キャッシュ・フロー計算書を見ることで、各企業の安全性を計ることができます。銘柄選択の際、キャッシュ・フロー計算書をどのように判断材料にしていけばよいかをお伝えします。
キャッシュ・フロー計算書のみでの銘柄選定は難しい
今回は、キャッシュ・フロー計算書を銘柄選定にどのように活用していくかについて、お話ししていきたいと思います。
まず前提として、キャッシュ・フロー計算書のみでの銘柄選定は難しいといえます。そもそもキャッシュ・フロー計算書というのは、昔は決算書の中には含まれておらず、貸借対照表と損益計算書のみが使われていました。
しかし、それにより粉飾決算が横行したり、損益の状況とお金の状況が一致しなかったりすることで企業の実態が正確につかめない…という理由で新たに設けられたのが「キャッシュ・フロー計算書」です。
つまり、キャッシュ・フロー計算書は、貸借対照表や損益計算書を補完する役割のため、銘柄選定の際も、キャッシュ・フロー計算書を単独で用いるのではなく、貸借対照表や損益計算書も併用しつつ行うようにしましょう。
安全性重視からの銘柄選定
上場企業であっても、時には倒産することがあります。倒産してしまえば株価はほぼゼロになってしまうため、個人投資家としては、倒産の可能性がある銘柄を保有することはできるだけ避けたいものです。
そこで、安全性の観点から銘柄選定することが重要になってきます。「安全性」とは、一言でいえば「企業が倒産する可能性」です。
安全性の観点で「倒産の可能性」を見た場合、貸借対照表であれば「自己資本比率が小さい」「債務超過である」「借入金や社債(有利子負債)が過大である」といった点に注目します。
また、損益計算書であれば「赤字が何年も続いている」「多額の赤字を計上した」といった点が注目されます。
これに加え、キャッシュ・フロー計算書においては、
- 営業活動によるキャッシュ・フローがマイナス
- 現金同等物が有利子負債に比してかなり少ない
といった点はリスク要因となります。
損益計算書が赤字で営業キャッシュ・フローがプラスの場合は?
倒産リスクが高い企業は、損益計算書の各利益も赤字、営業キャッシュ・フローもマイナスという状況になっていることが多いです。
そしてこの状況が何年も続いている場合、キャッシュが減少しているのみならず、赤字の蓄積により純資産も減少し、自己資本比率が小さくなったり、債務超過に陥っていたりすることもあります。
しかし、企業によっては「損益計算書の利益が赤字」である一方、「営業キャッシュ・フローがプラス」というケースもあります。
よくある例としては、「多額の設備投資を行ったため、その減価償却費が膨らんだことで損益計算書の営業損益は赤字に。しかし減価償却費はキャッシュの流出を伴わない費用なのでキャッシュ・フロー計算書の営業キャッシュ・フローはプラスになっている」というものです。
もちろん、この状況が何年も続くのは心配ですが、今後、損益計算書の営業赤字幅が縮小したり、黒字化したりする見通しであり、かつ営業キャッシュ・フローのプラスの状況が継続しそうであれば、投資対象として選定するのも一考です。
このような企業の株価は、損益計算書で見ると業績が悪く見えるので安い株価にとどまっていることも多いです。そのため、将来的な黒字化が実際に生じれば、株価の大幅な上昇も期待できます。
キャッシュ・フロー計算書に違和感を感じたら投資を見送るのも一法
キャッシュ・フロー計算書を併用すると、貸借対照表や損益計算書だけでは見えてこなかった「違和感」を感じることができます。
典型例が、「損益計算書が黒字であるにもかかわらず、営業キャッシュ・フローが大きくマイナスとなっている」というパターンです。
通常は、損益計算書の営業利益が黒字であれば、営業キャッシュ・フローもプラスとなります。上記で説明した「減価償却費」など、費用にはなるがキャッシュの流出を伴わないものが存在するため、営業利益より営業キャッシュ・フローの方が大きいことも多いです。
この理由が、売上が急速に伸びているので売上代金の回収が仕入れによるキャッシュの流出に追いつかず、キャッシュが減少しているのであれば基本的には問題ありません。
しかし売掛金の回収が滞ったり、抱えている在庫が売れ残ってしまったりすると、営業キャッシュ・フローはその分だけマイナスのインパクトがあります。
さらに、次回説明しますが、いわゆる「粉飾決算」を行っている場合も、利益は出ているのに営業キャッシュ・フローはマイナス、ということが起こります。
いずれにせよ、営業利益がプラスなのに、営業キャッシュ・フローが大きくマイナスになっている場合、その理由が「売上の急速な伸び」など健全である場合を除けば、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書との間に「違和感」が生じているといえます。
この場合、売掛金の回収遅延や在庫の売れ残りは、将来的な損失計上になりますし、粉飾決算が発覚したら最悪上場廃止、倒産となります。
違和感を感じた場合、その銘柄は投資対象としては見送るのも一法です。
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(足立 武志)