米トランプ政権が発表した「相互関税」は、想定以上に厳しいと受け止められました。これを受け、日本株市場は大幅な下落となりましたが、意外にも投資家の冷静な反応も伺えます。
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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 米「相互関税」に揺れた今後の相場はどうなる?~ 「慌てず、騒がず、怯まず」で臨みたい局面 ~ 」
「相互関税」のインパクト大も、日本株の反応は意外と冷静?
世界中が固唾(かたず)を呑んで待ち構えていた、米トランプ政権の「相互関税(Reciprocal tariffs)」が、ついに日本時間3日(木)午前5時(現地時間2日午後4時)に公表されました。
これを受けた3日(木)の日本株市場は下落で反応し、日経平均株価は取引開始直後に前日終値比で1,600円を超えて下げる場面があったのですが、その後は値を戻し、下げ幅が大きいこと自体に変わりはないものの、パニック的に「売りが売りを呼ぶ」展開にはなっておらず、意外と冷静だった様子も感じられます。
<図1>2025年4月3日の日経平均(1分足)の動き

上の図1は、4月3日(木)の日経平均の1分足チャートです。
いわゆる「窓」空けを伴う一段安でスタートし、直後の9時9分に3万4,102円まで下げ幅を拡大していきましたが、結局これがこの日の安値となり、以降は取引終了まで3万4,500円水準を意識したもみ合いが続いていたことが分かります。
売り崩す動きにならなかったのは好材料ですが、その一方で、上値については、「窓」を埋めにいく動きにもならなかったことを踏まえると、安心感や買い戻しを促す材料が欲しいところです。
続いて、日足チャートでも、今後の日経平均の値動きの目安について考えてみたいと思います。
<図2>日経平均(日足)の動き(2025年4月3日時点)

一般的に、株価が高値から10%下げると調整相場、20%下げると弱気相場入りするとされています。
日経平均は昨年7月11日の取引時間中に4万2,426円の高値をつけましたが、そこから「弱気相場」の目安とされる20%安は3万3,940円で、3万4,000円台を少し割り込んだ水準になります。
3日(木)の取引では、3万4,000円台割れをトライするような動きは見られませんでしたが、今後も一喜一憂しながら株価が推移していくと思われ、3万4,000円台の維持が焦点になってきます。
このように、チャートから見た日経平均は、一応「下げ止まってほしい」ところで踏みとどまるなど、冷静さを見せながらも、株価が下振れしていくシナリオ(3万4,000円台割れ)もしっかり残す格好になっているため、注意が必要です。
あらためて相互関税について整理
ここからは、今回発表された相互関税について、あらためて整理していきたいと思います。
ニュースなどでは、「想定していたよりも厳しめ」の内容とされ、日本に対しては24%、EU(欧州連合)は20%、中国は34%、インドは26%といった関税率の数字がインパクトを持って報じられました。
金融市場もそれに合わせて動いたような印象ですが、まず、今回の相互関税について簡単にまとめると、「全ての国や地域に一律で10%の関税」を課し、そこからさらに、「国ごとに異なる税率」が上乗せされるという2段階の構図になっています。
つまり、日本の税率(24%)のうち、14%が上乗せ分ということになります。また、すでに公表され、実施予定である分野別の関税(自動車や鉄鋼・アルミ製品)については相互関税の対象外となり、同じく、すでに関税が賦課されているカナダやメキシコも今回の相互関税の対象から外されています(将来課税される可能性はありますが…)。
また、ベッセント米財務長官が、今回示された相互関税率は、「基本的に上限の役割を果たすもの」と米下院議員に説明したと、米CNBCの記者がSNSに投稿したことなどから、今後の交渉次第では上乗せ税率の軽減の可能性が残されており、少なくとも相互関税については、「今が最悪の状況で、今後は改善していくかも」という見方ができます。
ちなみに、今回の相互関税は、10%分が現地時間5日(土)午前0時1分(日本時間5日午後1時1分)、上乗せ分が9日(水)午前0時1分(日本時間9日午後1時1分)にそれぞれ発動されます。
特に、上乗せ分が発動する来週9日(水)までに、軽減措置がとられるモデルケースが出てくる、もしくは出てきそうな場合には、株式市場が好感して上昇することもありそうなため、目先の焦点の一つになりそうです。
今後のポイントは?
また、関税政策を含めた米トランプ政権の動きが、米国経済にどこまで下押し圧力となるのかも焦点になります。
米国では2月後半あたりから、公表される経済指標の中に景気の減速を示唆するものが増えており、今週も、1日(火)に公表された3月ISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況指数が、好不況の分かれ目とされる50を3カ月ぶりに下回る結果となっています。
項目別に見ても、生産や新規受注が低下する一方、在庫が上昇する傾向が目立ち始めています(下の図3)。
<図3>直近の米ISM製造業景況指数の推移

今週末には雇用統計、来週はCPI(消費者物価指数)などのインフレ指標、再来週には小売売上高などの発表を控え、これらを確認しながら、「米国の景況感に対する不安が現実のものになっていくのか?」の答え合わせをしていくことになりますが、景気減速とともにインフレが再燃する「スタグフレーション」が進行してしまう展開には注意する必要があります。
これに加え、今月の中旬からは日米の企業決算が本格化するタイミングでもあり、業績の内容とともに、企業が先行きをどのように見ているのかも相場のムードに影響を与えそうです。
こうした実体経済の動向とともに、先ほどの3万4,000円台を維持できるかといったテクニカル面と併せて、「慌てず、騒がず、怯まず」の姿勢で相場に臨みたいところです。
(おまけ)中国の動きにも注意?
今回の相互関税をめぐっては、中国の反応も注目されます。
先ほど、すでに関税が賦課されているカナダとメキシコは相互関税の対象外になった旨を述べましたが、中国については対象外ではなく、すでに賦課されている20%の追加関税に加えて、今回の相互関税(34%)が加わります。
これにより、トランプ米大統領が選挙戦時に掲げていた「中国に対して60%の関税をかける」という公約の税率に近づくことになりますが、中国にとっては米国からの一連の関税措置はかなり厳しいものになります。
これに対し、中国商務省は3日(木)に、こうした関税措置を撤回するよう要求するとともに、報復措置を講じることを宣言しており、貿易戦争化が懸念されます。
実は、米中関係についてはそれだけでなく、相互関税が打ち出されたのと同じ日に、トランプ米大統領が、中国からの小型輸入品に対する関税の免除措置(デミニミス・ルール)を廃止する大統領令に署名しています(廃止の実施は5月2日から)。
近年、免税ルートで米国に入る小型荷物の数が急激に増加していて、その約60%が中国から発送されたものですが、中でも、「Temu(テム)」や「SHEIN(シーイン)」を筆頭に中国の格安EC業者の存在感を放っていました。
安価な中国製品の免税ルートでの流入を防ぐのが目的とされ、こうした動きも中国からの反発を招くことになりそうです。
このほか、中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の米事業売却をめぐる動きもあり、米中対立が深まってしまう展開にも警戒しておく必要がありそうです。
(土信田 雅之)