FRBは予想通りの利下げをするも、パウエル議長発言やFOMC内の対立で市場は「タカ派的利下げ」と判断。また日銀内でも反対票があり、年内利上げ期待が高まる可能性も。

市場の雰囲気が一気に変わる可能性もあります。今後の経済指標やFRB・日銀の発言が焦点です。


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FRBのタカ派的利下げ、日銀のハト派的姿勢で円安進行へ

 先週の米連邦公開市場委員会(FOMC:9/16~17)では米連邦準備制度理事会(FRB)は予想通り0.25%の利下げを決定し、政策金利を4.00~4.25%に引き下げました。そして今年の金利見通しを、前回は9月を含めて年2回でしたが、今回は市場が期待した通りあと年2回(前回より1回増えた)としたことから一時145円台半ばを付けました。


 しかし、パウエル議長が記者会見で今回の利下げは「リスク管理的な利下げ」と説明し、「0.50%の利下げに対して広い支持を得なかった」と発言したことから、今後の大幅な利下げ観測が後退し、米金利が反転上昇してドル/円は147円台に戻し、18日には148円台に乗せました。


 また、日本銀行の金融政策決定会合(9/18~19)では、政策金利は現状維持でしたが反対票2票が投じられたことや、上場投資信託(ETF)などの売却がサプライズと受け止められ、ドル/円は147円台前半の円高になりました。しかし、植田和男総裁の記者会見の発言からは利上げ時期が見通せなかったことから再び円安に動きました。


 FOMCでは労働市場の下振れリスクが警戒され、パウエル議長も記者会見で労働市場が「とても堅調だとはもはや言えない」と述べましたが、FOMCの経済見通しでは2025年の国内総生産(GDP)成長率を1.4%→1.6%に、2026年を1.6%→1.8%に前回より上方修正し、失業率を2025年は4.5%で維持し、2026年は4.5%→4.4%へ下方修正(改善方向)しています。


 これらの見通しやパウエル議長のそのほかの発言から米国景気への警戒は強く感じられなかったと市場はみているようです。


 FOMC決定の前日16日に発表された米8月小売売上高は予想+0.2%に対して+0.6%と予想を大きく上回ったのもこの見方を後押ししたようです。


 ただ、トランプ関税の影響を跳ね返した米国消費は力強いという見方もある一方で、トランプ関税の影響による物価上昇が売上高を押し上げた一因との見方や関税引き上げの影響がもっと強くなる前の駆け込み需要との見方もある点には留意する必要があります。


 また、金利見通しについては予想よりタカ派的な内容でした。前回は9月を含めて年内2回でしたが、今回は9月に利下げを決定した後に年内2回(10月、12月のFOMCで利下げ)と前回よりハト派的な見通しとなっています。


 この見通しは参加者の中央値です。しかし、FOMC内部での利下げ見通しは大きく分かれました。FOMC参加者19人のうち7人は、年内2回(10月、12月)のFOMCでもう利下げしないとみており、そのうちの1人は今回9月も据え置きを前提にした見通しを示しました。年内利下げをあと1回としたのは2人でした。


 つまり、19人の参加者のうち9人は年内2回の利下げを想定していないということになります。年内あと2回の利下げとしたのは9人で、さらに1人は今回を含めて年内1.50%の利下げ予想となっています。


 0.50%の大幅利下げを3連続で利下げする内容ですが、今回0.50%の利下げを主張して0.25%の利下げに反対した、トランプ大統領肝いりでFOMC直前に参加が決定したミラン氏の主張とみられています。


 そして来年の見通しも市場では2~3回(現状の4.25~4.50%から1.25~1.50%の利下げ、3%割れまで)と利下げ期待が大きかったのですが、FOMCの金利見通しは年1回と前回6月と同じ回数となりました。これらの見通しから今回の利下げはあまりハト派ではないとの見方から、金利はすぐに反転上昇し、ドル/円は円安に反転しました。


年内利上げの号砲?今後の日銀内の変化に注目

 今回のFRBの利下げは予想通りでしたが、タカ派的な利下げと市場はみているようです。FOMC後のFRB高官からの発言もタカ派的な発言が相次ぎました。


 ムサレム米セントルイス連邦準備銀行総裁は「追加利下げの余地は限られている」「インフレリスクが高まった場合、追加利下げは支持しない」などと述べ、ハマック米クリーブランド連銀総裁は「インフレの水準と持続性について懸念している」「急速過ぎる利下げは景気再過熱の原因にもなり得る」などと発言しています。


 また、ボスティック米アトランタ連銀総裁「年内の追加利下げの必要性は現時点ではない」などと話しました。一方、0.50%の利下げを主張したミランFRB理事は「政策金利は高過ぎる」「労働市場を守るために今後数カ月で積極的な利下げを実施すべき」などと述べています。


 FRBのタカ派的利下げ、日銀のハト派的現状維持によってドル/円はブレーキがかかったような抑制的な円高の動きになっていますが、一方で、自民党総裁選も円安の材料としては色あせてきており、やはり、米国要因によってドル/円相場は動きそうです。


 パウエル議長は記者会見で、利下げは「1度限りではない」と述べ、追加利下げを示唆しました。また、年内2回の利下げ見通しとなっていることからドル/円の上値が重たい地合いは続きそうです。


 しかし、FOMC内での年内2回の利下げ見通しは分かれていることから、今後の経済指標によっては変わる可能性があり、市場の期待もころころ変わる可能性があるため注意が必要です。


 例えば、10月3日発表の米9月雇用統計も予想を上回ると、利下げ期待が後退し、ドル高が予想されます。逆に予想を下回ると労働市場の下振れが確認されたとして、10月の利下げ期待が高まり、ドル安が予想されます。FRB高官の発言も変わるかもしれません。


 今回の日銀会合で日銀内にも変化が出始めている点には注目です。2票の反対票は植田総裁に反旗を翻したように見え、年内利上げの号砲かもしれません。日銀は10月も利上げを見送り、市場は年度内(2026年3月)利上げとの見方が多いようですが、年度内から年内(2025年12月)への利上げ期待が高まるのかどうか注目したいと思います。


 反対票を投じた高田創・田村直樹両審議委員の主張に同調する委員が発言し始めると市場の雰囲気がガラッと変わる可能性があります。今後の日銀の動きにも注目です。


(ハッサク)

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