北海道札幌市にある札幌丘珠空港。ここは隣接して陸上自衛隊の丘珠駐屯地もあり、滑走路を共用しています。

これに由来し、日本唯一といえることが行われている空港でもあります。

北海道のなかの「羽田」いや「調布」? 丘珠空港の「日本唯一」とは

 北海道の空の玄関口、新千歳空港。しかし道都札幌には別の空港「丘珠(おかだま)空港」があります。この空港、道民には馴染みがありますが、道外の人で利用したことがある方は少数でしょう。なぜなら丘珠空港を発着する定期便の過半数は、道内の空港の発着便だからです。

 そのため道民以外に説明する場合、札幌丘珠空港はいわば羽田空港、新千歳空港が成田空港と例えるとわかりやすいでしょう。そんな基幹空港ながら管制業務、実は陸上自衛隊が担当していることはあまり知られていません。

 空港の管制業務は一般的に、羽田空港や成田空港、関西国際空港などは国土交通省の係官が担い、自衛隊(在日米軍含む)との共用空港については自衛官(およびアメリカ軍人)が行っています。

 自衛隊との共用空港は丘珠含め全国に8か所あるものの、そのうち5か所は航空自衛隊(および在日米軍)が管制業務を行っており、2か所は海上自衛隊(および在日米軍)、そして残る1か所が陸上自衛隊です。

 いうなれば札幌丘珠空港は、日本唯一の陸上自衛隊が管制業務を行う空港なのです。

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夜間、丘珠空港に到着したHAC(北海道エアシステム)のATR42旅客機(松永直也撮影)。

 丘珠空港は滑走路長が1500mで、新千歳空港の3000m2本と比べると小ぶりですが、ここに乗り入れているエアラインは利尻島、女満別、釧路、函館、青森、長野、静岡をつないでおり、便数的には道内有数のハブ空港といえるほど。

 さらに札幌丘珠空港の特徴としてエアラインだけではなく、北海道警察、札幌市消防、北海道防災室、陸上自衛隊、報道ヘリにドクターヘリ、フライトスクールの所有する小型機や、モーターグライダーなどが飛び交い、個人所有のビジネスジェットも飛来します。

場所を選ばず航空管制できる管制官、それが陸自の管制官!

 札幌丘珠空港の管制を担うのは、陸上自衛隊北部方面航空隊隷下の北部方面管制気象隊です。その名称通り、管制任務と気象観測任務の両方を担当しており、丘珠空港以外にも北海道内の陸上自衛隊飛行場、旭川と帯広の両駐屯地内飛行場(旭川空港、とかち帯広空港とは別)の管制業務を担っています。

 陸上自衛隊というと“小銃持って匍匐前進””戦車や火砲でドンパチ”といったイメージが強いかもしれませんが、ヘリコプターなどの航空機も保有しています。北部方面航空隊とは北海道の対戦車ヘリコプターや多用途ヘリコプターなどを運用する部隊です。それら航空機を運用するために飛行場の航空管制を担う管制気象隊を隷下に持っているといえるでしょう。

「北海道の羽田空港」というには特殊すぎる!? 札幌に近い丘珠空港の日本唯一づくめ

陸上自衛隊丘珠駐屯地の正門。丘珠空港に隣接して設けられており、同空港の管制業務も担っている。中央奥に見えるのが空港の管制塔(乗りものニュース編集部撮影)。

 とはいえ、陸上自衛隊の管制官なので、海上および航空自衛隊の管制官とは違う側面も持っています。それは基地の外でも航空機の管制業務を実施すること。陸上自衛隊は有事の際、駐屯地の外に出て戦うことを想定しています。

これはヘリコプターなどの航空機も例外ではないため、陸上自衛隊の航空科要員はすべて野外での任務達成が基本になっています。

よって管制気象隊も駐屯地を出て顔に迷彩を施し、偽装を付け、管制塔などない過酷な環境の中で管制業務を行います。実は陸上自衛官でも管制気象隊は演習に行かないと思う隊員が意外と多いといわれます。

空港の除雪はさながら「雪まつり」

 なぜ唯一、丘珠空港だけが陸上自衛隊の手で管制業務を実施しているのでしょう。それは丘珠空港の歴史が深く関係しています。ここは1954(昭和29)年に陸上自衛隊の飛行場として開設され、後の1961(昭和36)年に共用空港となったからです。

 要は太平洋戦争後、陸上自衛隊の駐屯地として使われ始め、のちに民間の定期便が就航、そして現在に至るまで海上自衛隊や航空自衛隊、在日米軍などの部隊展開もなかったことから、今日まで陸上自衛隊が一貫して管制業務を実施しているといえるでしょう。

「北海道の羽田空港」というには特殊すぎる!? 札幌に近い丘珠空港の日本唯一づくめ

HAC(北海道エアシステム)のサーブ340が停まる丘珠空港。右奥に見えるのは、札幌市民にはお馴染みの札幌コミュニティドーム「つどーむ」(松永直也撮影)。

 なお、前述したように丘珠空港は民間定期便だけでなく、陸上自衛隊、警察、消防なども利用し、小型機からヘリコプター、モーターグライダーなど飛来する機種も様々。さらにドクターヘリなど緊急の任務を帯びて離発着を行う機も存在するため、異なる速度域の航空機をさばかねばならないとのことです。

 このため、滑走路に着陸するまでに管制官が効率よく整列させて着陸させるのですが、ほかの空港のように、同じ速度域の航空機の飛行間隔を調整させるのとは勝手が違います。

速度がまるで違う様々な機体を上空で整列させるのは少し難しいとのこと。

 また、ほぼ自衛隊が管制する飛行場特有のものとして、レーダー進入という進入方法があります。管制官がレーダー画面の情報をもとに、降下する航空機に対して針路や降下経路のズレといった情報提供と修正指示を、無線を使いリアルタイムで行うものです。冬季の吹雪などの強風や視程障害の際には、管制官の腕の見せ所となっています。

 丘珠空港は日本海側、石狩湾にほど近い場所にあるため、新千歳空港よりも降雪量が多く、吹雪くこともあるといいます。そのため、毎年冬になると空港業務の一環として除雪隊を期間限定で編成するのですが、民間空港や海上・航空自衛隊の航空基地と違うのが、近隣の駐屯地の施設科(いわゆる工兵部隊)から隊員を集め編成する点です。まるで「さっぽろ雪まつり」のようですが、ほかの駐屯地から応援を呼べるのは、北海道の陸上自衛隊ならではといえるのかもしれません。

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