2025年4月のビットコイン市場は、トランプ政権の仮想通貨政策や地政学的リスク、金融政策の変調など、複数の要因が影響を与えています。特に、戦略ビットコイン準備(SBR)の創設や関税を巡る不透明感が市場に大きな影響を及ぼしています。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の松田 康生が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 ビットコイン下落。米国株安によるETF低迷と準備資産化への失望…。でも、底入れは近い?~4月のビットコイン見通し~ 」
3月のビットコインイベント
NEW! 3月6日 戦略ビットコイン準備創設、大統領令に署名 NEW! 3月7日 ホワイトハウスで暗号資産サミット開催 NEW! 3月25日 リップル裁判、控訴取り下げ・和解で実質終結*2025年1月以降の主なビットコインイベントは記事最終ページにまとめています。
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材料面から見た4月見通し
3月の振り返り
3月のビットコイン価格(円)とイベント

3月のBTC相場はもみ合い推移。上は9.5万ドル、下は7.6万ドルと上下に行き来となったが、おおむね8万ドル台でのレンジ取引が続いた。ただし、戦略ビットコイン準備創設、米大統領として初の暗号資産イベント登壇、リップル裁判の終結といった大きめの材料があった割に上値の重い展開となった。
フローの低迷
相場がさえなかった直接の原因のひとつはETF(上場投資信託)フローの低迷だ。2024年2月や11月など、BTC相場が大きく上昇する時期には、週で20億ドル前後の資金流入が見られたが、今年2月半ばから5週連続の流出となり、2月の最終週には過去最高となる26億ドルの流出を記録した。
また、昨年11月以降、購入ペースを速めていたストラテジー社(旧マイクロストラテジー)の購入も3週間ストップした。
BTC米現物ETFフローとBTC/USD相場

こうしたフローの不振の背景は米株の不振だ。S&P500種指数は、2月19日に史上最高値を更新してから3月13日まで約1割下落。その後、しばらく持ち直したが、3月末に再び弱含んでいる。こうした動きが、BTC投資家の心理を冷えさせている可能性が高い。
分散投資の一部にBTC ETFを組み入れている投資家は、株が下がっている間はETFを増やし難いし、場合によっては利が乗っているETFを売却することは想像に難くない。大ざっぱに言って、BTC ETFは昨年1月のローンチ以降、流入した約400億ドルのうち2月半ば以降の5週間で50億ドルが流出した格好だ。
また、株式市場の底が見えない間は、転換社債や優先株といった株価頼みのストラテジー社の資金調達に応じる投資家は少なそうだ。実際、株価が持ち直した3月後半に、同社は優先株で約30億ドルの調達に成功している。
S&P500とBTC/USD

では、株が低迷している原因は何だろうか?
これは一概には言えないが、トランプ関税による景気減速リスクと不透明感が大きそうだ。トランプ関税は当初フェンタニル(麻薬)の取り締まり強化を求めるカナダ・メキシコ・中国向けの関税から始まり、鉄鋼・アルミニウム、自動車、そして相互関税へと広がった。
これに対し、欧州やカナダ、中国などが報復関税で対抗する一方、日本、韓国、ブラジル、英国、オーストラリアなどは免除交渉を優先するなど、各国が振り回されている。
この結果、関税を材料に各国との交渉を有利に進める試みは、ある程度成功しているのかもしれないが、トランプ大統領の一言一言に振り回された結果、市場には先行きに対する不安感が膨らんでおり、ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、トランプ関税が近年まれに見る不透明感をもたらしていると警告している。
4月2日(日本時間3日)の相互関税は想定していたものよりかなり高い印象で世界経済への影響が懸念されたが、ベッセント米財務長官は、「報復などの対抗措置がなければ、この水準が最大だ」と明言し、先行きに対する不透明感は後退している。
失望売り?
2024年11月のトランプ再選を受けて急騰したBTCだが、2025年1月20日の就任式直前に10.9万ドルを付けピークアウトし、一部では、戦略ビットコイン準備(Strategic Bitcoin Reserve:SBR。米国政府がビットコインを、重要な準備資産として保有すること)が検討事項にとどまったことが失望売りを呼んだと指摘された。
3月に入り、トランプ氏がSNSで「米国の戦略的仮想通貨準備金として正式にBTC、ETHはもちろんリップル(XRP)、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)を含む主要仮想通貨を準備金として備蓄すること」を表明すると、BTCは8万ドル近辺から9.5万ドルに急伸。
しかし、3月6日の大統領令で正式に創設が決まると9万ドルを割り込み、前述のトランプ関税を巡る不透明感も重なって、一時7.6万ドル台に失速した。あれだけ待ち望んだトランプ政権の誕生と戦略備蓄の創設を受けて、ビットコインが失速したのはなぜだろうか?
まず戦略準備は二つに分かれる。犯罪などで押収したビットコイン約20万BTCで形成される戦略ビットコイン準備と、同じく押収したアルトコイン(ビットコイン以外の 暗号資産の総称)で形成される戦略デジタル資産備蓄だ。
前者は売却しないと定められているが、後者は売却の可能性がある。さらに、前者は予算中立的な方法で追加購入方法の検討を財務長官と商務長官に指示されている。

1 戦略BTC準備(Reserve)
・米政府が犯罪などで押収した20万BTCで創設、売却しない
・納税者負担を発生させない形で追加購入可能
・追加購入方法を財務長官・商務長官に検討指示
2 戦略デジタル資産備蓄(Stockpile)
・米政府が犯罪などで押収したアルトコインで創設
・当面売却しないが、売却の可能性あり
・追加購入しない
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文中4行目の財務長官と商務長官というのがミソで、前者は金準備(Gold Reserve:GR)を管轄しており、後者は戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve:SPR)の処分権限を持つ。要はGRやSPRを売却してSBRを増やす方法を考えろというわけだ。
具体的には財務省がFRB(米連邦準備制度理事会)に預けている金証書の簿価約42ドルを、現在の約3,000ドルに時価評価して、評価益でビットコインを購入する案が有力視されている。「失望売り」が出るというより、当初想定より手厚い印象だ。
では、なぜ売られたのか?
これはいわゆる「Sell the Fact(うわさで買って事実で売れ)」が原因の一つだと考えられる。ビットコイン市場は買い材料が見込まれると期待先行でオーバーシュートし、実際に材料が出た時には逆に売られる傾向が強い。
2017年のピークはCME(シカゴ先物取引所)先物ローンチ日だったし、2021年はコインベース上場日とCME先物ベースのETFローンチのタイミングでピークアウトしている。最近では昨年1月の米ETFローンチ時にもいったんピークアウトしており、今回の大統領就任直前やSBR発表直前にピークアウトするのは典型的なパターンだ。
地政学的リスク
もう一つ、上値を重くした要因として、地政学的リスクが挙げられる。2月12日、トランプ大統領はプーチン大統領と電話会談を行い、停戦交渉の開始に合意。3年間ビクとも動かなかった和平交渉が動き始めた。
ところが、2月28日のトランプ大統領とゼレンスキー大統領との会談において、テレビカメラの前で口論が始まるという衝撃的な形で決裂し、3月3日、米国はウクライナへの軍事支援を凍結した。
この結果、ゼレンスキー大統領は停戦交渉に応じる構えを見せたが、今度は米国の支援が凍結され、戦場で優勢となったロシアが交渉に後ろ向きになり始めた。3月25日に何とかエネルギー・インフラ施設への部分停戦で合意しかけたが、すぐさま両者とも相手が合意を破ったと主張し始め、事態は混とんとしている。
同時にいったん停戦が始まったガザ地区でも延長交渉が決裂、イスラエルによる空爆が再開されている。
金融政策の変調
こうした中、予想で定評があるビットメックス(仮想通貨のデリバティブ取引(レバレッジ取引=FX)に特化している海外の仮想通貨取引所)の元CEOのアーサー・ヘイズ氏は、「3月11日の7.6万ドルで底を打った」と従来の7万ドル予想を修正した。理由はFOMC(米連邦公開市場委員会)でバランスシート縮小(QT)の減速が決まったからだ。
そもそもBTCが買われている根本的な理由の一つに、法定通貨の減価に対する逃避が挙げられる。FRBのバランスシートの負債部分とは米ドルの発行残高を示し、これを縮小するということは、発行し過ぎた米ドルを市中から回収することを示す。それを減速し始めたということは、コロナ禍で発行し過ぎた米ドルの回収を諦め始めたことを意味する。
日米ベースマネー

実はこうした動きは世界中で発生している。コロナ禍で緊急対策として国債を発行し、中央銀行が買いとる形で市場に流動性をばらまいた。この残高自体は市中に存在するのだが、いざ中央銀行のバランスシート縮小などで回収しようにも、お金は偏在するので回収が難しくなる。
日本でも日本銀行が3年かかって国債買入を縮小しようとしているが、1年もたたないうちに植田和男日銀総裁は国債買入増額の可能性に言及し始めている。
この動きを財政側から見るとさらに難しさが鮮明となる。コロナ禍で緊急対策として増発した国債を緊縮財政や増税で回収しようとしても、過剰流動性によるインフレに苛まれた国民側は無い袖は振れないので、世界中で問題が起こっている。話題の財務省デモもこうした動きの一環だ。こうした中で、BTCの需要は強まっていくと考える。
投資家マインドの回復
関税を巡る不透明感は完全には払しょくされてはいないが、投資家マインドには改善の動きがみられる。
ストラテジー社(旧マイクロストラテジー:ビットコイン(BTC)の購入を積極的に進めている米ナスダック上場企業)は、2月23日週に20億ドル分のBTCを購入して以降、2週間購入を見送り、3月16日週の購入も10百万ドルにとどまった。ところが23日週に5.8億ドル購入すると、30日週には19億ドル購入した。
この背景には同社の資金調達に応じる投資家が存在し、2月後半から3月前半に後退した投資家のBTCエクスポージャー(保有するBTCの中でリスクにさらされている割合や量)への意欲が回復し始めた様子がうかがえる。
ストラテジー(旧マイクロストラテジー)BTC保有量

ストラテジー社にならってGameStop社(世界最大のゲーム小売り企業)が募集したゼロクーポンの転換社債も、15億ドルに増額発行となり、マイニング大手のマラソン社も20億ドルの時価発行プログラムを発表している。こうした買いによる直接的な需給改善効果もあるが、同時に投資家マインドの回復がうかがえる。
SBR登場の影響
戦略準備については追加購入による直接的なインパクトもさることながら、波及的な影響に注目したい。市場はこのSBRの影響を過小評価していると考える。
実は米国は外貨準備をほとんど持っていない。自国通貨で輸入代金を決済できる米国にはあまり必要がないからだ。その代わり金を準備資産として保有しており、約8,100トン(120兆円)にのぼる。これにSBRを加えるということは、実質的に米国が外貨準備にビットコインを採用したのと同等の意味がある。
すると、海外当局の中に米国に追随する動きが出ることは想像に難くない。
すでにエルサルバドルとブータンが資産としてBTCを保有しているが、ブラジルでは法案が審議され、ロシアやチェコ、スイスなどで検討が始まっている。また、CNBCは中東と中国での採用の可能性を報じ、ブラックロックのラリー・フィンクCEOは米ドルの準備通貨の地位をビットコインが脅かすと指摘する。
さらに、米国州政府でも検討が始まっている。すでにウィスコンシン州とミシガン州の公的年金がビットコインETFへの投資を始めているが、州政府単位でSBR創設を検討する動きも20州以上に広がり、中でもテキサス、オクラホマ、アリゾナ州などでは上下院のいずれかを通過している。
同時に企業財務によるビットコイン投資も期待される。米国政府によるビットコイン保有は、投資家にこれ以上ないお墨付きを与えた。
特に、多くの企業経営者はトランプ政権誕生からの2カ月間の激変にどう適応すべきか頭を悩ませており、政権が推すビットコインへの投資を始めようと考える企業が日本でもいくつも出始めている。水面下で動いている企業や、世界中で同様の動きが出ていることを勘案すれば相当な数に上りそうだ。
材料面からの4月の相場
このように関税を巡る不透明感やトランプ政権やSBR登場の「Sell the Fact」、さらには地政学的リスクもあり調整色を強めていたBTC相場だが、徐々に投資家のマインドが改善し、金融政策も再び緩和方向に動き始めており、SBRの追随効果から相場は持ち直してくると予想している。
テクニカルから見た4月の相場
BTC/USD(日足)

前回、長い目で見て「上昇トレンドが終わったと考えるのは時期尚早」だが、日足で見ると「重要なサポートである200日移動平均線で下ひげをつけて1回反発したが、足元で再び割り込んでおり、ここで反発できなければしばらく上値の重い展開が続きかねない」、また「下降チャネルの下限に位置し、ここでサポートされるか非常に重要な局面に達している」と申し上げた。
かくして下降チャネルは下抜け、200日移動平均線にも上値を押さえられ、トランプ再選後の安値を更新し、底固めをやり直す展開となった。足元では3月11日に付けた7.6万ドルの安値から8.8万ドル台まで切り返したが、8.9万ドルで昨年11月からのダブルトップのネックラインと一目均衡表の雲の下限に上値を押さえられている。
この水準には2月からの半値戻しや1月の高値からのトレンドラインも重なっている重要なレジスタンスで、1~2回跳ね返されるのはむしろ自然で、まだ勝負はついていないイメージだが、ここを抜ければ底打ち感が鮮明となる。
アノマリー
BTC月別騰落一覧

先月は「3月はさらに8月に次いで弱い月だが、直近4年は陽線が続いており、正直申し上げて上下どちらもありそう」と申し上げたが、上下どちらにも振れて、終わってみれば小幅安とアノマリー通りの展開となった。アノマリー的には、4月は2月・10月に次いで強い月であるため期待ができそうだ。
まとめ
4月のBTC相場は底堅い展開を予想する。
前回「この水準でサポートされれば、健全な調整として4月ごろにもう一段のピークがあるとみているが、ここを割り込むと市場心理の回復にもう少し時間を要し、10月ごろにヒトコブラクダ型のピークを見せる可能性が出てきた」と申し上げたが、結局3月にトランプ再選後の安値を更新したため、どうやら今回のピークはヒトコブラクダ型となりそうになってきた。
それでもピークからの下落率は29.9%で前回指摘した「ピークから3割弱の下落は健全な調整」の範囲内と考える。SBR登場後、「Sell the Fact」が出たが、本来買い材料でその波及効果がじわじわ出始め、上昇に転じると考える。
2025年予想

2025年 時事イベントと暗号資産イベント(最新順)
2月21日 Bybit史上最大のハッキング、被害額14億ドル 2月21日 SEC、コインベース訴追取下げ、これ以外にも法執行取り消し相次ぐ 2月19日 トランプ大統領「米国を暗号資産の首都にする」サウジ政府関連イベントで 1月30日 パウエルFRB議長「銀行は完全に暗号資産顧客にサービス提供可能」 1月23日 暗号資産大統領令・SAB121撤廃 1月20日 トランプ大統領就任・ゲンスラーSEC委員長辞任マイニングとは:暗号資産(仮想通貨)は一般的にブロックチェーンと呼ばれるネットワーク参加者が誰でも見られる元帳上に取引を記録していきます。そのブロックチェーン上に取引データを記録する際に、膨大な計算を行うことで新たなブロックを生成する暗号を見つけ出し、その報酬としてコインを手に入れる行為のことです。マイニングの主な役割は「暗号資産の新規発行」と「取引の承認」です。
BlockFiとは:暗号資産融資プラットフォームBlockFi(ブロックファイ)が提供する暗号資産を預かって利息を払うサービス(レンディング)が証券法に違反したと提訴された事件に関する和解として、SEC(米国証券取引委員会)に1億ドル(約115億円)を支払うと発表。
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(松田 康生)