中国の1~3月期GDP実質成長率が前年同期比5.4%増と発表されました。大方の市場予想は上回った形ですが、デフレや不動産不況は続いています。

今年期待される景気回復にとっての下振れ圧力になり得るのが、現在激化している米中貿易戦争の行方です。中国経済と米中対立の相互連動は世界経済や株式市場にとっても侮れない要素になるでしょう。


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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 中国主要経済統計発表、1-3月期成長率は5.4%。米中貿易戦争が下振れ圧力に 」


中国政府が1-3月期の主要経済統計を発表

 中国国家統計局が4月16日、2025年1-3月期の主要経済統計を発表しました。


 以下の図表で、2024年の各四半期との比較を含めて整理しました。


年月期 2025年1-3月期 2024年10-12月期 2024年7-9月期 2024年4-6月期 2024年1-3月期 成長率 5.4% 5.4% 4.6% 4.7% 5.3% 中国国家統計局の発表を基に楽天証券経済研究所作成。数字は前年同期比

 2025年1-3月期のGDP(国内総生産)実質成長率は前年同期比5.4%増ということで、大方の市場予想であった5.0%増を上回ったという結果です。前期である2024年10-12月期と比べて伸び率は横ばいでしたが、2025年の成長率目標を「5.0%前後」に据えている中国政府にとって、「とりあえず最低限の数値は弾き出せたという感触」(中国政府関係者)といったところでしょう。


 次のパートで示すように、春節(旧正月)休みを経た3月、生産がそれなりに堅調で、個人消費もなんとか持ちこたえているという経緯がこの結果につながったと言えるでしょう。一方、物価変動の影響を考慮しない、故により生活実感に近い名目GDPは前年同期比4.6%増で、2024年10-12月期から横ばいでした。

名目が実質を下回る「名実逆転」現象が発生して一定期間がたつ中国経済が、デフレ基調で推移しているという一つの証左と言えるでしょう。


 全人代を扱ったレポートで検証したように、2023年、2024年と続けて3.0%に設定されたCPI(消費者物価指数)が、今年2.0%に下方修正された事実は重く、中国政府がデフレ経済を認めた「権威ある証左」だと私は理解しました。


デフレと不動産不況続く。対外貿易も不安要素

 ここからは、GDP以外に発表された主要経済統計結果を見ていきましょう。


  1~3月 3月 1~2月 工業生産 6.5% 7.7% 5.9% 小売売上 4.6% 5.9% 4.0% 固定資産投資 4.2%   4.1% 不動産開発投資 ▲9.9%   ▲9.8% 不動産を除いた固定資産投資 8.3%   8.4% 貿易
(輸出/輸入) 1.3%
(6.9%/▲6.0%) 6.0%
(13.5%/▲3.5%) ▲1.2%
(3.4%/▲7.3%) 失業率
(調査ベース、農村部除く) 5.3% 5.2% 5.3% 16~24歳失業率
(大学生除く)     16.5% CPI
(消費者物価指数) ▲0.1% ▲0.1% ▲0.1% PPI
(生産者物価指数) ▲2.3% ▲2.5% ▲2.2% 中国国家統計局の発表を基に楽天証券経済研究所作成。数字は前年同期比

 1-3月期のけん引役の一つとなったと思われる工業生産は前年同期比6.5%増。3月は単月で7.7%増ということで、1~2月の5.9%増から伸びました。小売売上も、1~2月の4.0%増と比べ、1~3月は4.6%増と若干の伸び。3月単月は5.9%増でした。


 固定資産投資は4.2%となかなか伸びませんでしたが、9.9%下落した不動産が足を引っ張っているのは明白です。不動産を除いた投資は8.3%増ですから、不動産不況がいかに投資全体の足かせとなっているかが容易に見て取れます。私は2025年中に不動産市場を巡る各種指標がどれだけ回復するかに注目していますが、不況はもうしばらく続く感じです。


 前述したデフレの観点からすると、1-3月期、CPIは0.1ポイント、PPIは2.3ポイント下落ということで、中国経済にとって正真正銘の不安要素、リスク要因となっているのは論をまたないでしょう。中国発、世界経済にも影響を与え得る「デフレ輸出」の動向にも注目していきたいと思います。欧米をはじめ、先進国からの批判対象になるでしょう。


 最後に、次のパートとも関連しますが、貿易が不調です。1~3月は1.3%増と低迷しています。3月単月で見ると、6.0%伸びていて、輸出は13.5%増と伸び率が上昇し、輸入も3.5%下落と下げ幅が狭まっています。一方、これらは、米国のトランプ政権が4月以降追加関税を本格発動し、かつ中国も米国の輸入品に対して報復措置を取るのが必至である状況下、多くの輸出入企業が駆け込み的に取引した経緯が大きく作用していると思います。


 その意味で、ただでさえ低迷し、特に中国経済のけん引役である輸出が、第2四半期以降、トランプ関税と米中貿易戦争の激化でどの程度の打撃を受けるのか。それらが、中国経済にとってどれほどの下振れ圧力になるのかに注目していくべきだと思います。


米中貿易戦争2.0の行先が世界経済にとっても最大の懸念

  今年3月に行われた全国人民代表大会(全人代)を扱ったレポート でも言及しましたが、李強(リー・チャン)首相が行った「政府活動報告」には次の一文が記載されていました。


「世界が直面する百年未曽有の変局は加速的に変遷している。外部環境はさらに複雑、深刻になる。

それらはわが国の貿易や科学技術といった領域にさらに大きなショックを与え得る」


 第2次トランプ政権の発足、および「トランプ関税」が中国経済に与えるショックとリスクを指しているのは火を見るよりも明らかだというのが私の解釈でした。


 あれから1カ月以上が経過し、トランプ関税に世界中が翻弄(ほんろう)され、米中貿易戦争2.0が再燃どころか、再激化しているというのが現状です。


 金融市場への影響が不確実で大きすぎると判断したのか、トランプ政権は4月9日に発動した「相互関税」を翌日には取り下げ、各関係国に対して90日間の交渉・協議の猶予を与えると発表しました。相互関税を停止している間、対象国に課される関税率は10%に引き下げられます。日本の石破政権を含め、これからトランプ政権との交渉を進めていくことになりますが、厳しいプロセスになることは間違いないでしょう。


 一方の中国は米国との「関税戦争」を前に、「徹底抗戦」の姿勢を崩していません。トランプ政権発足後、2桁台で推移していた追加関税率は、私が本稿を執筆している4月16日現在、米国の対中追加関税率は145%、中国の対米追加関税率は125%にまで膨れ上がっています。「マネーゲーム」をほうふつさせる「数字のゲーム」、「どちらが先に折れるか」「先に引いた方が負け」と言わんばかりの「子供のけんか」のようですらあります。


 4月11日、中国政府が米国輸入品への追加関税率を84%から125%に引き上げる発表をした際にコメントした次の文言は、中国側のスタンスを理解する上で重要だと思います。


「米国が引き続き関税率を引き上げるとしても、それにはもはや経済的意義はない。しかも、世界経済史上の笑い話になるだろう。昨今の関税水準の下、米国の対中輸出品はもはや中国での市場を失っている。

仮に米国が数字のゲームを続けるとしても、中国側はそれらを相手にしないつもりだ。しかし、米国が引き続き中国側の利益を実質的に侵害するのであれば、中国側は断固報復措置を取り、どこまでも付き合うつもりだ」


「数字のゲーム」という言葉を使っていますね。仮にトランプ陣営が145%からさらに引き上げたとしても、中国としては、それ以上付き合うことはないというスタンスを自ら発信したという形です。それから間もない4月12日(米東部時間)、米国側はスマートフォンやノートパソコン、半導体装置・機器、メモリーチップ、薄型ディスプレーなど20の製品カテゴリーに関して相互関税の適用除外を発表しました。アップル社のiPhoneなど、一部ハイテク製品の製造は中国をはじめとして海外に依存しており、テック企業の収益圧迫や、消費者への負担増を含めマイナス効果を制御しきれないと判断したのでしょう。


 これに対して、中国商務部報道官は4月13日、「米国が一方的な『対等関税』という誤ったやり方を修正する上での小さな一歩」と述べ、さらなる「修正」を迫りながら現在に至るという状況です。


 現状、トランプ大統領は「ボールは中国側にある」という認識の下、習近平(シー・ジンピン)国家主席が電話をかけてくるのを待っている状況のようですが、一方の中国も「ボールは米国側にある」という認識をかたくなに抱いています。まずは米国側が具体的なアクションを起こし、交渉や協議を申し入れてくるべきというスタンスです。


 米中貿易戦争2.0は硬直化し、泥沼に陥る可能性は十分にあります。


 前のパートでも扱った直近の貿易動向に関して、3月、中国の対米輸出は前年同月比9.1%伸び(輸入は9.5%下落)ましたが、これには4月以降のトランプ関税を見込んだ「駆け込み輸出」的な要素が作用していると言えるでしょう。4月以降、一気に落ち込み、中国経済のけん引役の一つであった輸出が減速すると同時に、対米輸入もさらなる下落を見せる中、中国経済全体の下振れ圧力が強まる可能性は容易に想像できます。中国の政府系シンクタンクや経済学者の話を聞いていると、トランプ関税、および米国との貿易戦争によって、GDP成長率が1.0~1.5%程度下がるという試算も出てきています。


 2025年の中国経済にとって最大の不安要素がトランプリスクという中国側の見立ては、現時点において、残念ながら正しかったと言わざるを得ないのかもしれません。


 同時に、米国に対して「徹底抗戦」のファイティングポーズを取る中国が安易に譲歩する可能性は皆無に近く、米中間のデカップリングは従来以上に進行していくのが必至でしょう。米国と中国、どちらかを選び、どちらかを捨てろという「踏み絵」を迫られる可能性が高くなります。米中双方でビジネスを行っている企業、投資をしている投資家にとっては正念場が続くとみるべきでしょう。


(加藤 嘉一)

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