相場は楽観に満ちているが、結局「相場はタイミングが全て」。3年連続で10%のリターンを得た後、たった10%のドローダウンで年平均複利成長率は50%も低下する。
ハイパーインフレ株の上昇と現金の劣化(ゴールドの上昇)
インフレと無尽蔵の赤字によってドルが弱体化している。ゴールドは史上最高値を記録し、1971年にニクソンが金本位制を終了した時の35ドルから100倍を超えて3,600ドル台で推移している。
ゴールドCFD(週足)

通貨を大量に印刷していることから、株式市場が大きく上昇する一方で、ゴールドの上昇は通貨の購買力が大きく下落していることを示唆している。米国も日本も資産価格を維持しつつ、通貨を下落させ借金の価値を下げる選択をしている。従って、株式市場よりも危ないのは通貨である。
ナスダック100CFD(週足)

下のチャートを見ていただきたい。ゴールドとナスダック100のパフォーマンス比較である。皆さんは何に気づくだろうか?
ChatGPTのローンチ以来、ゴールドはナスダック100をアウトパフォームしている

ほとんどの投資家は、株価のピークを「価格」の観点から見ているが、「インフレ込みの実質価格」で相場を見なければいけない時代が到来している。
【ゴールドは貨幣である。それ以外のすべては信用だ】
(J. P. モルガン)
【信じられないのは、世の中の大多数の人々が、何が起こっているのかを理解せずに、ゴールドを買う代わりに「インフレヘッジ」としてハイパーインフレ株を追い続けていることだ】
(@JustDario)
エヌビディア(週足)時価総額4兆ドルのハイパーインフレ株

【泡立つ頂点に立ってしまうと、おそらく歴史の教訓や崩壊したサイクルの谷間が見えにくくなるのだろう。
おそらく、鼻血が出るような市場高値で酸素を失いつつある投資家たちは、1929年の危機以降、1997年12月まで市場が再び21倍のPERで取引されることはなかったということを忘れているのだろう。今では、そのようなPEはほとんど「面白みのないもの」と見なされている。彼らはまた、1929年の暴落した市場が1958年まで回復しなかったことや、1972年のクラッシュが90年代半ばまで回復しなかったこと、あるいは2000年の巨大テックバブルが2011年まで損失を取り戻せなかったことを忘れているのかもしれない。
そしてもちろん、1989年の日経平均もある。失った水準を取り戻すのに34年かかった。
米国の債務と市場バブルに突き刺さるいくつかの「針」について言えば、予見可能なホワイト・スワン(急上昇する金利、FRBの制御を外れるドル、深刻な景気後退)や、予測不可能なブラック・スワン(戦争、暗殺、社会不安など)のいずれもが、この市場と群衆の狂気を、冷や水を浴びせられるような歴史的に「やばい瞬間」へと導く可能性がある。
この狂気の群衆と狂気的に膨れ上がった(そして歴史的にも前例のない)市場に突き刺さる、もう一つの「針」がある。それは多くの人が見ようとしないもので、現在、人々の心や思考、さらには企業の損益計算書までをも同じく狂気的で(そして誤解を招く)水準で支配している、すなわちAIだ】
(マシュー・ピーペンバーグ)
アップル(AAPL) 、 マイクロソフト(MSFT) 、 エヌビディア(NVDA) は現在、米国株式市場全体の17.5%を占めている。このシェアは過去5年間で倍増している。2010年と2015年には、この3社の比重はそれぞれ3.1%と4.2%に過ぎなかった。
この3社は現在、11兆8,000億ドルという途方もない価値を持っている。さらに、時価総額が3兆ドルを突破したのはこの3社だけで、エヌビディアは4兆ドルを超えている。
アップル、マイクロソフト、エヌビディア、今や米国株式市場の17.5%を占めている

ナスダック総合指数の推移(1998~2003年)

結局、毎回同じことをやっているだけである。グリーンスパン以来のバブル飛ばしの「後始末戦略」だが、今回は巨大な地政学的リスクが加わり、債務レベルが持続不可能に近づいている中で、リセットに戦争が使われる可能性が高い。
ところで、照会が多くて意外なのだが、筆者は米国のお手盛りの雇用統計の修正に全く驚きはない。
【ここで展開されているのは、2023年4月以降の米国労働統計の劇的な書き換えに他ならない。
2024年8月の基準改定(-818,000人)、2025年2月の最終改定(-589,000人)、そして今回のベッセント財務長官による更なる80万人削減のサインを合わせると、すでに220万人以上の雇用が帳簿から消えたことになる。
2025年には毎月着実に下方修正され、6月だけでもプラスからマイナスに転じた。2023年4月以降の雇用の過大計上は230万~240万人規模になる可能性が高い。
このような規模の下方修正は金融危機以来のことだ。
BLSの改定によって、大不況に向けた給与調査がいかに雇用を過大評価していたかが明らかになった2009年が最後である。
歴史的に見て、これほど大規模なベンチマーク調整が行われるときは、経済がずっと水面下で弱含んでいたというシグナルだ。
1970年代、1980年代初頭、そして2007年から2009年にかけても、大不況の直前か最中に大幅な修正が行われた。
この2年間、雇用市場の回復力は、金利を高めに維持するためのFRBの主な防衛手段だった。
雇用が実際に存在しなかったとすれば、政策スタンスは強さに寄りかかるのではなく、弱さに押し込まれることになる。
このことは、2025年9月17日のFOMCでの利下げだけでなく、労働市場の脆弱性の真の深さが最終的に認識されるにつれて、2026年に向けてのより広範な軸足が設定されることを意味する】
(EndGame Macro)
米連邦準備制度理事会(FRB)はたまたま利下げに出遅れたのではなく、意図的に高金利政策を武器にして世界的なドル流動性不足を招き、国内経済を犠牲にしてでも資本を米国債に戻させたことになる。FRBは雇用統計の誇張に頼っていたため、対外的にはドルを守ることができた。米国経済が内部的にどれほど弱くなっているかを無視することができたのだ。
ポートフォリオの大幅なドローダウンを防ぐための管理とは、暴落に巻き込まれるのを防ぐために、「アップサイドの一部を放棄する」ことを意味する。
エブリシングバブルによって相場は楽観に満ちているが、結局、「相場はタイミングが全て」である。3年連続で10%のリターンを得た後、たった10%のドローダウンで年平均複利成長率は50%も低下する。
さらに、その後、必要な平均収益率を回復するためには、30%のリターンが必要となる。「平均」と「実質」のリターンには大きな差がある。損失の影響は、年率換算したお金の「複利効果」を吹き飛ばしてしまうのである。
【ポートフォリオの大幅なドローダウンを防ぐための管理とは、暴落に巻き込まれるのを防ぐために、「アップサイドの一部を放棄する」ことを意味する。
ポートフォリオが壊滅的な損失を被っても、ポートフォリオはいつか元の状態に戻るかもしれないが、その間に失った貴重な時間は決して取り戻すことはできない。
投資をする前に、以下の2つの質問の答えを知っておく必要がある。
自分の考えが正しければ、どのくらいの価格で売るか、利益を取るか? 間違っていたらどこで売るのか? 希望と欲は投資のプロセスではない!
テクニカル分析がファンダメンタルズ分析をサポートすると、成功する確率が大幅に向上する。
市場は長い間ファンダメンタルズを無視することができる。
投資すべき「いつ」を決定するためにテクニカルを適用することで、リターンを大幅に改善し、資本リスクをコントロールすることができる。
英雄を気取ってはいけない。自己中心的な考え方をしてはいけない。常に自分自身とその能力を疑ってみる。自分はうまいんだなどと思ってはいけない。そう思った瞬間、破滅が待っている】
(ポール・チューダー・ジョーンズ)
本来、経済が成長し、賃金上昇率やインフレ率が高まる好循環にあるのだとすれば、FRBによるゼロ金利や金融市場への介入、また政府による財政赤字を伴う支出は必要ないはずである。
中央銀行はプリンティング・マネーしかできない。投資家は今後予定されている「利下げ」と「QE5」の波に乗って、最後まで「死の舞踏」を続けるだろう。
S&P500CFD(月足)

いま世界中で起きている終末的状況は、負債と資産の両建てでつくられたエブリシングバブルに覆い隠され金融市場ではほとんど認識されていない。
プリンティング・マネーによる溢れかえった資金によって、株式市場は落ちたら買いとなっているが、過剰流動性による強気の楽観と投機的行動がピークに達すると、レバレッジは逆回転を始める「ダークサイド」を持っている。ある時点で、投資家心理が市場の流動性に関連するレバレッジと衝突する「ミンスキーモーメント」である。
おおむね、市場では「少数派」しか生き残れない。
無限の流動性を持つ中央銀行による国家管理相場で株式市場の法則そのものを無法化してしまった現在、下げ相場を知らない今の市場参加者には無駄な助言となるだろうが、少数派のベテラン市場関係者(グランサム、バフェット、ダリオなど)は、1989年の日経平均株価や1929年の大恐慌よりもスケールの大きな歴史的市場リスクを警告し続けている。
ミヒャエル・ボルムゲート「死の舞踏」

【私は彼らがお金を印刷し続けるだろうという結論に達した。金融システムが破綻しているため、米国政府を救済し、州政府を救済し、年金基金を救済しなければならず、債務は巨大に膨らんでいる。世界中の無知な政府関係者や中央銀行家でさえ、米国はもはや世界の通貨の信頼できる保有者または生産者ではないことを理解し、認識しなければならないと思う】
(マーク・ファーバー)
9月10日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
9月10日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、今中能夫さん(楽天証券経済研究所 チーフアナリスト)をゲストにお招きして、「ブロードコムの快進撃」「エヌビディアとTSMC」「アップルのiPhone17」「中国のビッグテックに注目」「日銀は年内利上げなしか?」「ハイパーインフレ株とゴールドの上昇(現金の劣化)」というテーマで話をしてみました。ぜひ、ご覧ください。




ラジオNIKKEIの番組ホームページ から出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

9月10日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

(石原 順)