「開かずの踏切」は無いに越したことはありません。踏切廃止の気運は高まったり静まったりを繰り返しますが、高まるきっかけのひとつになったのが竹ノ塚駅脇での事故でしょう。

ただ自動と手動どちらが良いかは一概にいえなさそうです。

「開かずの踏切」廃止の気運高めた事故

 東京や大阪などの都市部、特に頻繁に列車が運行しているエリアにおいて「開かずの踏切」は、生活にも大きな影響を及ぼす問題です。政府・地方自治体・鉄道事業者などが「開かずの踏切」を解消すべく、踏切の廃止に向け取り組んでいます。

 踏切の廃止とは、廃線を除き具体的に立体交差化を意味します。その機運はその時々の社会情勢によって、高まっては静まるを繰り返してきました。

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竹ノ塚駅南側にはかつて、踏切警手が操作する踏切があったが、2005年の事故を受け自動化された。代わりに、安全を見守る警備員が配置された(2009年4月、小川裕夫撮影)。

 気運が高まったひとつのきっかけに、2005(平成17)年3月に発生した、東武鉄道伊勢崎線の竹ノ塚駅(東京都足立区)に隣接する踏切での事故が挙げられます。同駅は普通列車のみが停車し、急行や準急は通過。優等列車が追い越しできる複々線区間になっています。加えて車庫への引き込み線もあり、回送列車が通過する際も長時間にわたり踏切が閉じます。ここの踏切は、地元で「開かずの踏切」として有名だったのです。

 事故は長時間の踏切待ちに業を煮やした通行人が、踏切警手(東武鉄道では踏切保安係)に対して「早く開けろ」と迫ったことに起因。踏切警手は確認が不十分のまま踏切を開けてしまいました。踏切警手とは、主に交通量の多い踏切で踏切の開閉を手動で行う専任の職員のこと。昭和時代には各地の踏切で見られました。

 この時、多くの歩行者が一斉に踏切を渡り始めました。その中には高齢者の姿も。そこへ電車が通過し、高齢者2人を含む計4人が死傷する惨事となったのです。「開かずの踏切」をわずかな時間でも解消しようとしたことが裏目に出た人為的ミスによる事故でした。

首相が踏切前の「一時停止廃止」まで持ちかけた

 同じころ政府も「開かずの踏切」を問題視し、それが経済的な損失になると試算していました。都市部では「開かずの踏切」によって主要幹線道路で慢性的な渋滞が発生。渋滞はクルマのドライバーがイライラするだけではなく、無理な横断を誘発するといった事故のリスクを高めます。また、渋滞によって移動時間が長くなることによる経済的な損失も試算されました。

むしろ「開かず化」懸念も 明暗ある踏切の自動化 流れを決定づけた手動踏切の事故

工事が進む竹ノ塚駅付近の高架橋(画像:東武鉄道)。

 最近ではアイドリングストップなどの仕組みが備わり、停車中はエンジンが自動で停止するクルマも珍しくなくなってきていますが、当時は渋滞が環境汚染を深刻化させているという指摘もありました。

 このように「開かずの踏切」は経済的にも環境的にもマイナスが大きいのですが、すぐには立体交差化できません。当時の小泉純一郎首相はすぐに実行できる対策として、「踏切の手前で一時停止をしなくてもいい」ように、道路交通法の改正を検討するよう指示したほどでした。

 小泉首相の指示は、主にクルマのドライバーから賛同の声が多く寄せられました。しかし、警察庁が交通安全の観点から難色を示したこともあり実現していません。同時に鉄道事業者からも懸念が強く示されました。鉄道は安全運行を第一とします。事故が起きれば列車の遅延が発生するばかりか、その規模によっては車両や設備修復の必要性が生じます。つまり、鉄道事故は社会的な影響が大きいのです。

 そして鉄道事故のうち約8割が、踏切およびその周辺で起きるといわれています。線路と道路が交差し、クルマや歩行者が行き交うわけですから当然といえば当然です。

人の目があることで抑制できる無理な横断

 自動式の踏切が普及したことで、踏切警手は姿を消していきましたが、人間が操作しないことで、逆に「開かずの踏切」と化してしまうケースもあります。

 例えば先述の竹ノ塚駅脇の踏切では、普通列車が駅に停車中のわずかな時間に踏切を開けることが可能です。しかし自動化された踏切では、接近する列車や不測の事態を考慮し長めに閉まります。

 しかし一方で、人間は不注意によってミスをします。竹ノ塚の事故は、同踏切を自動化させただけでなく、全国各地でわずかに残っていた有人踏切の廃止が一気に進みました。なお、竹ノ塚駅脇の踏切は、踏切警手に代わって警備員が配置されてきましたが、間もなく完成する立体交差化によって踏切自体が過去のものになります。

 では自動式の踏切が安全かと問われれば、必ずしもそうとはいい切れません。事実、事故も起こっています。

 無人の自動式踏切の場合、閉まっている踏切を強引に突破する危険行為が起きやすいという特徴があります。有人ならば踏切警手など人間が監視しているため抑止効果が働きやすく、無理な横断は激減するのです。

 人件費との兼ね合いもありますが、安全第一を考えるなら人間の目と判断、そしてコンピューター制御される自動式踏切のダブルチェック体制が望ましいところです。しかし技術の進歩や性能向上により、現実は踏切に限らずあらゆる場面での無人化・自動化が進められる潮流にあります。

ゼロリスクを求めるのは不可能ですが、リスクをできるだけゼロに近づける努力や工夫を怠ることはできないのです。その策のひとつが、鉄道事業者がコロナ禍においても多額の予算を計上しながら推進する、立体交差化事業といえるでしょう。

※一部修正しました(7月6日10時40分)。

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