先週の日本株は6週ぶりに下落し、失速の兆しも見え始めてきました。その背景には、トランプ米大統領の関税政策への警戒感が再燃したことが挙げられます。

テクニカル分析の視点からは短期的な売りと中期的な買いのサインが混在しており、今後の相場はかつての「レンジ相場」が続く可能性もありそうです。


日経平均、短期売り vs 中期買いの綱引き。レンジ相場入りか...の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 日経平均の「レンジ相場」再び?~「短期vs中期」の構図から見えるもの~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」


失速の兆しも出てきた先週の日本株

 先週末5月23日(金)の日経平均株価は3万7,160円で取引を終えました。前週末終値(3万7,753円)からは593円安となり、週間ベースでは6週ぶりに下落に転じました。


<図1>日経平均(日足)とMACDの動き(2025年5月23日時点)
日経平均、短期売り vs 中期買いの綱引き。レンジ相場入りか?
出所:MARKETSPEEDII

 あらためて先週の日経平均の値動きを日足チャートで振り返ると、200日移動平均線を挟んだ攻防戦から、下放れする展開となり、失速の兆しを見せる格好となりましたが、その一方で、75日移動平均線がサポートとして機能しています。


 そのため、相場が崩れた印象にはなっておらず、下値での買い意欲も感じられますが、週末23日にMACDがシグナルを下抜けるクロスの出現が確認できます。


 加えて、MACDが高いところに位置する中で出現したクロスであるため、目先は売りに押されやすい展開には注意したいところです。


週明けの取引は、再燃したトランプ警戒の消化が焦点

 そのような状況下で迎える今週の株式市場は5月の最終週となりますが、週初26日の米国市場がメモリアルデーで休場となる中、国内株市場は先週末あたりから再燃してきたトランプ米大統領の動きへの警戒感を消化することになります。


 先週のトランプ米大統領の動向をチェックすると、動きが活発化しています。例えば、決算発表と同時に一部商品の値上げを発表した米小売大手の ウォルマート(WMT) については、「関税を理由に値上げをするな」と言及したほか、米ハーバード大学に対しては、留学生の受け入れ資格の取り消しを表明しました。


 さらに週末には、米 アップル(AAPL) に対して「iPhoneを国内で生産しないと少なくとも25%の関税を払うことになる」と発表。欧州連合(EU)に対しては、米国との貿易交渉で譲歩をしなければ「6月1日から50%の関税を課すべきだ」とSNSを通じて発言しています。


 とりわけ、後者の2つについては、最近まで不安が後退していた関税絡みの動きでもあり、少なからず株式市場への影響は避けられそうにありません。


 実際に、国内外の株価指数のパフォーマンス比較のチャートを見ると、足元で軟調気味になっている様子がうかがえます(下の図2)。


<図2>国内外の株価指数のパフォーマンス比較(昨年末を100)(2025年5月23日時点)
日経平均、短期売り vs 中期買いの綱引き。レンジ相場入りか?
出所:MARKETSPEEDIIおよびBloombergデータを基に作成

 しかしながら、相互関税の発表で急落した4月あたまの頃と比べると、株価の下落は限定的であり、今のところはそこまで「売りモード」が強まっている感じではありません。


 4月の相互関税発表直後に90日間の一時停止措置を講じたり、中国との関税引き上げ合戦についても、結局は引き上げ過ぎた分を撤廃したりするなど、現在の市場では、過度な関税はあくまでも交渉のためのカードという見方が優勢となっていて、良くも悪くも「トランプ慣れ」している面が反映されたと思われます。


 とはいえ、6月1日(日)のEUへの関税引き上げまで時間がなく、まずはEU側の反応が注目されます。中国のような対抗措置を打ち出すのか、もしくは引き続き交渉を続けるのか、仮に交渉継続となった場合でも、米国側が問題視している課題、付加価値税や米テック企業への規制や訴訟について、どこまでEU側による譲歩の用意があるのかが次の焦点となります。


 場合によっては、日本や他の国に対してもトランプ米大統領が動きを見せることも考えられるため、ここに来て関税をめぐる事態の不透明感が強まったことは、積極的な売り材料にならなくとも、相場の上値を抑える材料にはなりそうです。


 さらに、4月の時のように、市場が米国の「トリプル安(株安・債券安・通貨安)」で圧力をかけて、トランプ米大統領の動きを牽制する展開も考えられます。


 このほか、28日(水)に予定されている米半導体大手の エヌビディア(NVDA) の決算を受けた市場の初期反応なども注目されそうです。


週足チャートから見た「短期売りvs中期買い」をどう見るか?

 これまで見てきたように、週初の株式市場は短期的に軟調な展開が見込まれますが、ここからは中長期の視点でも考えて行きます。


 中長期的な相場を見ていく上で気になるのは、「目先の株価が軟調となった場合、買いを入れてもOKなのか?」という点です。


<図3>日経平均(週足)とMACD(2025年5月23日時点)
日経平均、短期売り vs 中期買いの綱引き。レンジ相場入りか?
出所:MARKETSPEEDII

 そこで、週足の日経平均とMACDでトレンドの動向を見て行きます。


 上の図3は、日経平均とMACDの週足バージョンになります。

まず、移動平均線に注目すると、株価の安いところから、13週・26週・52週と期間の短い移動平均線が順番に並んでいることが読み取れます。


 この状況は「パーフェクト・オーダー(PO)」と呼ばれ、相場に方向感が出始めたり、トレンドが発生している状況を示しているとされ、この場合は下落トレンドを意味しています。逆に、チャートを過去に遡ると、2023年の春先に、株価の高いところから順番に並ぶパーフェクト・オーダーが出現し、長期的な上昇トレンドを描いて行ったことが確認できます。


 そのため、移動平均線から見た週足ベースの日経平均は、「まだ下落トレンドの最中」ということになりますが、下段のMACDに視線を向けると、MACDがシグナルを上抜けるクロスが出現しており、トレンド転換の兆しも出ています。


 図1の日足チャートでのMACDでは下抜けクロスが出現したため、「短期的には売り」ということになりますが、週足チャートのMACDで出現した上抜けクロスがサインとして有効ならば、「中長期的には買い」ということになります。


 また、短期的にもあまり株価が下がらない展開も考えられます。


<図4>日経平均と国内株市場の新高値&新安値の更新銘柄数(2025年5月23日)
日経平均、短期売り vs 中期買いの綱引き。レンジ相場入りか?
出所:取引所データ、各種報道等を基に作成

 上の図4は、2025年に入ってからの日経平均と、国内株市場の新高値および新安値の更新銘柄数を示したものです。


 高値にしても安値にしても、「新値を更新している」ということはその銘柄にトレンドが発生していることを意味します。一般的な傾向として、新高値を更新する銘柄が増えれば相場全体も強く、逆に新安値を更新する銘柄が増えれば相場全体も弱くなります。


 図4を見ても、日経平均の下落局面では新安値銘柄数が多くなっていることが読み取れ、日経平均が今年の安値をつけた4月7日の新安値更新銘柄数は1,328銘柄だったことが分かります。


 5月半ばに日経平均が3万8,000円台を回復して以降、株価の失速に伴って新安値銘柄も目につくようになっていますが、それ以上に新高値銘柄も存在しているため、そこまで相場の地合いが悪くなっている印象はありません。


 仮に、足元の相場が軟調になった場合でも「まだ個別で買える」銘柄があるうちは、日経平均の目先の下値は3万6,000円ぐらいが意識されるかもしれません。


日経平均のレンジ相場再び?

 今後の日経平均の中長期的な見通しについて、もう少し踏み込んで考えて行きます。


<図5>日経平均(週足)の動き(2025年5月23日時点)
日経平均、短期売り vs 中期買いの綱引き。レンジ相場入りか?
出所:MARKETSPEEDII

 図3でも確認したように、週足ベースで見た足元の状況は、下落のパーフェクト・オーダーであることは先ほども確認した通りです。


 上昇のパーフェクト・オーダーも含め、より長期間の週足チャートで、パーフェクト・オーダーが出現したところを辿っていくと、大まかな日経平均のトレンドを掴むことができます。前回、下落のパーフェクト・オーダーが出現したのは2022年1月でしたが、2023年4月に上昇のパーフェクト・オーダーが出現するまで、レンジ相場が続いていたことが確認できます。


 これまでのレポートでも何度か指摘してきたように、2025年に入ってからの相場環境は、米トランプ政権の影響で不確実性が強まっているため、相場が織り込むことができる先行きの時間軸が短くなってしまい、中長期のシナリオを描くのが難しくなっています。


 したがって、株価が52週移動平均線から大きく上放れするほどの強い買い材料が出てこない限り、短期間で本格的な上昇トレンドに転換する可能性は低く、当面は目先の材料に反応しつつ、様子を見ながら株価の落ち着きどころを探るレンジ相場の展開が続くことになりそうです。


(土信田 雅之)

編集部おすすめ