ドル/円相場は、米中貿易摩擦の激化やトランプ政権の迷走により、不安定な動きを見せました。米国市場ではトリプル安(株安、債券安、ドル安)への懸念により、円高が進んでいます。

17日には日米協議が予定されていますが、この協議が市場の安定につながるのか注目です。


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揺れ動くドル/円相場:米中摩擦とトリプル安の影

 先週のドル/円は、1ドル=147円台半ばを抜け切らず、米中の報復関税合戦によって世界経済後退懸念が高まり、円高が進みました。


 トランプ大統領が相互関税について、発動後半日で中国を除いて90日間一時停止を発表したことから相場は反発し、ドル/円は1ドル=148円台まで戻しましたが、その後も米中報復関税合戦はエスカレートし、米中対立激化による世界経済の先行き不透明感や米国市場のトリプル安(米国売り)懸念からドルの上値は重たい状況が続いています。


 9日以降のドル/円の動きを振り返ってみます。


 9日(水)は、米中貿易摩擦激化懸念によって日経平均株価は1,298.55円下がり、ドル/円は1ドル=145円台後半から144円近辺の円高に進みました。その後、トランプ大統領が「米国に報復関税を講じていない国・地域に対して相互関税を90日間停止する」と発表したことから、ドル/円は1ドル=148円台前半に反発し、ダウ工業株30種平均も2,962.86ドル上昇しました。


 10日(木)、日経平均が2,894.97円の大幅上昇となりましたが、トランプ大統領は中国に対する追加関税が145%になると発表したことから、NYダウは一時2,100ドルを超える値下がりとなり(終値マイナス1,014.79ドル)、ドル/円は再び1ドル=144円の円高となりました。


 11日(金)、米中対立激化による世界経済の先行き不透明感からドル売りが続き、米国市場のトリプル安(米株安、債券安<金利上昇>、ドル安)が嫌気され、1ドル=142円割れ寸前の円高となりましたが、米株が反発したことから(NYダウ+619.05ドル)、144円台を回復し、143円台半ばで週を終えました。


 14日(月)、11日夜に相互関税の対象からスマートフォンなどを除外することを発表しましたが、結局、スマートフォンも半導体製品として1~2カ月以内に関税をかけるとなったことから、ドル/円は上値の重たい状況が続いています。


 このように、米中対立激化による世界経済の先行き不透明感、相互関税の90日間一時停止やスマートフォンの扱いなど迷走するトランプ関税政策、失政を嫌気した「米国売り」によって、ドル/円は2日の相互関税発表直後の1ドル=150円台半ばから11日の142円近辺まで、8円超の円高となりました。


米国売り(トリプル安)のメカニズム:背景にあるもの

 そしてトランプ関税は米国にとって「よい薬」ではなく、「劇薬」になるシナリオも浮上してきています。相互関税の90日間一時停止は、米国政府が米国債の急上昇を懸念して発表されたのではないかとの報道が伝わっています。


 実際の動きを見てみますと、4月3日(マイナス1,679.39)と4日(マイナス2,231.07)はNYダウが下落しましたが、米国債券は買われ、米国10年債の金利は4日(金)には3.99%台に低下しています。


 このように株が売られたことから、いわゆる安全資産である米国債への逃避(債券買い=金利低下)が見られましたが、7日(月)以降は株価の動きに関係なく5日連続で金利が上昇しました(債券売り)。


 11日にはインフレが加速しているわけでもないのに4.49%台に上昇し、この一週間で米国10年債は0.50%近く上昇しました。この週間の上昇幅は、米国同時テロが起きた後の2001年11月12~16日(0.55%)以来となる23年ぶりの上昇幅でした。


 そして金利が上昇すると通常強くなるドルが、今回は弱くなるという事態になりました。


 このように通常、株などリスク資産を手放す時は、


  • 投資家は株式から安全資産である債券へと資金を移すため、債券価格が買われて上昇し、金利は低下します。
  • しかし、パニックが広がると、株も債券も売られることになります。
  • そして状況がさらに深刻になると、投資家は米国そのものからの撤退を始め、株式、債券、そしてドルの全てを売却します。その結果株式市場は急落し、債券の売りによって利回りは急上昇します。そして通常なら金利上昇により上昇するはずのドルも下落します。
  •  これが米株安、米債券安<金利上昇>、ドル安というトリプル安ということであり、「米国売り」となります(米国からの資産逃避)。


     ヘッジファンド経営の経験者であるベッセント財務長官は、特に米国債の価格急落(金利の急騰)、つまり上記の(2)の段階で危機感を募らせ、市場を落ち着かせるために関税の一時停止に大きく関わったのではないかと推測されています。


     米国債が売られた(金利上昇)背景には、株価急落を受けてヘッジファンドなどが現金確保のため米国債売却に動いたのではないか、あるいはトランプ政権の失政を受けて、米国から資金が逃避しているのではないかとの見方や、中国が交渉材料として保有している米国債を売却しているのではないかとの観測も広がっています。


     米10年債利回りは週間で23年ぶりの上昇幅となりましたが、水準自体はまだ年初の4.8%台を超えていません。

    市場はこの水準を意識しており、米10年債利回りがこの水準に向けて上昇する動きの中でトリプル安が続くのかどうか注目しています。


    17日の日米協議:市場安定への鍵となるか

     トリプル安など不安定な市場が続くようなら、ドル/円は1ドル=140円を割れていくシナリオが想定されますが、トランプ関税が各国との交渉によってマイルドな形で落ち着いていけば、市場も落ち着いていくと思われます。しかし、時間はかかりそうです。


     まずは、交渉の1番手である日本との17日の交渉結果に注目です。ベッセント財務長官と赤沢亮正経済再生相の日米通商協議では、非関税障壁、補助金、そして為替問題が協議されるとのことですが、世界中が注目しています。


     1番手だから、米国は見せしめとして厳しく対応するのか、あるいは市場に安心感を与えるために、また先行きの不透明感を楽観的な見通しにするために柔軟な対応を示すのか注目です。


     そして「為替問題」については、日本の円安を批判し、日本銀行の利上げを催促するような二国間調整にとどまる内容になるのか、あるいはドル高是正や多国間通貨調整など国際協調を伴う長期的な議題(「第2プラザ合意」)になるのか注目です。


     足元の状況をみると、ドル安を誘発するような円安是正を要求するよりも、米国債の購入を約束させる方が米国にとって得策だと思われますが、為替・金利市場を熟知しているベッセント財務長官に手玉にとられないように祈るばかりです。そして日米協議の結果を受けて市場が少しでも落ち着けばよいのですが…。


    (ハッサク)

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