東京~博多間を結ぶ西鉄の夜行高速バス「はかた号」、運行30周年を記念して投入された新型車に乗ってみました。14時間もの長さを感じさせない快適な車内から、30年にわたり支持される理由を探ります。

先代「はかた号」よりも座席ゆったり 最新装備も

 西日本鉄道(以下:西鉄)が運行する東京(新宿)~北九州・福岡間の夜行高速バス「はかた号」が、2020年10月で運行開始30周年を迎え、これに先立つ7月には新型車も導入されました。今回、その新「はかた号」に新宿から乗車しました。

 新宿の乗車地は、日本最大級の高速バスターミナル「バスタ新宿」。バスは発車10分前に乗り場へ入線します。

 ベース車両は、乗り心地と安全対策がさらに進化した三菱ふそう製の最新型スーパーハイデッカーバス「エアロクイーン」。前面のつりあがったヘッドライトが特徴です。

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「はかた号」専用車としては9代目となる新型。バスタ新宿にて(須田浩司撮影)。

 車内は、前方4席が個室型プレミアムシート、後方19席(予備席を含む)が3列独立ビジネスシートの2クラス制になっています。車内に入ってみると、まるでホテルのリビングに居るかのような雰囲気。全体的な質感をさらに向上させた印象を受けます。

 特に人気なのが、今回筆者(須田浩司)が乗車した個室型プレミアムシートです。

先代車両と比較して、座面幅を約6cm、背もたれを約19cm拡大。座り心地を改良したほか、木目調パネルの多用で、より落ち着いた雰囲気になりました。

 シートはリクライニング・オットマンの角度調整や、シートヒーター、マッサージ機能、座面送風機能も含めて、操作は全て電動式です。ワイヤレス式携帯充電器、USBポート(2口)、専用の空気清浄機も搭載しているほか、側窓カーテンは、新幹線などで見られるロール式となっており、しっかりと光を遮ってくれます。

 一方の3列独立ビジネスシートも、ダブルクッションの採用で座り心地を改良。全席に3点シートベルト、USBポート(1口)、プライベートカーテンを装備しています。

 また、この新型車両では安全対策をより強化。ドライバーが安全に運転できない状態に陥った場合に異常を検知し車両を自動的に停止させる「ドライバー異常時対応システム」(EDSS)なども搭載しています。これらの装置の一部は、通信型ドライブレコーダーと連動しており、運行管理者がリアルタイムで運行の状況を確認することで、万一異常が発生した場合に迅速に対応することができるようになっています。

新型コロナ対策はどうなっている?

 新型コロナ対策にも万全を期しています。車内にはプラズマクラスターイオン発生装置を搭載しているほか、プレミアムシートには専用の空気清浄機も設置。また、車内前方には除菌水噴射装置(ハイクロミスト)を設置しています。

エアコンの外気導入運転の実施や、消毒用アルコールの常備、乗車前の検温実施、乗務員のマスク着用といった対策も徹底しています。

 バスは、消灯前と起床後の開放休憩を挟みながら、北九州・福岡へ向けて高速道路をひた走ります。寝たいときは寝て、眠くないときは窓を開けて夜景を見ながら時間を過ごすといった「自分だけの時間」を過ごせられるのが、プレミアムシートの最大の魅力。シートのリクライニング角度が若干浅いのが気になりましたが、それでもシートの座り心地は良く、車両自体の揺れや騒音も少ないことから、快適に眠ることができました。

最新型「はかた号」に乗った 東京~福岡14時間も快適に 支持され続ける理由

翌朝、目を覚ますと一面に瀬戸内の景色が(須田浩司撮影)。

 翌朝、目を覚ますと、瀬戸内の景色が車窓一面に広がります。

山陽道の佐波川SA(山口県防府市)での朝の開放休憩を終え、関門橋を渡ると、いよいよ九州へ。小倉駅前など北九州市内各所に停車し、終点の博多バスターミナルの到着したのは、昼前の11時過ぎでした。

 車内設備をはじめとするサービスの良さに、変わりゆく道中の車窓――14時間の長さを感じさせない、実に快適なバス移動でした。

30年間「はかた号」が支持される理由とは?

 今や「キング・オブ・夜行バス」ともいわれる「はかた号」。多くの方に支持される理由については、人によって考えが大きく異なるため、一概にはいえませんが、筆者は次のように考えます。

・「宿代を節約しながら移動できる」といった夜行バスならではのメリット、お得感
・日本最長クラスの距離を走るバスに乗ることへのあこがれ、期待、優越感
・「夜行バス界のキング」にふさわしいサービス(車内設備・乗務員の応対など)

 夜行バスならではのメリット、お得感については、寝台特急(ブルートレイン)が廃止されて以降、夜行バス以外に東京と福岡を夜行で移動する交通手段がないことから、「寝ながら移動したい」という一定のニーズに応えているといえるでしょう。

 運賃についても、LCCと比較すると多少の割高感は否定できませんが、移動費と宿泊費の合計金額を加味すると、夜行バスならではのお得感もそれなりには感じるはずです。早割運賃(WEB早割45・WEB早割30)の利用により片道最安7700円で移動できることから、できるだけ安く移動したい方へのニーズにも応えています。

最新型「はかた号」に乗った 東京~福岡14時間も快適に 支持され続ける理由

佐波川SAにて(須田浩司撮影)。

 また日本最長クラスの距離を走るバスに乗ることへのあこがれも、最近ひしひしと感じます。「乗ったことはないが一度は乗ってみたい」「あの『はかた号』に乗った!」といったSNSなどでの書き込みも最近よく目にするようになりました。

 そして、個室型プレミアムシートをはじめとする快適な車内設備はもとより、国内トップクラスといわれる西鉄乗務員の運転技量、接遇など、一度乗車すると運行距離だけではない、「夜行バス界のキング」にふさわしい路線であることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

忘れちゃいけない『どうでしょう』の影響 今後はどうなる「はかた号」

 なお、もうひとつ挙げておきたいのが、北海道テレビのバラエティ番組『水曜どうでしょう』の影響です。

 同番組において、「はかた号」は2つの企画、「サイコロ5~キングオブ深夜バス~」「5周年記念特別企画 札幌~博多3夜連続深夜バスだけの旅」で登場しますが、同番組のファンが「はかた号」に乗車して旅をする様子や旅の感想をSNSなどに投稿しているのを頻繁に目にします。『水曜どうでしょう』が「はかた号」の知名度アップに一役買っているのは間違いないといえるでしょう。

 しかしながら、「はかた号」に限らず高速バス路線の盛衰は、一般的に景気動向や並行交通機関の動向に左右されます。現在は、コロナ禍の影響で「はかた号」もかなり苦しい状況に陥っていますが、それでも予約サイト(ハイウェイバスドットコム)での予約状況を見る限りでは、プレミアムシートの予約率が相変わらず高い印象を受けます。

最新型「はかた号」に乗った 東京~福岡14時間も快適に 支持され続ける理由

先代(8代目)の「はかた号」。個室型のプレミアムシートを初めて導入した(須田浩司撮影)。

 一定のリピーターがいると思われるプレミアムシートについては、今後も高乗車率を維持できる可能性がある一方で、3列独立ビジネスシートの利用者数をどう増やして行くか、そしてなによりも、『「はかた号」を利用してみたいと思わせるような施策・仕掛け』をどう作っていき、どう継続させていくかが、今後路線が存続するうえで重要なカギになるのではと考えます。

 運行30周年を迎えた「はかた号」。今後も夜行バス界の「キング・オブ・キング」として、末永く運行し続けることを期待したいものです。