相場が不安定な中、金(ゴールド)への投資を検討する方も多いのではないでしょうか。「運用資産の何パーセントがよいのか?」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。

この件について、現時点の筆者の意見を述べた上で、金相場の今後の展望について考えます。


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(写真:OsakaWayne Studios/Getty Images)


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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 急落時の避難先 金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か? 」


うなぎ上りのS&P500指数

 まずは、多くの投資家が関心を寄せる米国の株価指数の一つである「S&P500指数」の推移を確認します。金(ゴールド)と原油といったコモディティ(国際商品)の推移と比べてみると、上昇が際立っており、「うなぎ上り」という言葉が当てはまります。


図:S&P500指数の推移(1984年1月を100として指数化)
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:世界銀行およびInvesting.comのデータをもとに筆者作成

 S&P500指数は、長期視点では上昇傾向を維持しているものの、短中期視点では「ショック」が冠される大幅な下落が発生するケースがあります。以下は、S&P500指数において、2000年以降に発生した短中期的な大幅な下落です。


図:S&P500指数のショック発生時の下落率・回復までの年数など
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:Investing.comのデータをもとに筆者作成

 2000年9月に急落が始まり、2007年5月に回復が完了した「ITバブル崩壊・同時多発テロ」の時期や、2007年10月に急落が始まり、2013年4月に回復が完了した「世界金融危機(リーマンショック・欧州債務危機含む)」の時期は、下落率が50%程度にも及んだり、回復までの年数が5年を超えたりするなど、甚大な影響がありました。


 しかし、2010年ごろ以降は、下落率は15~35%程度に下がり、回復までの年数が0.13年(およそ1カ月半)~2年程度に短くなるなど、全体として、ショックの影響は小さくなっています。


米国債の「逃避先」としての地位が低下

 2010年ごろ以降、ショックの影響が小さくなった背景には、リーマンショック(2008年)後に欧米の中央銀行が大規模な金融緩和を実施したことや、その後も幅広い市場で金融緩和を期待するムードが強まったこと、そして世界中でさまざまな金融商品が開発され、リスクを回避・分散する策が増え始めたことなどが、背景にあると考えられます。


 こうした変化が生じた2010年ごろ以降、以下のとおり、S&P500指数においてショックが発生してから回復までに要した期間における、NY金先物と米国債価格の騰落率に変化が生じました。


図:S&P500指数のショック発生から回復までに要した期間における、各種銘柄の騰落率
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:Investing.comのデータをもとに筆者作成

 株価急落時、市場関係者は「資金の逃避先」を探します。2010年ごろ以降、その資金の逃避先と目されるNY金先物、米国債ともに、ショック時の上昇率は低下しはじめました。

特に米国債を選ぶ動きは、NY金先物を選ぶ動きに対して弱くなっています。ショックがあった場合でも、米国債が選ばれにくくなっています。


 こうした流れを考慮すると、伝統的な投資戦略とされる株式と債券の比率「60:40」は、現代版に改める必要があります。債券の比率を下げ、相対的に選ばれやすくなっている金(ゴールド)やゴールドを含むコモディティ(国際商品)を、資金の逃避先の一つとして、認識する必要があります。


図:これまでの投資戦略と、想定されるこれからの投資戦略
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:筆者作成

 冒頭の「金(ゴールド)を保有する場合、運用資産の何%くらいがよいでしょうか?」という質問への回答は、今のところ「10%くらい」と、考えています。


株価とコモディティ価格の相違点

 以下は、冒頭で「うなぎ上り」と述べたS&P500指数の推移です。また、グラフ内には金(ゴールド)と原油といったコモディティ価格の推移を記載しています。


 コモディティ市場では基本的に、生産者である売り手と消費者である買い手の立場は、ほぼ平等です。このため、一方的な価格の上昇や下落は起きにくい傾向があります(コモディティの世界では、株式の世界と異なり、上昇が正義ではない)。


 一方で、S&P500指数は長期視点で「うなぎ上り」状態です。この「うなぎ上り」状態は2010年ごろから始まりました。2010年ごろ以降、S&P500指数がうなぎ上りになる条件が目立ち始めたことがうかがえます。


図:S&P500種指数の推移(1984年1月を100として指数化)
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:世界銀行およびInvesting.comのデータをもとに筆者作成

 多くの株式市場の専門家は「株式市場は思惑で動く」と口にします。

そのため、株式市場で「思惑」と「実態」どちらが優先されているのか、と問われれば「思惑」と返答することになるでしょう。このことから、2010年ごろ以降のうなぎ上りを説明するためには、同じタイミングで強い「正の思惑(=期待)」が、株式市場にもたらされたと考えることになります。


 何がきっかけで株式市場に強い正の思惑がもたらされたのでしょうか。そのタイミングが2010年ごろである点から、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)がそのきっかけの一つとなったと考えられます。


 以下の図のとおり、2010年ごろ以前は、情報の受け手と情報の発信者は、「良質な情報をたくさん」という点で一致していました。しかし、2010年ごろからSNSが世界的に普及しはじめると、情報の受け手は、連想しやすい、簡易的な、期待に応えてくれる、美しくて楽しい情報、つまり「見たい情報」を見たいと思うようになりました。


 そして、情報の発信者は、複雑さや懸念がない、エンターテインメント性がある、夢を抱ける情報、つまり「受け手が見たい情報」を見せてあげたいと思うようになりました。


 受け手と発信者、双方に変化が生じた結果、世の中に、保守的で、過程や本質を軽視した情報が含まれるようになりました。そして一部で、発信者の人気取り(ポピュリズム)が横行するようになりました。


図:SNSが及ぼした情報の受け手と発信者の関係への影響
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:筆者作成

 こうしたSNSをきっかけとした情報の受け手と発信者の関係の変化によって、世の中で強い「正の思惑」が生まれ、思惑を優先しやすい株式市場に影響が及び、突出した「うなぎ上り」が生じたと、筆者はみています。


 このように考えれば、突出したうなぎ上りは、情報通信や行動心理学などを含んだ社会学的な側面からのアプローチによってのみ、説明することができるといえます(経済学だけで、うなぎ上りを説明することはできない)。


 その意味では、SNSが強い「正の思惑」を提供し続ける限り、S&P500指数の長期視点の上昇は、継続する可能性があるといえます。

もちろん、先ほど述べたような、短中期的なショックをこなしつつ、です。


金(ゴールド)は長期視点の材料で高値維持

 以下は、国内外の金(ゴールド)相場の推移です。過去およそ半世紀において、足元の水準が最も高いことが分かります。トランプ米大統領がもたらす不安が金(ゴールド)相場を押し上げている、という話を耳にします。


 確かに、「短期的」にはその通りだと思います。トランプ氏が導入した「相互関税」によって、米国債さえも売られる不安が生じたり、株価が乱高下したり、ドルが下落したりしました。一時、債券、株式、通貨の三つが同時に売られる「トリプル安」が発生し、金(ゴールド)相場に、短期的な強い上昇圧力がかかりました。


図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1975年1月~2025年4月)
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:LBMAおよび国内地金大手のデータをもとに筆者作成

 とはいえ、2010年ごろから始まった突出した上昇には、トランプ氏よりも長期視点で続いている「中央銀行」の買いや「世界分断」深化による影響が大きいといえます。トランプ氏が市場に強い影響を与え始めたタイミングは、2016年の1回目の米大統領選挙だったためです。


図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年4月時点)
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:筆者作成

 中央銀行は、その国の物価と雇用の最適化を実現すべく、通貨の流通量や金利水準を調節する公的な機関です。同時に、対外的に何かあった時の備えとして保有する外貨準備高の積み上げ・取り崩しも行っています。多くの中央銀行は、金(ゴールド)を外貨準備高の一部に組み込んでいます。


 中央銀行全体の金(ゴールド)の買い越し量(購入-売却)を確認すると、2010年に買い越しに転じ、その後も買い越しが続いています。

近年はその規模が大きく、金(ゴールド)の全需要のおよそ二割を占めています。


 買い越しに転じたタイミングは、リーマンショック直後にはじまった主要国の中央銀行による大規模な金融緩和が本格化したタイミングです。また、2020年の新型コロナウイルス感染拡大時に大規模な金融緩和が行われたタイミングでも、買い越し量が大きく増加しました。


 中央銀行が金(ゴールド)をどのような意図で保有しているかについて、世界的な金(ゴールド)の調査機関である、ワールド・ゴールド・カウンシルが実施している中央銀行向けのアンケート結果からヒントを得ることができます。


「中央銀行が金(ゴールド)を保有する際の意思決定に関連するトピックとは?」という質問では、「長期的な価値保全/インフレヘッジ」「危機時のパフォーマンス」「効果的なポートフォリオの分散化」「デフォルトリスクなし」「歴史的地位」「流動性の高い資産」などが多く選択されました。


 2010年ごろ以降、主要国の中央銀行は、世界経済の不安定化に対応すべく、断続的に通貨の流通量を増加させ、金融緩和を進めました。これにより、世界全体の通貨の流通量は膨大に膨れ上がり、法定通貨の価値が薄まる懸念が生じました。


 先進国、新興国を問わず、中央銀行はこうした世界規模の法定通貨の価値希薄化懸念を感じ取り、金(ゴールド)をその処方箋の一つとしたと考えられています。現在も、主要国(特に米国)の通貨の流通量は、記録的な水準で高止まりしたままです。膨張した通貨の流通量がもとの水準に戻るまでに、相当の時間を要します。


 この事は、中央銀行の金(ゴールド)を保有する動機が長期視点で継続すること、「第二の矢」がもたらす金(ゴールド)相場への上昇圧力が継続することを示唆しています。


超長期視点で金相場を底上げする「世界の分断」

 先ほどの図の中で述べた「第三の矢」は、超長期的な金相場の上昇トレンドを支える上昇圧力です。十数年間に及ぶ長期の上昇トレンドの、土台を担う要素です。

先ほどの図「金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ」で示したとおり、「世界分断」がそれに当たります。


 ここで言う「世界分断」とは、人類が良かれと思って生み出したものの、知らず知らずのうちにマイナスの要素を含むようになった事象です。「世界分断」が金相場に長期視点の上昇圧力をかけ始めたのは2010年ごろだったと考えられます。


 世界の自由民主主義指数が目立った下落を演じ始めたのが2010年ごろだったためです。同指数は、V-Dem研究所(スウェーデン)が算出・公表する「自由民主主義指数(Liberal democracy index)」です。


 行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由や民主主義に関する多数の要素が考慮されています。0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど、その国は自由度・民主度が低く、1に近ければ近いほど、自由度・民主度が高いことを意味します。


図:中国が保有する米国債残高と自由民主主義指数(世界平均)
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:米国財務省およびV-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

 2010年ごろに同指数が低下し始めたことは、世界の民主主義が停滞しはじめたことを示唆しています。また、2024年時点では、同指数が0.4以下の比較的自由度・民主度が低い国に住む人口のシェアはおよそ77%、0.6以上の比較的自由度・民主度が高い国に住む人口のシェアは17%です。


 今、世界では民主主義が行き詰まり、分裂が目立ち始めているでしょう。民主主義をよしとする欧米が中心の西側と(日本を含む)、そうでない非西側の間に明確な溝が生じているのです。


 なぜ、世界の民主主義が停滞したのでしょうか。

世界で拡大しはじめた新しい技術・考え方の「マイナス面」が目立ち始めたことが原因とみられます。2010年ごろ以降、しばらくの間、人類が本格的に開発を進めてきた技術(SNSやAIなど)や推進してきた考え方(ESGやDEI)は、確かに社会にプラスの影響をもたらしました。


 SNSは、人々のコミュニケーションを円滑にし、人工知能(AI)は膨大な作業を効率化しました。環境・社会・企業統治(ESG)は環境保護や人権保護の機運を高め、DEIは他者を認める心を育んだりしました。これらは確かに、社会を良くしました。


 しかし、行き過ぎてしまったことで「マイナス面」が目立ち始めました。SNSはデマ、誹謗(ひぼう)中傷、感情噴出が横行する場となり、AIは人類から最後の資産と言われる思考を奪い、ESGは資源国を窮地に追い込み、DEIはキャンセルカルチャー(好ましくないと考える人や組織を一方的に批判したり、不買運動を行ったりすること)の温床という側面が強くなってしまいました。


図:2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景
急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か?
出所:筆者作成

 こうして目立ち始めた民主主義の停滞は、世界分裂を加速させ、戦争勃発・悪化の一因となったり、資源を持つ非西側諸国に資源の武器利用(出し渋り)を促し、さまざまな品目の価格を高騰させて長期視点の高インフレの環境をつくり出したりしました。戦争も高インフレも、金(ゴールド)相場を押し上げる強い材料になり得ます。


 新技術・考え方は良かれと思って人類が生み出しました。それゆえ、それらを撤回する動きは出にくいといえます。つまりそれは、今後も、長期視点でこれら起因のマイナス面が世界の民主主義を停滞させ、戦争やインフレが加速することを意味します、金(ゴールド)相場はこうした流れに乗って、長期上昇トレンドを維持する可能性があります。


[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

長期:

・純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
純金積立・スポット購入


・投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)
三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)


中期:
・関連ETF(NISA対応)
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:
・商品先物
国内商品先物
海外商品先物


・CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

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