関門海峡に新たな橋を架ける「下関北九州道路」の計画が実現に向けて動いています。1990年代から政争の具にもなってきたビッグプロジェクトですが、いま、その必要性が高まっているようです。

「忖度」発言で注目され「安倍麻生道路」と揶揄 それでも

 本州と九州を隔てる関門海峡に、新たな横断ルートを整備する構想が実現に向け動いています。

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高速道路の関門橋。壇ノ浦PAから北九州側を望む(乗りものニュース編集部撮影)。

 この「下関北九州道路」は、国道2号関門トンネル、高速道路の関門橋に次ぐ第3のルート。鉄道(在来線、新幹線)を加えれば5本目になります。1990年代に国の開発計画へ盛り込まれた海峡横断プロジェクトのひとつで、2008(平成20)年に一度凍結されたものの、安倍政権下で地元や国による調査が始まりました。

 巨大プロジェクトでもあることから、その必要性が各方面で政争の具になってきた感があります。2019年度に国直轄調査を行うと決定した当時、塚田国土交通副大臣が、山口県を地盤とする安倍総理、福岡県を地盤とする麻生副総理を“忖度”して決定したと発言し更迭されたり、「安倍麻生道路」などと揶揄されたりしました。

 そうした道路ですが、2020年には、国の委員会で概略ルートも決定。2021年度からは事業化へ向けた環境影響評価調査に乗り出しています。2022年度に向けては、福岡県が調査費を盛りこんだ予算案をすでに発表しています。

 関門海峡を横断する既存4ルートは、九州側で門司もしくは門司港へ取りついていますが、下関北九州道路はその西側に建設されます。

下関側では彦島、北九州側では都心部である小倉へ直結する約8kmの道路になる見込みです。現地はどうなっているのでしょうか。

渋滞緩和効果より「とにかく代替路を!」の声

 下関側は、市内の西側、日本海沿いをいく旧彦島有料道路(山口県道252号)に接続するとされています。この道路の彦島側末端部はトンネルになっていますが、そのトンネルが通る丘陵づたいに海峡へつなぐと見られ、集落や市街地を避け生活への影響が抑えられるルートとされています。

 ただ、中国道の下関ICと国道2号関門トンネルの下関側坑口が隣接しているのに対し、旧彦島有料道路はやや離れており、そこまで一本道でもありません。特に下関ICから旧彦島有料道路までどのように道を整備して迂回を促すかが、ひとつの課題になるかもしれません。

 海峡部は約2.2kmのつり橋とされています。活断層の影響を考慮したものだそうです。

 北九州側では、小倉駅から北西、日明(ひあがり)地区の埠頭に取りつき、高架の有料道路である北九州都市高速に接続する見込みです。岸壁から都市高速の方へ延びる広い臨港道路が活用されそうです。

実現なるか「下関北九州道路」 関門海峡に橋もう1本 現地どうなってる?
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国道2号関門トンネル。開通から64年が経過している(乗りものニュース編集部撮影)。

 下関北九州道路の整備により、下関・北九州両市中心部のあいだの移動時間は現状の門司港回りより7分短縮、両市間を30分で移動できる圏域は、現況21万人は59万人に拡大、国道2号・3号の渋滞緩和にも期待がかかっています。

 ただ、それ以上に「特に重視すべき」と一般からのアンケートで回答が多かった政策目標が、関門トンネルや関門橋の代替路確保という点です。トンネルは1958(昭和33)年、橋は1973(昭和48)年の開通で、いずれも老朽化が進行しており、補修工事もしばしばです。事故などでどちらかが通行止めになった際に大渋滞が発生し、苦い経験をした人も少なくないようです。

 かつては、下関北九州道路とほぼ同ルート(彦島~日明)に関門海峡フェリーが運航されていましたが、2011(平成23)年に休止しています。本州と九州を結ぶ2本だけの“血管”に、もう1本バイパスが通るでしょうか。

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