOPIXについては、株価が200日移動平均線から上放れる格好となっていますが、直近の高値(3月26日の高値2,821p)には届いておらず、節目の2,800pを前に、週末にかけて失速していった様子が読み取れます。
さらに、ローソク足のコマ足が多くなっていることも、日経平均と共通しています。
したがって、今週の日本株は「再び買いの勢いを取り戻すことができるか?」が焦点になるわけですが、日経平均もTOPIXも足元でコマ足が多くなっていることを踏まえると、(1)さらに株価の上値を追っていく展開(2)先週からの株価失速の流れが続いてしまう展開、そして、(3)せめぎ合いが継続する展開も想定できてしまうため、相場シナリオを描く難易度は高いと言えそうです。
テクニカル分析的には過熱感で上値追いづらい?
では、(1)~(3)のうち、どのシナリオになりそうなのかについても考えていきたいと思いますが、テクニカル分析の視点で見ると、(2)もしくは(3)の可能性が高いかもしれません。
その理由として、株価が4月7日に底打ちしてから、順調過ぎるぐらいのペースで戻り基調を描いてきたため、短期的に相場の過熱感が生じている点が挙げられます。
具体的な事例として、東証プライム市場の値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の「騰落レシオ」を見ていきます。
<図4>東証プライム市場の「騰落レシオ(25日間)」の推移

騰落レシオとは、株式相場の「買われ過ぎ」や「売られ過ぎ」を見るテクニカル指標で、一定期間の値上がりと値下がりのそれぞれの銘柄数合計の比率を表したものです。
通常は、25日間で計算されることが多く、計算式は以下になります。
騰落レシオ(%)=25日間の値上がり銘柄数合計÷25日間の値下がり銘柄数合計×100
騰落レシオの値が120%を超えると「買われ過ぎ」、70%を下回ると「売られ過ぎ」の目安となりますが、先週末16日(金)の騰落レシオは135.98%、その前日15日(木)が146.54%と、買われ過ぎ目安の120%を超えています。図4のチャートを過去にさかのぼってみても、かなり高い値であることが分かります。
また、株価の移動平均線乖離(かいり)率でも短期的な過熱感が出ている様子がうかがえます。
<図5>日経平均の移動平均線乖離率(25日)のボリンジャーバンド

上の図5は日経平均の25日移動平均線乖離率をボリンジャーバンド化したものです。
図を見ても、乖離率(ピンク色)がほとんどの期間でプラスマイナス5%の範囲内で動いていることが分かりますが、先週は13日(火)にプラス9.04%まで乖離が進み、週末には16日(金)の乖離率がプラス5.91%まで低下しましたが、まだプラス5%を超えています。
チャートをさかのぼって、過去に乖離率がプラス5%を超えてピークをつけた後の推移を見ると、いずれも中心線(MA)までは修正が進んでいたため、もうしばらく売りに押されるかもしれないことは意識しておく必要がありそうです。ちなみに、先週末時点の中心線(MA)はプラス1.11%ですので、目先はここまで修正が進む可能性があります。
今週の相場環境は好材料と悪材料が入り混じる
続いて、相場環境の視点からも材料を整理していきます。
先週の株式市場の推進力として、米トランプ政権の動きが大きく影響しました。具体的には、英国との関税交渉が合意に至ったほか、対中国の関税率の大幅引き下げなどの米中関係懸念が後退したこと、13日(火)から16日(金)にかけてトランプ大統領が米テック企業の幹部を伴って中東3カ国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール)を訪問し、投資やいくつかの商取引が決まるなど、中東ビジネス拡大期待が高まったことが挙げられます。
これらを受けて米国株市場が大きく上昇し、その流れが日本株にも波及した格好です。
ただ、先ほども見てきたように、テクニカル分析の視点では株価上昇による過熱感も出てきており、さすがに、これらの材料だけで上昇し続けるのは難しいと思われます。
もちろん、来週28日(水)に予定されている米半導体大手の エヌビディア(NVDA) の決算を前に、このまま上昇の勢いが続くシナリオも十分に有り得ますが、やはり新たな買い材料が欲しいところです。
期待されそうな材料としては、今週の後半に実施が見込まれる3回目の日米関税交渉で進展が見られるかになります。スケジュール的には週末まで待つことになりますが、今週20日(火)には、G7の財務相・中央銀行総裁会議がカナダで開催されるため、開催期間中に日米の2国間協議が設けられる可能性もあり、週の早い段階で関税交渉を織り込む動きを見せるかもしれません。
一方で、米国では株式市場にとってネガティブな材料になりかねない動きも出てきています。
そのひとつが、先週末16日(金)に格付け会社のムーディーズが発表した、米国の信用格付けの引き下げです。これにより、主要格付け会社である、S&P、フィッチ、ムーディーズの全てで、米国の格付けが最上位から引き下げられたことになります。
格下げを受けた米国市場ですが、債券市場では債券売りとなり、米10年債利回りが上昇しましたが、上昇幅は小幅にとどまり、株式市場は株高基調を維持して取引を終えるなど、これまでのところ、初期反応は限定的です。
ムーディーズは2024年の段階で格下げ見通しを発表していて、格下げ自体はすでに想定済みでした。しかし、今回の格下げによって、米国の財政赤字に対する注目度が高まり、6月27日まで延長されている特別措置の期限を前にした債務上限の引き上げ議論や、米トランプ政権の目玉公約でもある減税法案の行方にネガティブに働くことも考えられるため、今後も警戒しておく必要があります。
実際に、先週12日(月)に米下院の共和党が減税法案を公表し、5月中の下院での可決を目標に審議入りしていますが、審議が難航するような状況となれば、株式市場にとって逆風になることも考えられます。
したがって、今週の相場環境は強弱感が交錯する不安定な展開になると思われ、積極的な売買が手掛けづらくなるかもしれません。
(土信田 雅之)