日本では、夏休みに入ると同時に、台風の襲来が本格化する時期に入ります。近年の台風の傾向や世界全体の気象に関わる環境を確認すると、食料の生産量が減少する懸念があることが分かります。
夏休み本番、勢力を拡大する台風に注意
気象庁は、台風に関する多数のデータを公表しています。「日本に接近した台風の数」もその一つです。これは、中心が気象官署などから300キロメートル以内に入った台風の数を意味します。以下は、日本に接近した台風の数を発生した台風の数で除した、日本に接近した台風の割合です。
図:日本に接近した台風の割合

1970年から1994年までの25年間、発生した台風のおよそ39%が、日本に接近しました。おおむね10個のうち4個が、接近した計算です。2000年から2024年までの25年間はおよそ49%と、10個のうち5個が、接近しました。
長期視点では、台風は日本に接近しやすくなっているといえます。日本に接近する頻度が上がったことは、台風がより高緯度の地点まで移動するようになったことを意味します。地球全体の気象に関わる環境に、大規模な変化が起きているといえます。
以下もまた、地球規模の変化が発生していることを示唆するデータです。秒速約50メートルを超え、風の強さが5段階のうち4または5という上位のカテゴリーに入った熱帯暴風雨の割合です。
図:熱帯暴風雨がカテゴリー4または5に発達した割合(世界全体)

強い風や雨をもたらす熱帯暴風雨は、主に赤道付近で発生します。太平洋の西側および南シナ海付近で発生し、風速が一定の水準を超えた熱帯暴風雨はタイフーンと呼ばれます(日本名は台風)。
大西洋および太平洋の東側で発生し、風速が一定の水準を超えた熱帯暴風雨はハリケーン、インド洋で発生し、風速が一定の水準を超えた熱帯暴風雨はサイクロンと呼ばれます。
上のグラフのとおり、このおよそ半世紀、熱帯暴風雨が勢力を強めるケースが増えています。以前は10個中2個程度でしたが、2023年は10個中およそ4個が、カテゴリー4または5に発達しました。
ここまでの二つのグラフより、近年の熱帯暴風雨は、より高緯度まで移動したり、より勢力を強めたりしています。地球規模の気象に関わる環境が大きく変化していると考えられます。まさに今、私たちはこうした環境の中で、夏休みを過ごしているのです。
極端気象が頻発する中、食料供給に不安あり
熱帯暴風雨が、より高緯度まで移動したり、より勢力を強めたりしている中、世界の食料供給に懸念はないのでしょうか。以下は、世界全体の農地面積の推移です。ここでいう農地面積とは、主に短年作物を生産する耕作地と、収穫後に植替えの必要がない作物を栽培する植樹園の合計です。
図:世界全体の農地面積単位:百万ヘクタール

国連食糧農業機関(FAO)のデータによれば、2023年は世界全体で約15億ヘクタールでした。およそ半世紀で10%程度増加しました。
しかし、以下のとおり、広大な国土を有する国々の農地面積を見てみると、ブラジルを除き、ほとんどの国で減少、あるいは頭打ちになっていることが分かります。たとえ世界全体として農地面積が増加していても、農業が伝統的な産業として根付き、ノウハウが蓄積されているこうした国々における農地面積の減少は、大きな懸念点だといえます。
図:広大な国土を有する国々の農地面積単位:百万ヘクタール

世界全体の農地面積の増加分は、ブラジルを含む南米諸国、アフリカ諸国などの新興国が担っているとみられますが、地球規模の気象に関わる環境が大きく変化している中で、こうした新興国が今後も安定して農地面積を拡大し続けることができるかは未知数です。
極端気象は農産物の生育を阻害したり、作付けや収穫などの作業を妨げたりして、食料の生産量を直接的に減少させる要因になり得ます。この点に加えて、南米やアフリカの新興国の農地面積の拡大を阻害する要因としても、認識する必要があります。
世界人口の増加と流通の目詰まりが同時発生
ここまで、頻発する極端気象が農産物の生産を減少させたり、新興国の農地面積拡大を阻んだりする懸念があると述べました。ここからは、需要面について書きます。以下は、世界の人口の推移・見通し(国連のデータ)です。先進国と新興国の分類は、国際通貨基金(IMF)の基準にのっとっています。
食料需要の根源ともいえる人口について、中国やインドを擁する新興国が、日本や米国を含む先進国を大きく上回っています。2023年は新興国がおよそ69億人、先進国がおよそ11億人でした。
図:世界の人口推移・見通し(国連のデータ)単位:10億人

国連の見通しでは、新興国の人口増加は2085年まで続き、最大で91億人に達します。
また、数年前に、世界食糧計画(WFP)が広告などで広く周知したとおり、世界には深刻な食料の不安を抱えている人がおよそ8億人いるとされています。
図:世界の深刻な食料不安のある人々の数(億人)(年間値)

今後、供給の目詰まりが解消され、こうした人たちへの食料の供給が進むことは、多くの人が願うことです。そして、世界全体の食料の需給を追う際、8億人という数字が足元の先進国の人口(およそ11億人)に迫る規模であり、見方によっては潜在的な需要ともとれることにも、留意が必要です。
一人当たりの穀物消費量、今後大きく増える
世界三大穀物と呼ばれる、トウモロコシ、コメ、小麦の消費量を確認します。以下は、世界三大穀物の新興国、先進国別の消費量です。新興国の消費量は、先進国を圧倒していますが、特に2000年ごろから、増加のスピードが増していることが分かります。経済発展が始まり、食生活が豊かになったことが背景にあると、考えられます。
こうした穀物の一部は、牛、豚、鶏などの家畜のエサとして消費されています。このため、食生活が豊かになればなるほど、穀物の消費量が増える傾向があります。
図:世界三大穀物(トウモロコシ、コメ、小麦)の消費量単位:百万トン

以下は、人口一人当たりの穀物の消費量です。仮に、新興国の食文化が先進国並みに豊かになると、新興国の人口一人当たりの穀物消費量は2倍になる可能性があります。
図:世界三大穀物(トウモロコシ、コメ、小麦)の一人当たり消費量単位:キログラム

今後、新興国では、人口増加を背景とした「量的な需要増加」と、食文化が豊かになることを背景とした「質的な需要増加」が同時進行すると、考えられます。
長期視点の食料価格の高止まり・上昇は続く
本レポートでは、極端気象をきっかけとした新興国の農地面積減少、農産物の生産減少の可能性について触れた上で、長期視点で生じている主要国の農地面積減少、新興国の人口増加による「量的な需要増加」と食文化の欧米化による「質的な需要増加」が同時進行していることについて確認しました。
以下のように、足元の食品に関わる国際商品市場を取り巻く材料を、その他の短期・長期の要因とともに、まとめました。
図:食品に関わる国際商品の価格を押し上げている材料(2025年8月時点)

世界全体の食料価格全般の流れを示す指数は、以下の通り、長期的な上昇トレンドを描いています。上記の材料に大きな変化が生じなければ、この上昇トレンドは長期視点で続く可能性があると、筆者は考えています。
図:世界の食料価格指数

[参考]農産物関連の投資商品例
国内個別株・ETF
丸紅(8002)
WisdomTree農産物上場投資信託(1687)
WisdomTree穀物上場投資信託(1688)
WisdomTree小麦上場投資信託(1695)
WisdomTreeとうもろこし上場投資信託(1696)
WisdomTree大豆上場投資信託(1697)
外国株・ETF
ディアー(DE)
コルテバ(CTVA)
ニュートリエン(NTR)
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)
ブンゲ・グローバル(BG)
ヴァンエック・アグリビジネスETF(MOO)
インベスコDBアグリカルチャー・ファンド(DBA)
国内商品先物
トウモロコシ大豆小豆
海外商品先物
トウモロコシ大豆小麦大豆粕大豆油
商品CFD
トウモロコシ大豆小麦コーヒー、粗糖、ココア、綿花、生牛
(吉田 哲)