ドル/円は1ドル=149円台まで円安が進みました。米6月CPIや日米貿易協議などが円安要因となり、ドル高・円安はトランプ関税が発動する8月1日まで続きそうです。

同日には米雇用統計の発表もあり、相場の転換点となるのか、注目していきたいと思います。


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ドル/円は1ドル=149円台へ。円安加速の四つの理由

 ドル/円は、米6月消費者物価指数(CPI)発表後、5月の円安値である148.65円近辺を抜いて1ドル=149円台まで円安が進みました。円安材料の背景を振り返りますと、


(1)7日以降、貿易相手国に対して新たな関税率を通知する文書を送付し、日本に対して25%の税率を課すことが明らかになると、相互関税の延長期限である9日を待たずに米長期金利は上昇し、株は下落、ドルは1ドル=147円台に上昇しました。


 交渉期限は8月1日に延期されましたが、実際に文書が各国に送付されたことから、市場は関税引き上げによる物価上昇を警戒し始めているようです。分かっていることなのに関税引き上げに市場が反応しているのは、これまでは前倒し輸入や、日米企業が吸収してきたようですが、対応力にそろそろ限界が来ているのかもしれません。


(2)注目されていた米6月CPIは、前年比+2.7%と前月も予想も上回りました。が、コアCPIの前月比が5月を上回るものの+0.2%と、予想を下回ったため、過度に強い結果を期待していたことから米10年債利回りは低下し、ドル/円は1ドル=147.70円近辺まで円高となりました。


 しかし、おおむね予想に沿った結果だったことから、関税の影響を巡る懸念は払拭(ふっしょく)されず、米連邦準備制度理事会(FRB)は当面金利を据え置くとの観測が広がってその後金利が上昇し、ドル/円は再び1ドル=148円台に戻しています。5月の円安値1ドル=148円台半ばを上抜くと、一気に弾みがついて1ドル=149円台への円安となりました。


(3)日米貿易協議が難航していることも日本の景気への懸念材料になっており、日本銀行の利上げ観測がトランプ関税の不確実性からかなり後退していることも円安を後押ししているようです。


 ベッセント米財務長官が大阪・関西万博のイベントに参加する際に、石破茂首相との会談が予定されているとのことですが、関税の話はないとの見方もあり、あまり期待はできないようです。


(4)日本の10年債利回りが、15日に2008年以来約17年ぶりに1.595%に上昇しました。参院選で与党が敗北すると野党との協調路線によって財政が拡大し、その警戒感から債券が売られ、金利が上昇したようです。債券売り(金利上昇)は円高とはならず、与党政権の弱体化を嫌気して円売りにつながり、円安を後押ししているようです。


 CPI発表後、FRBは当面政策金利を据え置くとの見方が広がりましたが、先行きの米政策金利の織り込み度を示す米国シカゴ先物取引所(CME)のフェドウオッチ(FedWatch)によると、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策金利据置きはほぼ確定のようですが、9月、12月の0.25%の利下げについてはCPI発表後にやや下がった程度で、6月のFOMCの見通し通り年2回の利下げを織り込んでいるようです。


 このように先行きの利下げ見通しや市場の期待は変わっていませんが、8月1日の関税発動までは、ドル高・円安地合いは続きそうです。


トランプ関税に市場は楽観視?8月1日の関税発動、米雇用統計で流れが変わるか

 現在、トランプ大統領の高い関税率の要求は単なる交渉戦術だとして市場には楽観論が広がっているようです。トランプ大統領は結果的に強硬姿勢を後退するだろう(TACO取引「トランプ氏はいつも腰砕け」)と安心しきっている面もありそうですが、金融市場が落ち着いている状況では、トランプ大統領も強硬姿勢を貫くかもしれません。


 その時に市場は関税による物価上昇だけでなく、景気後退懸念を意識し始めるのかどうか注目です。


 ドル/円は、4月の相互関税発表直後の1ドル=150円台半ばから、米中対立激化やパウエルFRB議長に対する解任圧力によって一時1ドル=140円割れとなりましたが、3カ月かけてその水準に戻ってきました。


 トランプ大統領は8月1日より延長しないと発言しています。交渉がまとまっても関税率はトランプ以前から高くなっていることから、8月1日に延長されず関税が発動されると、4月時点の市場環境とは異なっており、関税発動の影響を受けた市場の動きになることが予想されます。


 市場のテーマは、物価上昇や景気後退のスピード、そしてFRBの金融政策に、より焦点が移っていくものと思われます。

1ドル=150円を超えてどんどん円安が進む環境とは異なってくることも予想されるため、注意が必要です。


 7月29~30日のFOMCでは利下げ見送りとの見方が大勢ですが、8月1日の関税発動を前にして、関税引き上げによる物価や景気への影響がどの程度のものになるのか、具体的に触れるかどうか注目です。そして利下げ慎重姿勢に変化が生じるのかどうかについても注目したいと思います。


 そして関税発動日の8月1日には米雇用統計が発表されます。関税引き上げの影響で雇用に影響が出ているのかどうか注目です。


 先月は、非農業部門雇用者数が14.7万人増加と予想を上回り、失業率が4.1%に改善しましたが、雇用増は季節要因であり、失業率の改善は労働参加率の低下によるもの(「隠れ失業者」が増加)という見方があるため、その要因が剥落するような指標になるのでしょうか。8月1日は潮の流れが変わる日になるのかどうか注目したいと思います。


(ハッサク)

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