バフェットは暴落する前に株を売り、暴落すると株を買うという逆張り投資家だ。これは、なかなかできることではない。
バークシャー株が最高値を更新、株価は60年で6万7,000倍に
米著名投資家ウォーレン・バフェット率いる投資会社 バークシャー・ハサウェイ(BRK.B) が3日、2025年1-3月期の決算を発表した。それによると、バークシャーが保有する3月末時点の現金残高は過去最高の3,477億ドルを記録した。1ドル=144円で円に換算すると50兆円に達する水準だ。
バフェットの現金残高とNYダウの推移

日本の時価総額トップである トヨタ自動車(7203:時価総額約40兆円) の市場評価額を上回る額だ。あるいは、 三菱UFJフィナンシャルグループ(8306:時価総額約20兆円) 、 ファーストリテイリング(9983:時価総額約15兆円) 、 NTT(9432:時価総額約13兆円) という日本を代表する企業3社を合わせて丸ごと買い取ったとしてもお釣りがくる。
バークシャーは2022年第4四半期以降、10四半期連続で株式を売り越している。2025年1-3月期の売越額は約15億ドルだった。この期間、具体的にどのような銘柄を売り買いしていたかについては今月中旬に公開されるフォーム13Fを待ちたいが、一部報道では バンク・オブ・アメリカ(BAC) の持ち高をさらに減らしているということも伝えられている。
バークシャーの株式売買動向 10四半期連続で売り越し

注目すべきはその積み上がった現金ポジションの内訳だ。約88%に相当する3,055億ドルが米短期債、残りの約12%(421億ドル)は現金で保有されている。バフェットは以前、米国債の購入について唯一の問題は、「3カ月物の財務省短期証券で買うか6カ月物で買うかだ」と語っていた。
直近の米短期債の利回りは4%台の前半だ。バークシャーが保有している短期債が3カ月物なのか6カ月物なのか詳細は不明であるが、単純に4%の利回りと仮定すると、保有する短期債から年間、約122億ドルの金利収入が入ることになる。144円で換算すると1兆7,568億円である。
バークシャーが保有する現金残高の内訳

バフェットは、「バリュー投資の父」と呼ばれる経済学者のベンジャミン・グレアムからコロンビア大学で教えを受けた。このためバフェットは師に倣い、一般的には割安株を長期に保有する「バリュー投資家」であると考えられている。投資に関するバフェットの名言は数多く伝えられているが、二つのシンプルなゴールデンルールがある。
それは「第1ルール、損しないこと。第2ルール、第1ルールを忘れるな」である。
バークシャーの年次株主総会が開催される前日(5月2日)、バークシャー・ハサウェイ株(BRK.B)は過去最高値を更新した。株価は今年20%近く上昇し、S&P500種指数のパフォーマンスを大きく回っている。
1965年に繊維会社であったバークシャーの経営権をバフェットが取得してから60年が経過した。
バークシャー・ハサウェイB株(日足)

バークシャー・ハサウェイB株(週足)

バークシャー・ハサウェイB株(月足)

個人投資家がバフェットの運用で学ぶべきなのは、「運用が決して破綻しないビジネスモデル」と「大暴落した時に株を買える現金の温存」であり、銘柄選択などあまり関係ないのである。
多くの投資家がバフェットの買っている銘柄のまねをするか、あるいは彼の買っている銘柄にばかりに注目している。しかし、そんなところにバフェットの運用の秘密はない。もちろん、バフェットの銘柄選択は一流である。彼の持っている銘柄は倒産リスクがなく相場急落時に下げにくい優良銘柄が多い。キャッシュフロー的にビクともしない銘柄ばかりが並んでいる。
バフェットのすごいところは、保険会社で徴収したゼロコストの長期資金を投資に回す「調達コスト・ゼロ」のビジネスモデルを展開していることだ。保険によるゼロコストの長期資金調達というビジネスモデルのおかげで、バークシャーのパフォーマンスが下がっても、バフェットの運用は破綻することがない。
バフェットは暴落する前に株を売り、暴落すると株を買うという逆張り投資家だ。これは、なかなかできることではない。
大量の現金を保有しているため、市場が総悲観になっている時に買い向かうことができる唯一の投資家がバフェットだった。
バフェットの投資の神髄が分かるのは、金利上昇期や相場が大暴落したときである。相場はストップ・ロス、すなわち、防御だ。お金がなくなる前に、それに気づかないといけない。
現金は困難な時代を乗り切るための戦略的な資産
バークシャーは決算報告書の中で、「進行中のマクロ経済や地政学的な出来事、業界や企業特有の要因や出来事の変化による影響を将来受ける可能性がある。2025年には国際貿易政策や関税など、こうした事象の変化のペースが加速している。最終的な結果についてはかなりの不確実性が残っている。」と指摘した。
トランプ大統領の関税やその他の地政学的リスクは、保険、運輸、エネルギー、小売、その他の事業を幅広く展開するコングロマリットであるバークシャーにとって先行きに対する不透明感を高める要因となっている。年次株主総会において、投資家から最初に投げかけられた質問は貿易に関してであった。
バフェットは「貿易は武器であってはならない」と述べ、関税と保護主義を批判した。「われわれは世界の他の国々との貿易を目指すべきだ。それぞれの国が得意なことをすべきだ。
政府のコスト削減を担うDOGE(政府効率化省)について質問されたバフェットは、政府財政赤字の抑制は「決して完全には解決されない問題である」「我々は現在、非常に長い期間にわたって持続不可能な財政赤字を抱えている」と語った。
バフェットはDOGEのここまでの成果について具体的には触れなかったが、財政赤字を削減するのは難しいが重要な仕事だと述べ、「しかし、議会はそれに取り組んでいないようだ」と付け加えた。
さらに通貨安についても言及した。「米国では財政政策が私を恐怖に陥れる。しかし、それは米国に限ったことではなく、世界中に言えることだ。通貨の価値は恐ろしいもので、私たちはそれに打ち勝つための素晴らしいシステムを持っていない。政府の無責任な行動が続けば、通貨の価値が恐ろしいことになる」と警告し、持続可能な財政政策の必要性を訴えた。
米国経済の方向性や世界における米国の地位について投資家の間で懸念が高まっている。その一方で、バフェットは引き続き米国に注目していることを改めて表明した。「われわれは常に変化の過程にある。
しかし、私の人生で最も幸運な日は自分が生まれた日だ。もし私が今日、生まれるとしたら、米国にいられると言われるまで生まれるのを待つように交渉するだろう。われわれは皆、かなり幸運だ」と強調した。
日本についての質問もあった。日本銀行が将来利上げをした場合、日本株への投資を引き上げるのかという質問に対し、「50年、60年と保有し続けるつもりだ」と述べ、短期的な市場変動や日銀の金利政策に左右されないとする意向を示した。
バークシャーは、 伊藤忠商事(8001) 、 丸紅(8002) 、 三井物産(8031) 、 住友商事(8053) 、 三菱商事(8058) の五大商社株に投資しており、2024年末時点での投資総額は235億ドルに達し、出資比率は最大で9.8%に上昇した。
三菱商事(日足)

バフェットは日本企業5社について「彼らは異なる習慣を持っている。そして、彼らのやり方を変えようとは全く考えていない。なぜなら、彼らは非常にうまくいっているからだ。日本への投資は、まさにわれわれの好みにぴったりだった。商社は、商品取引、海運、鉄鋼、物流など多岐にわたる事業を展開しており、バークシャーの多角的な事業構造と類似している。また、安定したキャッシュフローや配当政策、株主還元の姿勢を評価している」と述べた。
前半で取り上げた巨額の現金ポジションについては、おそらく今後、半世紀以内に活用する場所を見つけるだろうとした上で次のように述べた。「明日実現する可能性は非常に低い。5年後に起こる可能性は低くない。投資ビジネスの一つの問題点は、物事が整然と運ばないことだ」と語った。
バフェットはこれまで55年間バークシャー・ハサウェイのCEOであったが、今年いっぱいで退任すると発表した。
バフェットはコカ・コーラの缶を手に持ちながらこう語った。
「94年間、私は好きなものを飲み、好きなことをして、私に起こるはずだったあらゆる予測を覆してきました。チャーリー・マンガーと私は、それほど運動をしていなかったのです。私たちは、自分自身を大切に守っていなかったのです」
コカ・コーラ(月足)

先のチャーリー・マンガーの死去、そしてオマハの賢人と言われたバフェットの引退は寂しい限りだ。バフェットは、「次期CEOとなるグレッグ・アベルは、現金を蓄え、それをバークシャーの文化に合った事業に賢く使うというバフェット氏の哲学を共有している」と発言。
多額の現金は「戦略的な資産であり、これによって困難な時期を乗り切り、誰にも依存せずにいられる」と語った。
バフェット流投資哲学は次世代に受け継がれているようだ。
5月7日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
5月7日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、愛宕伸康さん(楽天証券経済研究所所長兼チーフエコノミスト)をゲストにお招きして、「円は大きな圧力にさらされている」「日本の40年国債の急騰と市場のストレス」「インフレ率は日銀の予想以上に上昇」「米国も日本もスタグフレーション」「日銀は円安と債券市場の支援を同時に行うことが容易ではない」というテーマで、愛宕さんのホンネを聞いてみました。ぜひ、ご覧ください。




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5月7日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

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(石原 順)