ファンダメンタルズ分析で投資候補銘柄を探す時によく見られるのは損益計算書と貸借対照表です。しかしそれだけでは企業の実態を見誤る可能性があることをご存じでしょうか? 今回はキャッシュ・フロー計算書の重要性についてお話しします。
決算書は「損益計算書」と「貸借対照表」だけではない
皆さんは、ファンダメンタルズ分析で投資候補銘柄を探す時、どのような情報を見ていますか?
例えば会社四季報の業績欄を見て、業績が伸びているかどうかを確認したり、自己資本比率などの財務欄を見て、倒産リスクが低い安全な企業かどうかを確認したり、というのはよく行われていると思います。
ファンダメンタルズ分析とは…企業が開示している財務状況や業界動向、経済指標などを基に、市場の本質的な価値を評価する方法。投資家はこれらの数値を分析することにより、投資タイミングや投資額、さらにそもそも投資に値する企業かどうか、などの判断を行う。
これらは、主に「損益計算書」や「貸借対照表」を基にした情報なのですが、実は決算書にはこれ以外にもう一つ、重要なものがあることをご存じでしょうか?
それが「キャッシュ・フロー計算書」なのです。
キャッシュ・フロー計算書は、その会社が1年間(四半期決算の場合は期首からの累計)でどのくらいのキャッシュを獲得できたかを表したもので、さらにキャッシュの増減要因を「営業」「投資」「財務」の三つに分けて知ることができるようになっています。
なぜキャッシュ・フロー計算書が必要なのか?
個人投資家の多くは、企業が損益計算書上でしっかりと売上・利益を上げていれば「将来も株価が上昇する可能性の高い、優良な企業である」と考えているはずです。
確かにそれはその通りで間違ってはいないのですが、そこにはある重要な視点が抜け落ちているのです。それが「キャッシュの流れ」です。
実は、昔は決算書の中に「キャッシュ・フロー計算書」はありませんでした。そのため投資家は主に損益計算書と貸借対照表だけで企業分析を行っていたのです。
しかし、上場企業においても粉飾決算が横行するようになり、社会問題となりました。このときによく使われるのが「架空売り上げの計上による利益の水増し」でした。
架空売り上げを行うと、仕訳で言えば
借方 売掛金 ○○円/貸方 売上高 〇〇円
という形になり、本来ないはずの売上高を計上することで、損益計算書上、利益を水増しすることができるのです。
もちろん、以前から監査法人が上場企業の監査をしていたのですが、大企業の取引を全て精査することは監査法人でもできませんし、やり口がかなり巧妙だったケースも多かったため、監査をしても見つけられなかったケースもありました。
そこで、このような粉飾決算が早期に発見できるようにというのが、キャッシュ・フロー計算書の導入の一つのきっかけとなっています。
キャッシュ・フロー計算書で粉飾決算が分かる理由
なぜキャッシュ・フロー計算書を導入すると粉飾決算の兆候が分かるのか、単純な数値で説明したいと思います。
売上高:1,000万円
営業利益:▲200万円 (200万円の赤字)
営業活動によるキャッシュ・フロー:▲200万円
この状況で、粉飾決算にて売上高を1,000万円増やすと
売上高:2,000万円
営業利益:800万円
営業活動によるキャッシュ・フロー:▲200万円
となり、損益計算書は利益が出ているように見えます。しかし、粉飾決算で売上高を水増ししただけなのでキャッシュはなにも変わっていません。
そのため、損益計算書では利益が出ているのに、営業活動によるキャッシュ・フローがマイナス、というねじれが生じることで、粉飾の兆候が見えてくるのです。
粉飾だけでなく回収遅れや売れ残りも分かる
キャッシュ・フロー計算書で分かることは、粉飾決算の兆候だけではありません。
例えば売上高は順調に伸びていたとしても、売掛金の回収が遅れると、売上高とキャッシュの動きにズレが生じるため(利益は増えるがキャッシュは増えない)、それがキャッシュ・フローのマイナスとして表れます。
具体的には、損益計算書の営業利益よりも、営業活動によるキャッシュ・フローの金額が小さくなります。時には営業利益がプラスなのに、営業キャッシュ・フローの金額がマイナスとなることもあります。
また、仕入れた商品が全然売れず、売れ残りの在庫が膨らんでいるようなケースも、キャッシュ・フローはマイナスの影響を受けます。
これらは、キャッシュ・フロー計算書の中の「売上債権の増減額」や「棚卸資産の増減額」の欄の金額を見ることで明らかとなるのです。
次回はもう少し具体的に、銘柄選定の際にどのようにキャッシュ・フロー計算書を活用するのかについてお話しいたします。
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(足立 武志)