今週の日本株は足踏みする展開が目立つ一方、中国株が堅調です。年初の「中華AI」への期待を背景に上昇し、米国の関税政策に揺さぶられながらも高値圏を維持していますが、この流れは続くでしょうか?「テリフィック・テン」銘柄の動向や海外投資家の売買状況を中心に、国際分散投資の選択肢として中国株は有望か否か、ポイントを整理します。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 分散投資先としての中国は有望か?データで見る中国株の現在地 」
悪くないパフォーマンスの中国株
週末に8月相場入りを迎える今週の株式市場ですが、29日(火)の取引終了時点で、日本株(日経平均株価と東証株価指数(TOPIX))は売りに押される場面が目立っているものの、ほかの海外株式市場については堅調さを保っています。
<図1>国内外株価指数のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年7月29日時点)
※欧米株価指数は7月28日時点

上の図1は、昨年末を100とした国内外の主要株価指数のパフォーマンスを比べたチャートで、過去のレポートでも何度も紹介してきた、おなじみのものになります。
確かに、足元の日本株は先週に見せた株価の急騰後に売られている様子がうかがえますが、今回は日本株の分析ではなく、中国株が主題になります。
29日(火)時点の上海総合指数は107.70と、ほかの欧米株価指数と比べても遜色ないパフォーマンスになっているほか、香港ハンセン指数については127.24まで上昇しており、株価水準の高さが際立っていることが分かります。
また、レポートの主題として中国株を取り上げるのは、香港市場の「テリフィック・テン(素晴らしい10銘柄)」を紹介した2月21日付のレポートと、「DeepSeek」ショック後の株式市場の様子を探った1月31日付のレポート以来になります。
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1月付のレポート掲載から間もなく6カ月がたとうとしていますので、そろそろフォローアップしておきたいタイミングであったこと、また、米トランプ政権の関税政策とその影響がまだ読み切れない中、国際分散投資への注目が高まっていますが、果たして、中国株がその分散投資先として有望なのかについても気になるところだと思われますので、ざっくりですが状況を整理していきたいと思います。
中国株の値動きの特徴
改めて、香港ハンセン指数の値動きを中心に、2025年に入ってからの中国株の動きを上の図1で確認していくと、いくつかの局面とポイントに分けることができます。
まず、年初からの売りが優勢だった中国株の状況を一変させたのが「DeepSeek」ショックです。中国のAI企業「DeepSeek」が発表した大規模言語モデルが、米国のAIモデルに劣らない性能を実現させたことに加え、その開発コストの安さが強烈なインパクトを与えました。
これにより、1月27日の米国株市場ではAI関連銘柄が大きく売られる一方、「中華AI」への注目度が高まる格好となった中国株市場では、テック株を中心に買われる動きとなりました。ちょうどこのころの中国は春節絡みで大型連休を迎えていたのですが、連休明け後も中国株の上昇基調は続きました。
2月に入ってからの相場環境は、米トランプ政権の関税政策をめぐる動きによって警戒感が徐々に高まり、日米欧など多くの株式市場が下落に転じる動きとなりましたが、香港ハンセン指数はこうした状況下でも耐性を見せ、3月19日には今年最初の株価のピークをつけています。
ただし、翌3月20日にトランプ米大統領が「相互関税を4月2日に発表する」と表明してからは、さすがの香港株も関税警戒の流れにあらがえず、ほかの株価指数と同様に下落基調をたどるようになったほか、さらに、この時期の米中間では関税引き上げ合戦が繰り広げられ、累計の税率は一時145%まで引き上げられました。
その後は、米中で5月と6月の二度にわたる協議を経て累計34%まで税率が引き下げられ、一部の関税については発動が見送られるなど、緊張の緩和に伴って中国株も息を吹き返し、香港ハンセン指数は7月18日に先ほどの3月の高値も超えてきています。
このように、基本的には中国株の値動きも、米トランプ政権の関税政策の動きに沿っている格好なのですが、中国のテック企業が多く上場している香港市場は、中華AIへの期待が上乗せされていることによって、香港ハンセン指数は上海総合指数よりも高いパフォーマンスになっていると思われます。
このほか、不動産市場の悪化と混乱にともなう経済減速への不安を背景に、中国株は2021年あたりから3年近くにわたって長期的な下落トレンドを描いていて、株価のバリュエーション(評価価値)が歴史的に見ても割安な水準まで低下し、買いを入れやすい状況にありました。
また、中国の経済状況についても、「まだ回復しきれていないが、少なくとも最悪期を過ぎたのではないか?」という見方が増えていること、そして、米トランプ政権によって相場が振り回される場面が増えたことで、これまでの「米国一強」が揺らぎ、投資先を分散させる必要性が生じており、その投資先の一つとして中国株が選好されている可能性があることなども支えになっていると考えられます。
海外投資家は中国株を買っているのか?
では、実際に海外投資家は中国株を買っているのでしょうか?
残念なことに、日本の証券取引所とは違って、中国の証券取引所はいわゆる「投資部門別売買動向」のような定期的なデータを公表しておらず、「外国人投資家がどのくらい売買して、買い越し(売り越し)なのか?」といった動向を正確に把握することができません。
そのため、香港証券取引所が公表している、「ストック・コネクト(香港市場と本土市場を結ぶ取引)」における売買代金データを使って探ってみます。
<図2>中国「ノースバウンド」売買代金の推移(2024年6月~2025年6月)

上の図2は、香港や海外の投資家が香港市場を経由して本土株を売買した代金(ノースバウンド)の月次推移の状況を示していますが、2024年10月から売買代金の規模が一回り大きくなっていることが確認できます。
ちょうどこのころは、低迷する経済にテコ入れするため、2024年9月24日に大規模な金融緩和が発表されたタイミングでした。中国当局が経済政策に対して「ようやく重い腰を上げた」ことが好感され、その後も財政政策への期待も加わって、短い期間ではあるものの、株価が大きく上昇していました。
その後、「DeepSeek」ショック後の中国株買いがにぎわった2025年2月と3月にも売買が増加したほか、米関税警戒が高まった4月と5月は減少するなど、売買の増減が安定していませんが、少なくとも6月の売買規模は、昨年6月よりも大きくなっていることなどを踏まえると、海外投資家による中国株買いは、「積極的な国際分散投資先になっているとまでは言えないが、ある程度は買われている」と見ることができそうです。
「テリフィック・テン」銘柄はあれからどうなった?
続いて、2月のレポートで紹介した香港市場の「テリフィック・テン(素晴らしい10銘柄)」についても見ていきます。
当時の復習になりますが、以下の10銘柄がテリフィック・テンになります。
<図3>香港市場の「テリフィック・テン(素晴らしい10銘柄)」

そして、この10銘柄がどのようなパフォーマンスをたどったのかを示したのが下の図4です。
<図4>香港「テリフィック・テン」銘柄のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年7月28日時点)

グラフの線の数が多いため、少し分かりにくくなっていますが、ざっくりポイントをまとめると、
・株価が昨年末比で低迷している…百度、JD.com、美団
・高い株価水準だが、3月高値を更新できていない…SMIC、アリババ
・結果的に株価が上昇しているが値動きが荒い…BYD、小米、吉利汽車
・安定的に上昇トレンドを形成…テンセント、網易
となっていて、かなり値動きにバラツキが生じているほか、アリババとJD.comのように、同じ業種でも明暗がハッキリ分かれている状況でもあり、この10銘柄が相場をグイグイとけん引する主役になっているかと言われると、やや微妙かもしれません。
さらに、テック株について、的を絞って調べてみます
<図5>香港ハンセンテック指数と米ナスダック100の比較(2024年末を100)(2025年7月28日時点)
上の図5は、香港ハンセンのテック株指数と、米ナスダック100のパフォーマンスを、DeepSeekショックで株価が下落した2025年1月27日を100として比較したものです。
両者の数値の差分を見ると、3月18日には38以上差が開いていたのですが、足元の差は10程度まで縮小しています。
また、「どちらの値動きが今後に期待感を持たせるか?」という点では、値動きが荒く、3月の高値も超えていない香港ハンセンのテック株指数よりも、足元で年初来高値を更新して、安定的に上昇トレンドを描いている米ナスダック100の方が投資しやすいと判断する投資家も多いかもしれません。
さらに、「テリフィック・テン」という名前に引きずられてしまい、かつての米国「M7(マグニフィセントセブン)」が形成していったような上昇相場を重ねてイメージするのも避けた方が良さそうです。
もちろん、この先の香港ハンセンのテック株指数が力強く上昇する展開もあり得ますが、その売買タイミングを捉えるのはかなり難しいと思われます。
高配当銘柄にも注目
とはいえ、再び図1を思い出すと、足元の香港ハンセン指数は3月の高値を超えています。
先ほどの図5も見てきたように、香港のテック株指数が3月の高値を超えていないため、テック株とは別に指数の押し上げに貢献した銘柄があると思われますが、その候補となっているのが、配当利回りの高い銘柄を物色する動きです。
<図6>香港ハンセン銘柄で高配当利回りかつハンセン指数より上昇している銘柄(2025年7月28日時点)

上の図6は、香港ハンセン指数の構成銘柄のうち、配当利回りが4%以上かつ、昨年末からの株価上昇率が香港ハンセン指数の上昇率(27%)を上回っている銘柄をピックアップしたものです。
2025年7月28日時点で香港ハンセン指数を構成するのは85銘柄ですが、そのうち、条件に合致したものが11銘柄と意外に多く、しかも、中国人寿保険や中銀香港、HSBC、招商銀行など、時価総額が大きくて知名度も高い銘柄が該当しています。
分散投資先としての中国は有望か?
これまで見てきたように、分散投資先として中国株を選択するのは一応アリと考えても良さそうですが、中国株全体というよりは、テック株でも業績や株価が安定的に成長している銘柄や、株価が下がったところで高配当の大型銘柄を拾うなど、銘柄を絞り込む必要がありそうです。
また、目先の中国株が動き出すイベントとしては、米中の関税交渉の行方のほか、8月に開催されると見込まれている中国共産党の重要会議「第二十期中央委員会第四回全体会議(四中全会)」も市場の注目を集めそうです。
現時点では具体的な議題は公表されていませんが、これまでの流れから、経済の安定と持続的成長に向けた新たな政策が打ち出されることへの期待感があります。
例えば、さらなる内需拡大策(デジタル消費やグリーン消費などの新たな消費分野の育成)や、半導体やAIなどの重点分野へのさらなる支援強化、不動産市場の軟着陸に向けた追加策や、地方政府の債務問題への対応などが考えられます。
8月の中国株市場はこうしたイベントに反応する動きが中心となり、その後は、こうした政府による景気刺激策が実際の企業収益の改善にどれだけ結びつくのかを見極めていくことになりそうです。
(土信田 雅之)