カワサキモータースが生産・販売する4輪バギー「MULE」。陸上自衛隊が汎用軽機動車として採用するにあたり作られた試作車を、東京お台場でじっくり見ることができました。

保安基準適合のための改造や陸自は採用しなかった装備とは。

カワサキブースで展示されていた唯一無二の「ミュール」

 2021年10月20日から22日までの2日間に渡り、東京ビッグサイトの青海展示棟において「危機管理産業展(RISCON TOKYO)2021」が開催されました。この展示会は、防災・リスク管理・防犯を網羅したビジネストレードショーで、毎回多くの出展社が独自の製品を持ち込んで展示・説明しています。

 例年、さまざまな分野の企業が数多くの製品を展示していますが、今回、筆者(矢作真弓/武若雅哉:軍事フォトライター)が目を留めたのは、陸上自衛隊水陸機動団に配備された「汎用軽機動車」のベースとなったカワサキの「ミュール(MULE)」です。

公道禁止の理由がスゴイ 陸自「汎用軽機動車」として採用のカワ...の画像はこちら >>

水陸機動団に配備された「汎用軽機動車」。2021年度の富士総合火力演習で初お披露目となった(武若雅哉撮影)。

「ミュール」とは、カワサキモータースが日本国外向けに製造する多目的自動車のシリーズです。主な用途は広大な農園での資材運搬や、山間部でのハンティングなどであり、いわゆる不整地を走り抜けることを想定しているため、機動性に優れているのが特徴です。

 そもそも、陸上自衛隊の水陸機動団がこの車両を導入したキッカケは、V-22「オスプレイ」の配備が影響しています。

 V-22「オスプレイ」は、2020年7月に陸上自衛隊向けの初号機が納入されたティルトローター機で、ヘリコプターと同じように垂直離着陸が可能でありながら、飛行機と同じように高速かつ長距離の飛行が可能な性能を有している画期的な航空機です。ただ、陸上自衛隊が運用する大型輸送ヘリコプターCH-47J/JA「チヌーク」よりも機内は狭いため、既存の「高機動車」や「1/2t小型トラック」などを収容することができません。

 そこで白羽の矢が立ったのが、カワサキモータースの「ミュール」でした。

汎用軽機動車で省かれた自衛隊車両特有の装備

「ミュール」は軽自動車と比べると車幅こそ広いものの、ルーフが取り外し可能なパイプフレーム構造のため、高さは低くできます。それでいて最大6名まで乗車が可能なほか、907kgまでの牽引能力も有しています。貨物の搭載量は後席を使用する場合は158kgですが、後席を畳めば453kgまで乗せることが可能です。

 このように軽自動車よりも人員や貨物の積載性に優れ、さらに牽引能力も高いうえに、V-22「オスプレイ」の機内収容が可能なことから水陸機動団に採用されたものと考えられます。ちなみに、「汎用軽機動車」の試験(トライアル)では、「ミュール」以外にポラリス社製の「MRZR」などもエントリーしていましたが、最終的に「ミュール」に軍配が挙がっています。

公道禁止の理由がスゴイ 陸自「汎用軽機動車」として採用のカワサキ4輪バギーを実見

「危機管理産業展2021」でカワサキモータースのブースに展示されていた「ミュール」。陸上自衛隊の「汎用軽機動車」のベースとなった(乗りものニュース編集部撮影)。

 今回の「危機管理産業展2021」で展示されていた「ミュール」は、まさに陸上自衛隊が採用した汎用軽機動車の試験車両となったものでした。試作車のため、部隊配備されている車両とは若干異なる仕様ではあったものの、市販の「ミュール」に色々手が加えられており、メーカーオプションのウインチ付きの車体に、けん引フックや専用のナンバープレートベースが取り付けられていたほか、道路運送車両法の保安基準に適合するためのウインカーを始めとした灯火類およびバックミラーの追加装着などが行われていました。

 その一方で、自衛隊車両特有の装備である管制灯火用のランプは、展示されていた試作車には装備されていたものの、部隊配備された車両にはありませんでした。これは調達価格の低減、すなわちコストダウンが理由で、ゆえに陸上自衛隊へ納入している車両には装着を見送っているそうです。

個人でも購入可能 そのお値段は?

 こうしたオフロードに特化した車両はATV(All Terrain Vehicle:全地形型車両)と呼ばれ、基本的に公道走行は禁止されています。

その理由は、ガタガタの荒れた道でも安定して走ることができるサスペンションがあだとなり、舗装路で急ハンドルを切ると容易に横転してしまう可能性があるからです。そのため、国土交通省は災害救助や自衛隊の任務など用途を限定したうえで、日本の公道走行を許可しているということでした。

 そのため、カワサキモータースは将来的に「ミュール」の国内販売も考慮しているそうですが、顧客として想定しているのはスキー場北海道の牧場など、広い私有地を持つユーザーに限定されるそうです。

公道禁止の理由がスゴイ 陸自「汎用軽機動車」として採用のカワサキ4輪バギーを実見

危機産業展2021で展示されていた「ミュール」。自衛隊車両専用のナンバープレートベースやけん引フックなどが見える(武若雅哉撮影)。

 なお、肝心の価格は1台で300万円弱になるとのことなので、仮に自前のオフロードコースを持っているのであれば、自衛隊への採用実績があるATVの性能を思う存分楽しむことができるのではないでしょうか。

 ちなみに、カワサキモータースによると、「ミュール」を踏むATV分野は北米でコロナ禍を背景に急成長している市場だとのことで、その規模は2019年の7000億円から、2030年には2兆円まで伸びると推定しています。そのため、同社は北米とメキシコの工場へ5年で約300億円を投じ、生産設備を新設するとともに、バッテリーEVやハイブリッドEVモデルも開発していくとしています。

編集部おすすめ