4月2日、トランプ大統領の相互関税発表により市場が混乱しました。米株式市場では巨額の時価総額が消失し、景気後退の懸念も高まっています。

日経平均株価も大幅に下落し、為替市場では円高が進みました。
 パウエル議長の利下げ休止示唆でドル買いが誘発されましたが、今後のドル円は悪材料出尽くしから落ち着きどころを探る展開となりそうです。147円台半ばが重要なポイントで、今後の関税交渉や金融政策に注目が必要です。9日の相互関税発動を控え、不安定な市場が続くと思われます。


相互関税発動! ドルは急落後の反発で落ち着きどころを探す展開...の画像はこちら >>

相互関税発表後の市場の混乱

 先週4月2日(日本時間3日 午前5時)、トランプ大統領の相互関税発表が引き金になり、金融、株式、為替市場は大揺れしました。ダウ工業株30種平均は急落し、3日に4%、4日に5.5%下落し、2日間の下落幅は約4,000ドルに達しました。


 この2日間で米株式市場で失われた時価総額は6.6兆ドル(約970兆円)とのことです。トヨタ自動車の時価総額の25倍に相当する金額であり、日本人が1年かけて積み上げたGDP(経済活動)600兆円の1.5倍が2日間で消えたことになります。


 これほどの規模の資産が短期間で消失すると米国人の消費意欲に急ブレーキがかかり(逆資産効果)、米国経済も失速する可能性が高まります。米JPモルガン・チェースは3日、相互関税が変更なくこのまま発動されると「年内に米国、ひいては世界経済が景気後退に陥る確率は40%から60%に上昇」と分析するリポートを公表しました。


株式市場と為替市場の反応

 そして、週明けも日米株式市場は続落しました。7日(月)の日経平均株価は2,644円安となり、史上3番目の下落幅となりました。先週4日(金)の東京市場終了後、相互関税34%の対抗措置として中国が34%の報復関税を課すと発表したため欧米の株が一段安となり、その影響が週明けの東京市場にも及びました。


 さらに、6日(日)、トランプ大統領が大統領専用機内で記者団に対し、世界的な株急落について「何も下落してほしくないが、時には何かを治すために薬を飲まなければならない」と政策の正当性を強調しました。

週末に相互関税について緩和姿勢に転じるのではないかとの市場の期待を一蹴したトランプ大統領の発言も週明けの下落に拍車をかけました。


 7日のNYダウは一時1,700ドル以上下げましたが、終値は349ドル安で引けました。取引時間中の値幅は2,595ドルと1998年以降で過去最大を記録しました。8日の日本株は、1,876円高と史上4番目の上げ幅となりましたが、NYダウは反発後下落に転じ(320ドル安)、まだ不安定な動きとなっています。


 株はこのように上下に大きく揺れていますが、ドル/円の動きは株とは少し違った動きをしていました。2日の相互関税発表直後の1ドル=150円台半ばから、3日には1ドル=145円台前半、4日には、中国の報復関税発表によって1ドル=144円台半ばまで円高が進みました。2日間で6円の円高の動きです。


 ところが、4日、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が関税の影響をある程度認めつつも、「金融政策の適切な方向性について結論を出すには時期尚早だ」と、政策金利を当面維持する可能性を示唆したことでドル買いを誘発し、ドル/円は147円半ばまで円安に動きました。


 週明け、ドル/円は1ドル=144円台後半に再度円高に動きましたが、日米株が急落する中、1ドル=145~148円を乱高下する動きになった後、1ドル=147円台半ばを挟んだ動きとなりました。この水準は1ドル=150円半ばから144円半ばの半値近辺にあたります。


今後の市場の展望と注意点

 これらの動きから、今週のドル/円は悪材料出尽くしから落ち着きどころを探る展開をしそうです。


 相互関税は予想以上の厳しい内容、それに即刻反応した中国の報復関税発表、株暴落の中でのパウエル議長の利下げ休止宣言によって株は急落しましたが、為替市場はこれらの悪材料によって一気に1ドル=145円割れとなり、その後の反発は、悪材料出尽くしからこれ以上の悪材料が出ない限り、円高への動きは限定的だと示しているような動きでした。


 週明けも、欧米株安やトランプ発言もあって再度1ドル=145円割れで始まりましたが、1ドル=144円台半ばはサポートされました。株の暴落と比べるとドル/円の値動きは比較的冷静な動きだったといえるかもしれません。


 今週は、1ドル=150円半ばから144円半ばの半値近辺である147円台半ばを超えるかどうかに注目です。1ドル=147円半ばは重要なポイントとなりました。完全にこの水準を超えれば、「半値戻しは全値戻し」といわれるように1ドル=150円を目指す動きになるかもしれません。


 1ドル=147円半ばを一時的に超えて148円まで円安に行きましたが、定着しなければ、1ドル=145円から147円台半ばの間で落ち着きどころを探すことになるかもしれません。


 また、他国との関税交渉などで楽観的ニュースが出た時にどこまで反発するかにも注目したいと思います。そのニュースをきっかけに1ドル=147円半ばを超えて、楽観的ニュースが相次げば定着するかもしれません。


 1ドル=145円を割れてさらに円高が進むためには、さらなる悪材料が必要となります。トランプ大統領は中国に対してさらに50%の追加関税を課すと述べていますが、報復合戦がエスカレートすれば、株安は止まらず、円高材料になる可能性があるため注意が必要です。


 また、関税や株安を受けた景気後退懸念から市場はFRB高官からのハト派発言を期待していますが、パウエル議長と同様にインフレを警戒した利下げ休止発言にとどまるのであれば、失望感から株安となり、ドル安が起こるかもしれません。


 一方、日本銀行の利上げ環境は遠のくかもしれません。

トランプ関税による世界経済減速によって日本も影響を受け、景気や賃金交渉にも影響が及ぶかもしれません。日銀も追加利上げに慎重姿勢を示すことも予想され、市場の利上げ後ろ倒し観測が強まれば円安要因となります。


 一方で、パウエル議長は利下げを急ぐ必要はないとの姿勢ですが、米景気状況によってはFRBの早期利下げ観測が高まり、利下げ回数が増える見方が強まるかもしれません。


 従って、日銀の利上げが遠のいても、FRBの利下げ回数が増えるのであれば、日米金利差は縮小するシナリオが予想され、ドル/円にとっては円高の方向は変わらないかもしれません。


 9日に、相互関税は発動予定です。トランプ大統領の言う「薬」が効き過ぎなければよいのですが、まだしばらくは不安定な市場が続くと思われます。市場をコントロールできると思ってほしくないですが、やり過ぎによる市場の暴走には留意しておく必要があります。歴史は、市場はコントロールできないことを示しています。


 また、トランプ関税によるインフレ再燃懸念よりも、景気後退懸念の方が強まることも十分に予想されます。4月30日~5月1日の日銀金融政策決定会合、5月6~7日のFOMC(米連邦公開市場委員会)ではこれまでの予想シナリオとは全く違った内容が展開されるかもしれません。


(ハッサク)

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