飛行機は事前に取り決められた「運航ダイヤ」に沿って運航されます。ANAの国内線の場合、その便数は1日1000便にも上りますが、どのように決められるのでしょうか。
飛行機は基本的に、事前に取り決められた「運航ダイヤ」に沿って飛びます。ANA(全日空)の国内線ではその数、1日に1000便とのこと(新型コロナウイルスによる減便を除いた計画便数、他社との共同運航便を含む)。
このダイヤは国際線、国内線ともに定期的に見直されています。国際線、国内線ともに、IATA(国際航空運送協会)の取り決めに基づいて、3月末から10月末までのを「夏ダイヤ」、10月末から3月末までを「冬ダイヤ」と定めており、ここで大きな改変が実施されます。
羽田空港第2ターミナルを往来するANA国内線機(2020年、乗りものニュース編集部撮影)。
ANAによると、さらに国内線はおおむね3か月ごとに、さらに細かく調整するといいます。どのように決められているのでしょうか。同社によると、国内線のダイヤ設定は「5人くらい」の“少数精鋭”で実施されているといいます。このメンバーである、ANA企画室ネットワーク部の大日向 航さんに話を聞きました。
――航空ダイヤが設定されるまでの流れを教えてください。
国際線と国内線で流れは異なりますが、実はダイヤが設定される結構前から、準備が始まっているのです。
ダイヤ設定には、3つの要素が必要です。まず、お客様の流動があるかどうかの「需要」そのものです。ふたつ目は「権益」というものです。一般の人からすると聞きなれない言葉ですが、ひとことでいうと「その空港に発着できる権利を有しているかどうか」です。たとえば「羽田空港の発着枠」などがこれにあたります。そして最後の要素が飛行機や乗務員といった、リソースです。新規路線の開設に際して、新たな飛行機を購入する……というパターンもあるのです。
空港ごとの「ローカルルール」 伊丹や福岡にある「門限」とは?――先ほど「羽田空港の発着枠」の話題がでましたが、そのほかの国内空港では、どういった「ローカルルール」があるのでしょうか?
代表的なものとしては、伊丹空港の運用時間制限や福岡空港などの「カーフュー(離着陸制限)」と呼ばれるルールがあります。これは「門限」のようなもので、離着陸できる時間帯があるのです。こういった空港では遅延がなかなか許されないので、遅延しにくいよう、ダイヤの構造に一層の工夫を凝らしています。
たとえば、北海道の路線は冬場に降雪による遅延が生じやすいです。そのなかで飛行機のやりくりを新千歳→羽田→福岡、もしくは伊丹という風にしてしまうと、新千歳で遅れてしまった場合にリスクが生じます。そのため福岡に入れる飛行機は、福岡→羽田→福岡→羽田……といったように遅延のリスクを回避しやすい運用の工夫を加えています。
このほか、空港の滑走路が短めであることから、使用できる飛行機に制約があるところもあります。基本的に短い滑走路を持つ空港は流動もそれほど多くはないので、アンマッチが生じにくいのですが、たとえば北陸新幹線が開業するまでの富山空港は、流動が多いわりに、滑走路が2000mであり投入する飛行機に制限がかかるといったようなケースもありました。
実は幅広い「飛行機のモデル」の選び方――国内線では、どのように飛行機のモデルを選ぶのでしょうか。
実は国内線に就航する多くの空港では、滑走路長などの地理的な条件を満たしていること、そのモデルの整備資格を保有する整備士がいること、事前に当局側に認可を受けていることなどの条件が揃っていれば、基本的にはどこでもどのモデルを投入できます。たとえば九州域内の路線に、大型のボーイング777-300型機(500席以上の座席数を持つ)を入れることも可能です。
ただ、国内線の場合、路線別の利用者数の序列はほぼ固まっているといえます。なので、結果的に多くのお客様の乗る路線には、大きな飛行機を入れる……ということになりますが、「もし飛行機のサイズを入れ替えたらどうなるか」というのも常に意識しています。

インタビューに答えるANA企画室ネットワーク部の大日向 航さん(2020年11月、乗りものニュース編集部撮影)。
――時刻表を改正するときには、どのような工夫をしているのでしょうか。
ポイントとなるのは、時刻表に記載されている「ブロックタイム(飛行機が動き出してから到着し飛行機が停止するまでの時間)」です。私たちはシーズンごとに「ブロックタイムが適正かどうか」をチェックしています。これは季節、飛行機のモデル、そして出発時間帯によって細かく分析し、これを次のシーズンに反映することで、お客様にとって定時性を確保できるようにしています。冬と夏で、路線によっては、20分程度ブロックタイムがズレることもあります。
キモの「ブロックタイム」とは? 5分単位の微調整――ブロックタイムが見直された例は、どのようなものがあるのでしょうか。
たとえば現行の2020年12月から翌1月末までのダイヤの場合、羽田発高松行きの便がこれにあたります。この路線では、NH997便以外はすべてエアバスA321型機を用いていますが、NH531便、997便、537便、539便のブロックタイムが1時間20分なのに対し、533便と535便は1時間25分と延びています。
同じ路線で同じモデルで5分差がついているのは、実績で見てこれらの便は遅れている傾向にあるな……という経験則から決めているからです。この場合は、時間帯から見て空港管制の交通量が多くなっているというのも一因でしょう。

ANAの時刻表。紙ベースのものは2021年1月をもって終了する(2020年11月、乗りものニュース編集部撮影)。
――ダイヤを設定するうえで、苦労するポイントはどのようなところでしょうか。
通常時のダイヤ設定は、5分単位のせめぎあいです。乗務員たちの勤務制限内に収まるパターンを決めれば、整備が間に合わないということもあります。一方、空港のスポット(駐機場)も、10分後ろ倒ししなければ駐機ができない、といったこともあります。お客様にとって利便性の高いダイヤ、そして私たちが作りたいダイヤという要素だけではなく、そういった全ての制約を調整するダイヤを組まないといけないというのが、難しいところですね。
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なお、大日向さんによると、出発ラッシュのときに滑走路前で飛行機が列をなしている……という状態も「もちろん加味して時刻表を設定しています」といいます。「一方で、スピードはお客様にとっての商品価値に直結するので、やみくもにブロックタイムを長引かせるというのもしません」と話します。