礼文島にある礼文空港。長らく休止状態にある日本最北の空港に定期便再開への光が見えてきました。

ヨーロッパ・ATR社の新型旅客機が、その鍵を握っています。

長らく休止中の日本最北の空港

「日本最北の空港」といった場合、稚内空港を思い浮かべる人が多いでしょう。稼働中の空港としては間違いないのですが、「休止中」の空港を含めると日本最北の空港は礼文空港になります。ただ、この礼文空港、廃止の危機を何度も乗り越えてきたものの、現在も休止中のままです。

 そもそも礼文空港は、いまから43年前の1978(昭和53)6月に開港しました。かつてはエアー北海道(ADK)が、ボンバルディアDHC-6「ツインオッター」を用いて礼文~稚内間を結んでいましたが、年間利用者が約3500人、利用率は30%を下回るなどしたため、2003(平成15)年に撤退してしまいます。

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日本最北の空港である礼文空港。2022年1月現在は休止中(斎藤大乗撮影)。

 利用率が低かったのには何点か理由があります。当時、礼文~稚内間を海路で結んでいたフェリーを利用した場合、時間は2時間ほどかかるものの、運賃は島民割引で1800円ほど。対して航空機は礼文~稚内を25分と短時間で結ぶ一方、運賃は約6000円と割高で、加えて稚内空港に早くついたとしても稚内市内へ向かうのにバスで40分ほどかかったことから、時間に余裕のある場合は金額の安いフェリーを利用する人の方が多いという結果だったからです。

 さらに当時は飛行機に慣れていない人も多かったため、フェリーの利用者が多数を占めたことで礼文空港の利用率は低迷してしまい、前述のとおり2003(平成15)年3月をもってエアー北海道が撤退し、礼文空港は長らく運休状態に陥ったのでした。

 ひと昔前なら礼文島や利尻島の住民は、稚内に出ればひとしきり用が足りました。しかし近年では稚内で用事を済ますことが難しくなっています。そうなると目指すところは北海道で最も大きな都市、札幌です。ただ、ここで立ちはだかるのが海と距離です。

礼文島民の生活様式にも変化が

 稚内に出るにはフェリーでまず2時間かかります。そこから都市間バスならば約6時間半、鉄道(JR北海道)利用の場合は駅などで乗車まで2時間待ったのち、列車で約7時間半も札幌までかかります。

 しかし、航空機であれば稚内空港から新千歳空港空港は1時間、利尻空港から丘珠空港は55分のため、礼文島を起点にしてもフェリーを使って稚内経由で4時間50分、利尻島経由で4時間14分で札幌に到着することができ、陸路と比べると比較的時間を短縮できます。

 バスや鉄道など、地上移動と比べると航空機はだいぶ楽になりますが、礼文島民からすると、利尻空港や稚内空港を使う場合でも海を渡らないと飛行機にはたどり着けません。もしこれが礼文空港発着ならば、フェリーに揺られる時間すら短縮できるようになるのです。

「日本最北の空港」路線復活なるか? カギ握るATRの新型旅客機
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礼文島の香深港フェリーターミナルに接岸中のフェリー「サイプリア宗谷」(斎藤大乗撮影)。

 とはいえ、礼文空港は休止中のため、滑走路は開港当初の800mのままです。この滑走路長は東京都内にある調布飛行場と同じ長さであり、大阪府の八尾空港(1490m&1200m)よりは短いものです。

この距離だと、ボンバルディアのCRJ200やエンブラエルのE170といった小型ジェット機、いわゆるリージョナルジェットでも離着陸できません。

 他方、ボンバルディアDHC-8-Q400やATR42-600といった、ジェット機よりも短距離離着陸性能に優れているターボプロップ機でさえ、少なくとも1000m以上の離陸滑走距離が必要で、礼文空港への就航は厳しいものがあるといえます。

 ただ、ヨーロッパの航空機メーカーATRが2017(平成29)年6月、短距離離着陸(STOL)性能に特化した新型ターボプロップ機ATR42-600Sを発表したことで、がぜん礼文空港に定期便が復活する光明が見えるようになりました。

礼文空港復活の鍵を握るATR42-600S

 ATR42-600Sならば、滑走路長800mでも離着陸できます。加えてその原型であるATR42-600は、札幌・丘珠空港を拠点にしている北海道エアシステム(HAC)が2022年1月現在、3機を運航しており、そのサポートも期待できます。

 仮に礼文空港から丘珠空港や新千歳空港を目指して飛んだ場合、1時間程度で行くことも可能になります。

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札幌市内にある丘珠空港の格納庫に駐機する北海道エアシステムのATR-42型旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。

 2021年に礼文町が、島民向けに航空需要を調査するアンケートを実施したところ、その7割の住民が礼文~札幌(丘珠)間が就航した場合は利用したいという結果になりました。利用の目的としては「通院」「旅行」「急ぎの用事」が上位に来ており、生活や余暇としての利用を想定しているようです。

 さらにアンケートを詳しく見てみると、稚内市を目的地として島外に出かけていた人たちの約6割が、稚内市から札幌市に行き先が置き換わる可能性があると回答していました。

 一方、反対意見としては、礼文島は気象条件が厳しいので航空機の運航率に疑問を持っているというものや、今までの交通手段で十分だから、といった意見も見受けられました。

 現在コロナ禍により航空機利用が低迷しており礼文空港再開などは夢のまた夢かもしれません。

しかし礼文空港が廃港にならず休止延長が続いているのは、礼文島民の思いや礼文町役場や北海道庁の人たちの維持しようとする努力が連綿と続いているからです。

 筆者(斎藤大乗:元自衛官ライター/僧侶)も礼文島の住民のひとりとして、島に再びプロペラ機のエンジン音が轟く日を楽しみにまっています。

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