かつて東京近郊のJR路線を愛称として「E電」と呼んだ時代がありました。しかしこの呼称は浸透せず、いつの間にか使われなくなり……。
そういえばかつて耳にしたけれど、最近は聞かなくなった――鉄道関連では、事業者が利用者に親しんでもらえるよう命名したものの、浸透しなかった愛称は多々あります。
例えば「E電」。分割民営化し発足したばかりのJR東日本が1987(昭和62)年5月、それまで「国電(こくでん)」と呼ばれていた東京近郊の電車に対する新たな呼称として一般公募の後に発表しました。「E」には「East」のほか、「Electric」「Enjoy」など複数の意味が込められました。
中央線などの電車には、先頭に「こんにちはE電」などと書かれたヘッドマークが掲出されたほか、「E電」を宣伝するポスターも駅構内などに掲示されました。
JRが発足したばかりのころ、東京圏でも多く見られた103系電車(草町義和撮影)。
しかし一般にはあまり普及せず、JR発足から5年あまりたった1993(平成5)年ごろには、駅の案内板などでも使われなくなっていました。
実際、利用客だけでなく当時のJR職員も、具体的な路線名を口にすることが多く、「国電」に代わる複数路線全体を指す愛称である「E電」は、あまり馴染まなかったようです。
似た例として、愛称などがいったんは決まったものの、結局は日の目を見ることなく消えてしまったものもあります。「東京環状線」と「ゆめもぐら」、覚えている人もいるかもしれません。
結局、愛称までボツになった「東京環状線」これらは現在の都営大江戸線に付けられる予定だった名称と愛称です。
しかし大江戸線は完全な環状線ではないとして当時の石原慎太郎都知事が難色を示し、結果としてほかに得票数の多かった「大江戸線」に決定。愛称は設けられませんでした。

東武野田線のホーム案内板には「東武アーバンパークライン」の愛称が入っている(2014年10月、恵 知仁撮影)。
埼玉県の大宮駅と千葉県の船橋駅を結ぶ東武野田線には、2014(平成26)年4月から「アーバンパークライン」の愛称が導入されています。東武鉄道は路線図や不動産広告などでこの愛称を積極的に活用していますが、東武アーバンパークラインPR事務局が2020年に実施したインターネット調査によると、「アーバンパークライン」と呼んでいるのは利用者の25%にとどまったそうです。特に40~50代は8割以上が「野田線」と呼び続けるという結果でした。
ほかにも東京23区内の北部を走る都電荒川線には、「東京さくらトラム」の愛称があります。沿線に桜の名所が多いことなどから、国内外の観光客にも親しみを持ってもらいたいとして2017年4月、公募の末に名付けられました。
東京都は駅の看板やパンフレットなどで「東京さくらトラム」を前面に押し出していますが、「都電」や「荒川線」と呼ぶ地元の人なども、この名を口にするようになるのでしょうか。