物価が上がる時代において、とくに押さえておきたい「お金の護身術」を、元国税専門官のマネーライター・小林 義崇さんが3回に分けて解説します。シリーズ最後の今回は、無用なトラブルやリスクを避けるため必要な「相続」の基本的なルールを紹介します。
【親の相続が気になる世代向け】変わるルール!「実家」と「お金」の守り方
親が高齢になり、いつか訪れる「相続」について考え始めた方もいるでしょう。相続は、家族にとって非常にデリケートな問題であり、相続税のルールも複雑です。特に2024年からルールが大きく変わった「生前贈与」については、早めに正しい知識を身につけておくことが、将来の無用なトラブルと納税を避ける鍵となります。
ただし大前提として、相続税は、全ての人にかかるわけではありません。「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という大きな基礎控除があり、遺産総額がこの金額以下であれば、相続税の申告も納税も不要です。
例えば、相続人が妻と子2人(計3人)の場合、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」。遺産がこの範囲内であれば、相続税の心配は基本的にいりません。
生前贈与の新ルール:早く始めるほど有利に
親が元気なうちに財産を子や孫に渡しておく「生前贈与」は、将来の相続税対策として有効な手段です。このルールが2024年から変わりました。
まずは、暦年贈与の持ち戻し期間が「3年→7年」に延長された点です。これまでは、亡くなる前3年以内の贈与は相続財産に加算されていましたが、この期間が7年に延長されました。つまり、より早くから計画的に贈与を始めないと、せっかくの対策が無駄になってしまう可能性があります。
一方、一定の条件のもとで選択できる相続時精算課税制度については、「年間110万円」の非課税枠が新設されました。この枠内の贈与であれば、贈与税がかからず、相続財産への加算も不要です。
どちらの制度を使うべきかは、ご家庭の資産状況や家族構成によって異なります。早めに税理士などの専門家に相談し、最適なプランを立てることが重要です。
「実家」の相続:「小規模宅地等の特例」は最強の切り札
相続財産の中で、最も大きな割合を占めるのが、親が住んでいた「実家」などの不動産です。この評価額を劇的に下げることができる、最強の特例が「小規模宅地等の特例」です。
一定の要件を満たせば、小規模宅地等の特例によって自宅の敷地の評価額を最大80%も減額できます。例えば、評価額5,000万円の土地が1,000万円になる計算ですから、この特例を使えるかどうかで、相続税額は大きく変わります。
ただし、適用要件は「誰が相続するか」「相続後どうするか」によって細かく定められており、非常に複雑です。まずはこの特例の存在を知り、正しく適用できるよう条件を確認しておくことが、相続税対策の最大のポイントと言っても過言ではありません。
まとめ:インフレ時代、最強の護身術は「学び、行動すること」
ここまでさまざまな節税策や手当について解説してきました。
インフレという、自分一人の力ではどうにもできない大きな流れの中で、私たちにできることは何でしょうか。それは、国が用意している制度という「お金の護身術」を、自ら学び、一つひとつ実践していくことです。
新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)で資産を守り育て、ふるさと納税で日々の生活費を賢く節約する。
これらは全て、「知っているか、知らないか」「やるか、やらないか」で、あなたの手元に残るお金、そして将来の安心が大きく変わってくることばかりです。
ご紹介した制度の中で、ご自身に関係のあるものが一つでもあったなら、ぜひ詳しく調べてみて、最初の一歩を踏み出してみてください。その小さな行動の積み重ねが、インフレという厳しい時代を生き抜くための、何より強力な力となるはずです。
「インフレに負けない「お金の護身術」Part 1~NISA・iDeCo・ふるさと納税編~」はこちら>>
「インフレに負けない「お金の護身術」Part 2~年収の壁・住宅ローン控除編~」はこちら>>
(トウシル編集チーム)