かつて大小さまざまなターボプロップ旅客機が行き交ってきた日本では、ここ5年で大きな変化を見せています。国内の地域航空会社において、ATR社の「ATR42シリーズ」の導入が相次いでいるのです。

どのような強みがあり、今後の予想はどうなのか――同社の経営陣が話しました。

天草エアラインからJAC、HACでも

 かつて国内では、ジェット旅客機はもちろんのこと、プロペラを回して飛ぶターボプロップ機も、さまざまなタイプが地方路線を飛び交っていました。代表的なモデルとしては、国産旅客機のYS-11をはじめ、サーブ340B、デ・ハビラントDHC8-Q400などです。しかし近年、ターボプロップ機におけるこの傾向が変わりつつあります。

 その中心となっているのが、フランスATR社のATR42-600シリーズです。急速にシェアを伸ばし「2010年以来50~90席の航空機市場で最も売れているリージョナル航空機」(ATR)で、ターボプロップ機全売上高の75%のシェアを誇るといいます。国内では2016(平成28)年、熊本県の天草エアラインでの導入をきっかけに、JAC(日本エアコミューター)、HAC(北海道エアシステム)でも次世代主力機として、次々に選定されています。ATR社のステファノ・ボルトリCEO(最高経営責任者)など経営陣が2021年9月7日(火)、日本国内の報道陣に対し、現況や今後の展望について答えました。

ターボプロップ機は「ATR42」の独壇場となるのか? 5年で...の画像はこちら >>

ATR72-600型機(画像:ATR)。

 ATR42-600シリーズの強みは「ターボプロップ機でもファミリー化していること」(ステファノ・ボルトリCEO)といいます。現況のラインナップでは、30~50席クラスの「ATR42-600」を基本とし、現在開発を進めているSTOL(短距離離着陸)対応タイプ「ATR 42-600S」、44~78席の胴体延長タイプ「ATR 72-600」、そして貨物型の「ATR 72-600F」の4つがあります。

 現在世界の航空市場は、新型コロナウイルス感染拡大によって大きな影響をうけていますが、そのなかでもATRは2020年3月以降の新規顧客が11社増え、2021年の納入予測は従来の2倍以上とのこと。

国内においても「新型コロナ感染拡大以前のレベルまで回復し、ATR機は現在すべて稼働している」としており、コロナ危機のなかでも、堅調な業績を保っているといえそうです。

 ATR42シリーズは、今後ターボプロップ旅客機市場を牛耳っていくのでしょうか。

今後国内のターボプロップ機、どれくらい必要?

 ATR社によると、日本では数年内に、40ものターボプロップ旅客機が機材更新の時期を迎えるとしています。「日本市場は、飛行機の機齢が高いターボプロップ機が多い」とのことで、「7年から10年で見ると、100機の需要があり、ATR42はかなりのシェアを獲得できるのでは」としています。なお、同機の競合機としてはデ・ハビラントDHC8-Q400が挙げられますが、こちらは生産を休止しています。

ターボプロップ機は「ATR42」の独壇場となるのか? 5年で国内地域航空の主力機に 今後の戦略は

デ・ハビラントDHC8-Q400型機(乗りものニュース編集部撮影)。

 また、同社によると今後もターボプロップ旅客機の需要は一定の規模が見込めるとのこと。「リージョナルジェット」と呼ばれる同クラスのジェット旅客機と比べると、燃費や騒音の低さに優れるほか、地上設備が限られた小規模な空港にも対応できることが強みだといいます。「世界の民間専用空港の36%はターボプロップ機しか就航していない」「今後もATR42シリーズは、地方間輸送において重要な役割を果たしていく」ということです。

 ATRの経営陣は「コロナ禍で、地上交通をさけ小規模の空港や小型機を用いて移動するニーズも高まっており、これはプラスになる可能性が高い」とも。また「交通アクセスの良さは、医師を見つける要素のひとつです。天草であれば、いったんATR機で福岡に行くことができます」と、現況の地方交通にもATR42シリーズがマッチするものであると説明します。

 ちなみに、ATR機は、離島のワクチン輸送にも使われているといいます。

ATR42の最新ラインナップ、導入したらどうなるのか

 先述の短距離離着陸対応タイプ「ATR 42-600S」は設計が完了し、2025年に就航予定。この機は、800mの滑走路で離着陸ができることがうたわれています。国内で採用されれば、礼文(北海道)や、佐渡(新潟県)といった空港にも定期便が就航できるとしています。

ターボプロップ機は「ATR42」の独壇場となるのか? 5年で国内地域航空の主力機に 今後の戦略は

オンライン会見を行うATRの経営陣。右がステファノ・ボルトリCEO(会見のスクリーンショットより)。

 また、2020年にデビューした貨物専用機「ATR72-600F」についても、日本市場にマッチすると、同社はアピールします。ATRは「現在インターネットを通じた通販(Eコーマス)は成長を続けているものの、ドライバーが不足している」と国内市場を分析しており、同機は「遠隔地でも高速の物流ネットワークを提供できる理想的なモデル」だそうです。

 ステファノ・ボルトリCEOは日本を「重要に思っている」としたうえ、新機材のアピールを続けるほか、「お客さま(航空会社)に対していいカスタマーサポートを提供して、寿命まで使っていただく」と話しました。


※一部修正しました(9月17日11時14分)。

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