日本株の動きは、米国要因で捉えられる部分が大きい。他力本願の相場ゆえに、景気、業績、政局など国内要因はぐずぐずしていても堅調を保つ目がある。
サマリー
●日本株は米国株高、底堅いドル/円を背景に、外国人の見直し買いで上伸した
●日本株は、景気、業績、政局など国内要因はぐずぐずしていても、米国要因で堅調を保つ目がある
●米国株を指針にできるAI、国家方針である防衛、日本独自の強みであるエンタメをウオッチ
疾走する日本株
日経平均株価は8月13日、高値を更新し、4万3,000円台に到達しました。ただし、日本の国内景気はぱっとせず、決算に見る企業業績の見通しも陰り気味です。加えて、政局も混迷を深めています。このような状況で、なぜ日本株相場は急伸できたのでしょうか。株高は持続可能でしょうか。この相場に乗ることの勝機とリスクはどこにあるのでしょうか。
筆者は、日本株相場には自律的なリズムが乏しいと考えて、普段は自律性が認められる米国株をメインに投資しています。日本株は、「米国株相場×ドル/円相場」を指針に、外国人投資家がどう動くかで、値動きの大半が説明されます。逆に言えば、この他力本願の相場メカニズムを踏まえて、日本株相場を狙う工夫ができる場面があるということです。
実は、筆者は少し前から日本株相場への取り組みを再開しています。日本株に妙味をどう見いだしたのか。
そして、予見不可能な事情としては、相場が上抜けしたトリガー要因は、トランプ関税が15%と懸念されたより低めで合意されたことなどの好ニュースが相次いだことが指摘されます。日本の投資家の逆張り性向に沿って、日経平均4万円超でつくられたショート(売り持ち)が、ニュースやテクニカルな動意で踏み上げられ、一段高を招いたと判断しています。
日本株を支える米国要因
繰り返しになりますが、日本株相場は「米国株相場×ドル/円相場」を指針に、外国人投資家がどう売買するかで、かなりの部分を説明できると考えています。そして、ドル/円相場は基本的に米金利に沿って動く部分が大きくなります。従って、日本国内の要因より、米国の要因から日本株を捉えるのが筆者のアプローチです。
その米国株は、4月4日のトランプ関税ショックを脱して、5~7月には人工知能(AI)株先導でサマーラリーの様相でした。警戒された諸リスク、特にトランプ政策の「異常な不確実性」も、このラリーの過程でクリアになり、相場を持続させてきました。
相互関税は、当初公表のとっぴな高率から相対的に低めに合意されていきました。それでも、トランプ政権以前と比べれば、関税率は高いのですが、経済への悪影響はまだ表れていません。主要な経済・物価指標、企業決算を無難に通過するたびに、株式相場はほっとして上伸することを繰り返しています。
さらに、トランプ大統領は減税や規制緩和など、株式相場への支援となる政策も、市場の想定より早く、力強く推進しています。AI用のデータセンターや原子力発電所の建設支援措置、中国へのAI半導体輸出規制緩和、中東など諸外国とのAI大型ディールなどにより、エヌビディアなどAI銘柄が息を吹き返し、相場を先導しています。
米国株全般がAI株先導で年初来高値を更新し、ドル/円相場が1ドル=140円台後半を中心に底堅さを保っていることは、外国人が見直し買いする日本株の失地回復をも促しました。日本の投資家は逆張り性向で知られます。日経平均株価がしばらく3万8,000~4万円レンジにとどまっていたため、4万円超えではショート(売り持ち)が増え、その踏み上げが4万3,000円台突破に一役買った可能性が指摘されます。
日本株高は持続するか
国内の景気、企業業績、日本銀行の利上げ志向、さらに、衆参両院で自民・公明連立与党が過半数割れするという政局の混迷を見る限りでは、日本株高の持続力は想定し難いかもしれません。しかし、米国株が堅調で、ドル/円の下落がほどほどなら、日本株にもサポートされる目が出てきます。
筆者は、米国のAI需要の広がりは、目先の景気の良しあしを超越するものと想定してきました。中期的に米株相場を前向きに捉える、この基本観は今も変わりありません。
関税の影響がどう出るか、米景気の先行きについては、まだ不確実性がくすぶるでしょう。少なくとも、「(1)景気に陰り」「(2)景気悪化」「(3)景気がしっかり」の3シナリオの一つに肩入れすることがないよう、柔軟に構えています。
ただし、(1)や(2)のシナリオなら米利下げなどの政策対応が(時間の差はあれ)株式相場を支えると想定されます。(3)なら業績悪化による株安が抑制されます。
年末に向けて、この最善シナリオが実現する展開としては、足元の景気の陰りを受けて、9月に米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを行い、その後に景気指標が堅調になる昨年見たような流れです。関税の悪影響が多少出てくる程度なら、経済指標が秋から堅調に傾きやすい季節調整のゆがみが埋め合わせする可能性があります。
速い相場ゆえの調整リスク
米国株の最善シナリオは日本株にも支援的であるといえます。ただし、米景気が米国株、ひいては日本株に支援的であっても、中期、短期それぞれに警戒すべきリスクがあります。
中期では、株価水準の割高度です。米国株はS&P500種指数ベースで見た株価収益率(PER)が20倍台後半、日経平均は17倍台まで上昇し、高すぎるのではないかという指摘があります。筆者は、米国株については、けん引役のAI関連株が高PERのグロース株の最たるものとして、非AI株とは別物として評価すべきと考えています。これに対して、日本株は、米国株にいかに追随できるかという視点で捉えており、無理が生じたときには、反落リスクを被るものと覚悟して臨みます。
短期では、米株相場に持続力があるにしても、AI先導という明快な人気テーマがけん引するだけに、相場が折々に高みに祭り上げられやすく、自律反落を引き起こすでしょう。日本株は、これに巻き込まれたり、上述の米株高に追随できずに振り落とされたりするリスクを免れないでしょう。
ただし速い相場では、こうした自律反落が起こるたびに、「押し目買いの好機かどうか」を精査して、いかすか逃げるかの判断をすることが、投資戦術の基本となります。
日本株の狙い目
筆者は、米国であれ日本であれ、株式投資をする際に、好景気や利下げなど好都合な材料を押し通したり、関税など悪材料も影響は限定的などと曲解したり、自らのシナリオを正当化するような態度をとらないよう心しています。そして、相場を動かす力学メカニズムに忠実にポジションをとること、不確実性やリスクがある時には、それに関わらないポジションをとることを基本アプローチとしています。
景気、業績、政局と国内要因全般に怪しさがくすぶることを勘案して、選出した業種。銘柄は、AI、防衛、エンタメの三つです。AIは、米国株の先導役であり、日本の関連株がどこまでついていけるかという視点で対応できます(図1)。
図1:米AI株を指針にできる半導体製造銘柄

防衛関連株は、米国からの外圧を含め、日本に要請され、国家が方針として拡充していく分野であり、景気にも左右されにくいでしょう(図2)。
図2:国家の拡充方針に沿う防衛関連銘柄

エンタメ・知的財産(IP)は、日本独自の強さが発揮される分野と考えています(図3)。
図3:日本独自の強みがあるエンタメ・IP銘柄

もちろん、これら3分野も国内株としては明快すぎるテーマです。「人気テーマのわな」を踏まえて、臨む必要があります。
*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません。投資はご自身の判断と責任において行ってください。
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(田中泰輔)