「山男」の愛称をもつ電気機関車「EF64 18」。引退後は勝沼ぶどう郷駅の展示車両として鎮座してきましたが、風雨にさらされての劣化が心配されていたところ……車両を愛する人たちの力で生まれ変わることになりました。

「山男」EF64の貴重な保存車 なぜ山梨・勝沼に?

 人や貨物を乗せて、日々駆けめぐる鉄道車両の引退後は様々ですが、「展示車両」として設置され、現役当時の勇姿を間近で見せてくれるケースも多々あります。鉄道博物館や記念館、あるいは公園や広場など、様々な場所で出会う往年の車両には、熱狂的な鉄道ファンでなくとも感慨深いことでしょう。

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勝沼ぶどう郷駅前広場に展示されているEF64形電気機関車18号機(画像:甲州市)。

 JR中央本線の勝沼ぶどう郷駅(山梨県甲州市)も、そんな懐かしの展示車両と出会えるスポットです。駅舎に隣接する「勝沼ぶどう郷駅前公園」に、「山男」の愛称で親しまれたEF64形電気機関車18号機が展示されています。

 EF64形電気機関車は1964(昭和39)年に国鉄が開発した、勾配のきつい山間部用の電気機関車です。そのうち基本型0番台と呼ばれる車両でまるごと現存するのは、2021年11月に高崎車両センターから秋田総合車両センターへと輸送された37号機と、勝沼の地で休むこの18号機の2両のみとなっています。

 でもなぜ「EF64 18」がこの地に展示されているのでしょう。それは、この駅の成り立ちと深い関わりがありました。

 山梨県の特産品といえばワインが有名ですが、実は勝沼は日本ワイン発祥の地。古くからぶどう栽培が盛んで、1877(明治10)年には日本初のワイン醸造会社「大日本山梨葡萄会社」が設立されました。けれども本場フランスの技術を学んだワイン造りは、すぐには軌道に乗りませんでした。

本格派の味はなかなか受け入れられず、造ったワインを輸送するすべも整っていなかったのです。当時のワインは、馬の背に乗せて、東京まで3日以上かけて運んでいたとか。

 そんな勝沼のワイン造りに転機が訪れたのが1903(明治36)年、中央本線が東京方面から甲府まで開通し、東京までのワイン輸送がわずか半日でできるようになったのです。当初は現駅の両隣、塩山駅か初鹿野(現・甲斐大和)駅からの利用でしたが、ワインやぶどうの出荷に不便だとの声があがり、1913(大正2)年に勝沼駅が開業しました(1993年に勝沼ぶどう郷駅に改称)。そう、この駅はワインとぶどうの輸送のためにできた駅なのです。

旧線、旧トンネル、そして「EF64」

 開通当時の初鹿野~勝沼間は、戦後に新ルートへ変わったため廃線となっていますが、遺構は今も残されています。旧線の大日影トンネルは、線路や水路もそのままに遊歩道として整えられ(現在、経年劣化等のため一時的に閉鎖中)、旧深沢トンネルはレンガ造りの姿のまま「勝沼トンネルワインカーヴ」として、世界的にも珍しいワインの貯蔵庫となっています。年間を通じて温度6~14度、湿度45~65%の環境は、ワイン熟成には最適なのだそうです。

 そして「EF64 18」こそ、この旧線で長らく貨物列車を牽引してワイン輸送を担った車両なのです。2006(平成18)年に勝沼ぶどう郷の駅前公園が整備された時、その前年に引退していたEF64 18がモニュメントとして迎えられたのは、ワイン文化を陰で支えた功労者として、地域の発展を支えたかけがえのない存在という市民の思いもあったのでしょう。

 以来15年、EF64 18は勝沼ぶどう郷駅を訪れる人たちに親しまれてきましたが、風雨などの影響でだんだんと劣化が目立つようになってきたそうです。車体には色ムラがうまれ、サビや腐食も目立ってきていました。

 なんとか現役時代の姿に戻したいと考えた甲州市が打った手は、ふるさと納税ガバメントクラウドファンディング。EF64 18を設置した当時の現役時代の国鉄色に塗り直し、状態よく保存していくための資金を、目標額300万円として募ったのです。期間は2021年8月20日から3か月間でしたが、EF64 18を愛する人たちの反応は早く、わずか1か月で目標額をクリア。最終的には目標額をはるかに超える支援が集まったのだそうです。

「山男」EF64をきれいにしたい! 地元の願いに支援の輪 そもそもなぜ甲州・勝沼の地に?

1903年から1997年まで使用されていたトンネルを整備した大日影トンネル遊歩道。ただし現在は老朽化のため一時的に閉鎖されている(画像:甲州市)。

 ふるさと納税型のクラウドファンディングということで、EF64 18をモチーフにしたグッズなどの返礼品は用意されていますが、支援とともに寄せられたコメントの数々には、まず第一に、美しくよみがえった車両と会いたいという熱い思いがあふれていました。

 甲州市によるとEF64 18の復活プロジェクトはすでにスタートしており、12月中旬には寄附者も参加して現在の塗装を剥がすイベントが行われたそうです。「2022年の春にはピカピカに塗装し直した姿をお見せできるでしょう」とのことで、勝沼ぶどう郷駅に咲き誇る桜の中で誇らしげなEF64 18と出会える日が、今から待ち遠しく思います。

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