北海道新幹線 新函館北斗~札幌間の延伸計画が進み、2022年春頃から札幌駅周辺の工事が開始される予定です。現在のエキナカにある4つの商業施設は工事によって影響を受け、それはJR北海道にとっての大きな試練になりそうです。
北海道新幹線 新函館北斗~札幌間約210kmは、2030年度の開業を目指して工事が進んでいます。小樽から続く「札樽トンネル」より、札幌市街で地上に出て、1kmほどの高架区間を経て終点の札幌駅に至る予定です。
新幹線札幌駅の位置は、高架で札幌駅南側(現在の1番線周辺)を通過し、東側の創成川を跨ぐようにホームを整備する「大東案」が最終的に採用されています。ほかの案に比べて土地開発の余地も多く、周辺に再開発の余地が見込まれたためです。新幹線の建設予定地や、工事によって大きく姿を変えそうなエリアの様子を見てみましょう。
写真左が札幌駅、右奥がエスタ(宮武和多哉撮影)。
札幌駅の南東側、北5西1地区には青空駐車場(レールパーク札幌、旧・日本通運札幌支社)があり、鉄道高架と駐車場のあいだに、高架で新幹線札幌駅が整備される予定です。その駐車場は、JRタワー(高さ173m)をはるかに上回る高さ250m・地上46階の新駅ビルが設けられるほか、通りを挟んで西側にある11階建ての商業施設「エスタ」(北5西2地区)も再開発され、2つのビルは空中広場(仮称:交通待合交流空間)でつながります。なおエスタの現在のテナントは、新幹線駅ビルへの順次移転が予定されています。
「大東案」の採用で、在来線からの乗換距離が当初案の80mから(最短でも)約300mと伸びましたが、そのぶん、前述の空中広場が新幹線、在来線、地下鉄駅、バスターミナル(新しい2本のビルの各1階部分)すべてに移動しやすい場所として整備される予定です。ただ、創成川の向こうまで伸びる新幹線ホームの東端からは、かなり遠くなることから、乗り換えに考慮が求められそうです。
高架と直角に交わる地上の「創成川通」は、新幹線や乗り換え広場の至近となるため、在来線正面の「札幌駅前通」に続いて第二の街の顔となるかもしれません。
札幌駅周辺での新幹線工事は2022年春から7年間ほど続く予定で、期間中は札幌駅も様々な機能的制約を受けます。この工事は、北海道随一の規模を擁する同駅の商業施設・テナント群にとって“試練”になりそうです。
“サツエキ”こと札幌駅のエキナカには、前出のエスタのほかJR北海道系列の「パセオ」「アピア」「札幌ステラプレイス」があります。それらの年間売上は1000億円近く(2016年度)に上り、札幌より巨大な福岡都市圏の中心にある「JR博多シティ」の倍近い規模。JR北海道にとっては買い物客の鉄道利用につながるだけでなく、子会社の「札幌駅総合開発」から得られる年間80億円近い地代・配当は、収益の柱として欠かせません。
新幹線札幌駅の工事にともない、エスタだけでなく、約200店を擁するパセオも2022年秋に営業を終了します。札幌駅ホーム下の東西に細長く3ブロックに分かれるパセオは、道内で唯一というファッションテナントや飲食店も多く、年間の実販は合計で年間200億円ほど。そのストリートには人が絶えません。パセオは新幹線の工事スペースから少し外れるものの、空調などのインフラ設備が工事区画にあるため、期間中の営業継続は叶いませんでした。

札幌駅の西側。
一方、移転・建て替えとなるエスタは、かつて「札幌そごう」だったこともあり開業は1978(昭和53)年と古く、地上11階の高層ビルの壁や床は見えるレベルで劣化が生じていることから、建て替えはやむを得ないでしょう。また1階に併設されているバスターミナルも発着ホーム自体の不足や、ほとんどのホームで階段や構内信号といったバリアがあるなど、時代に対応できない設備が課題となっていました。
新幹線の開業後は、都市間バス(高速バス)が新幹線駅ビル1階、路線バスは現在のエスタを建て替えた再開発ビルの1階にまとまる予定です。かつ「駅周辺のバス乗降場の集約」構想もあるため、老朽化で廃止が検討されている「大通バスセンター」(北海道中央バス路線を中心に発着)に連動して動きがあるかもしれません。
エキナカの魅力維持は鉄道にとっても死活問題?新幹線の工事は7年もの長期間にわたり、JR北海道にとっても、“サツエキ”商業施設の競争力維持は業績へ大きく影響しそうです。また、工事区域にデッドスペース(用途のない空間)が生じることに対策をとっていく必要もあるでしょう。
駅北側の連絡通路や北口の商業施設もまた、在来線のホーム増設工事によって2021年9月いっぱいで閉鎖、迂回路によって構内から出るようになります。駅構内を東西に伸びるパセオが元の場所で営業を再開するのも、早くて2025年以降となりそうです。この間、駅構内での移動の流れが停滞すると、営業を継続するアピアや札幌ステラプレイスにとっても不利な条件となってしまいます。
一方、札幌駅以外の地区でも、新幹線の開通までに大型施設の開業が相次いで予定されています。

札幌駅東側。写真右側が創成川通。高架の手前に沿うように新幹線駅ホームが伸びる予定(宮武和多哉撮影)。
これらのエリアは、駅からすすきの付近までの「チカホ」「ポールタウン」(いずれも地下歩道)でつながっており、“サツエキ”からの移動は容易です。つまり札幌駅エキナカの商業施設は、工事期間中は不利な状態で「エキマエ(ヨドバシ)」や他地域との競争力を維持しなければなりません。
コロナ禍で鉄道需要が減退するなか、JR北海道にとって頼みの綱である商業施設の競争力低下は、近郊の鉄道利用者の減少にもつながりかねず、道内ローカル線の維持などにも影響を与えかねません。1952(昭和27)年開業の「札幌ステーションデパート」から“サツエキ”の活用に工夫を凝らしてきた札幌駅や現在のJR北海道にとって、工事期間中におけるエキナカの魅力維持は、大きな試練になるのではないのでしょうか。
※一部修正しました(9月22日10時35分)。