7月の米国株市場は、S&P500とナスダックが最高値を更新するなど強気の展開が続いています。今後の見通しは、テクニカル分析・マクロ環境の両面でポジティブとネガティブの見方が交錯。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 高値更新の米国株の強気は続くか?~物色の変化やドル安の動きに注目~ 」
最高値を更新してきた米国株市場
7月相場入りとなった今週の米国株市場は、これまでのところ強気ムードが続き、7月2日(水)の取引終了時点で、S&P500種指数とナスダック総合指数が最高値を更新しました。
<図1>米S&P500(日足)の動き(2025年7月2日時点)

上の図1は米S&P500の日足チャートです。
5月半ばから約1カ月間続いたもみ合いから上抜け、2月19日の最高値(6,147p)や節目の6,200pを超えていった値動きが確認できますが、テクニカル分析的には、ネガティブとポジティブ二つのサインが注目されます。
まず、ネガティブなサインとして、7月2日(水)時点の株価が、昨年12月6日と今年1月24日の高値どうしを結んだラインの延長線上に位置していることが挙げられます。2月高値の時も、このラインが上値の抵抗として機能していたこともあり、株価の上昇に「そろそろ感」が出てきそうな感じになっています。
さらに、図1では、25日と50日、200日の3本の移動平均線を描いていますが、いずれの移動平均線も現在の株価とのあいだに乖離(かいり)が進んでいるため、目先の調整があってもおかしくはなさそうです。
反対に、ポジティブなサインとしては、50日と200日移動平均線の「ゴールデンクロス」が挙げられます。こちらについては、ちょうど前回のレポートで紹介したばかりですが、過去においてこのサインが出現すると、中長期的の上昇トレンドに入っていく傾向があります。
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そのため、「株価の上昇が続いたとしても、近いうちに調整を迎える可能性は高く、その際、移動平均線がサポートとして機能できれば、その後は息の長い上昇基調入っていくかもしれない」ことが読み取れます。
なお、50日と200日移動平均線のゴールデンクロスについては、ナスダックが達成している一方、ダウ工業株30種平均はまだ達成できていません(下の図2と図3)。
<図2>米ナスダック(日足)の動き(2025年7月2日時点)

<図3>米NYダウ(日足)の動き(2025年7月2日時点)

米国株市場の上昇はまだ続く?
先ほどは、日足チャートで米国株市場の先高観について見てきましたが、ここでは視点を変えて米国株の強さについて探って行きます。
最初の視点は、こちらのレポートでも触れた「相場のムードから見た上昇トレンドの波とポイント」です。
<図4>相場のムードから見た上昇トレンドの波とポイント

一般的に、上昇トレンドの局面は大きく、「序盤」「中盤」「終盤」の三つに分けられます。
序盤:株価の底打ちや悪材料の出尽くし感などで買いが入る
中盤:不安の後退や、今後の期待感で買いが入る
終盤:過度な楽観と、流れに乗り遅れることの恐怖で買いが入る
では、足元の米国株市場は「どこに位置しているのか?」ですが、トランプ関税の影響や米景気減速懸念を先取りする格好で急落し、4月7日に底を打ったあたりからが序盤、その後の関税交渉の進展期待や、米経済の堅調な推移と利下げ観測の高まり、根強いAI需要によるテック株への期待などを背景にして戻り基調を描いていたのが中盤と捉えると、現在は「中盤の終わり」、もしくは「すでに終盤入り」している微妙なところに位置していると思われます。
仮に、すでに終盤入りしているのであれば、次の展開は下落ということになりますが、そのバロメーターとして注目されるのが銘柄の物色動向になります。最近までの株価上昇のけん引役は、AI関連や半導体関連などのいわゆるテック系の銘柄でした。
<図5>米「マグニフィセント・セブン」銘柄のパフォーマンス比較(2025年7月2日時点)

上の図5は、昨年末を100とした「マグニフィセント・セブン」銘柄のパフォーマンス比較ですが、これまで相場をけん引してきた、 メタ・プラットフォームズ(META) や マイクロソフト(MSFT) 、 エヌビディア(NVDA) の3銘柄が今週に入って下落したり、伸び悩んでいる半面、 アルファベット(GOOG) や アップル(AAPL) など、これまで出遅れていた銘柄が上昇している様子がうかがえます。
<図6>注目の米AI関連銘柄のパフォーマンス比較(2025年7月2日時点)

同様に、その他のテック系銘柄のパフォーマンスについても、 オラクル(ORCL) や クラウドストライク(CRWD) など、勢いを保っている銘柄がある一方で、 パランティア・テクノロジーズ(PLTR) が大きく失速する場面を見せるなど、勢いに陰りが生じている銘柄も出てきています。
このように、テック系銘柄の中でバラツキが出始めているわけですが、他の業種へ買いが広がっている動きも見られ、その代表格が米銀行株です。
<図7>米大手銀行株のパフォーマンス比較(2025年7月2日時点)

上の図7は米大手銀行のパフォーマンス比較です。いずれの銘柄も自己資本規制が緩和される観測が高まった6月下旬から上昇に勢いが出ていることが確認できます。
このように、「買える銘柄」が存在・継続しているあいだは、上昇相場が思ったよりも続く可能性がありますが、以前から指摘してきたように、米国株はかなりの割高の状況であることに変わりはありません。
<図8>米S&P500(月足)と長期PERの推移

もっとも、今月の中旬以降になると決算シーズンが本格化します。
期待を先取りする格好で相場をけん引してきた企業が期待以上の業績や明るい見通しを示すことができれば、現在の高株価収益率(PER)も正当化されることになりますが、反対の結果だった場合には、売りに押されることが想定されます。
いずれにしても、答え合わせのタイミングが2~3週間後に控えていますので、そろそろ値動きが落ち着いてくるかもしれません。
(おまけ)米ドル安の流れと新興国株
また、米国市場では気になる動きもあります。その一つが、「米ドル安が続いている」ことです。
<図9>米ドル指数と10年債利回り(日足)の動き(2025年7月2日時点)

米ドル指数と10年債利回りの推移を上の図9で見ていくと、両者はおおむね連動して動いているのですが、今年の3月あたりからドル安が進行するかたちで乖離が目立つようになり、米国株が最高値を更新している現在でもその傾向が続いています。
こうしたドル安の理由としては、米トランプ政権の関税政策の影響や米財政不安などの警戒感によって、これまでの「米ドル1強」が揺らいでしまい、米国外の投資家による「為替ヘッジ」のニーズが高まったことが考えられます。
現時点ではまだ積極的に米国資産が売られているわけではありませんが、米国の景気減速への見方も根強い中、今後もドル安傾向が続き、輸入物価の上昇などで米国のインフレが収束しない状況となれば、米国がスタグフレーション的な状況に陥ることも考えられるため、注視する必要があります。
<図10>米ドル指数とMSCI新興国株指数(月足)の動き(2025年7月2日時点)

ちなみに、米ドル安の局面では新興株が上昇しやすいという傾向があります。
今週30日(月)に掲載された、楽天証券経済研究所の今中のレポート([動画で解説]『国際分散投資のススメ(世界が多極化する中、投資も多極化へ)』)でも、米国株以外の投資先を考えることの有効性について指摘されています。
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(土信田 雅之)