ロシアのウクライナ侵攻に際し、各国の支援が続々とウクライナへ届いています。交戦国の一方へ味方する行為に見えますが、参戦とはどう線引きされるのでしょうか。

これには「戦争」「中立」という概念の変遷が関わっています。

続々集まるウクライナへの支援

 2022年2月24日に突如、開始されたロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対して、世界各国は強い関心を示し続けています。とくに、各国によるウクライナに対する各種支援については、日本でも連日報道されているところです。

 たとえば、アメリカが提供した「ジャベリン」をはじめ、イギリスの「NLAW(次世代軽対戦車兵器)」やドイツの「パンツァーファウスト3」といった対戦車兵器は、ウクライナへ侵攻してきたロシア軍の戦車や装甲車に対して大きな損害を与えています。また、アメリカをはじめ複数国が提供している携帯型地対空ミサイルの「スティンガー」は、ロシア軍のヘリコプターにとって大きな脅威となっています。

ウクライナ支援が「参戦」にはならないワケ 背景に「戦争」「中...の画像はこちら >>

ウクライナへの提供物資を輸送したKC-767空中給油・輸送機(画像:防衛省)。

 さらに3月4日には、日本政府も国家安全保障会議(NSC)を開き、防弾チョッキやヘルメットなどをウクライナへ提供することを決定しました。その後、3月8日に愛知県の航空自衛隊小牧基地からKC-767空中給油・輸送機が支援物資を搭載してウクライナの隣国ポーランドへと飛び立ち、以降、日本からの支援物資もウクライナへ順次到着しています。

 ところで、こうしたウクライナへの支援を実施することに関して、国際法的にはどう評価されるのでしょうか。関連し得るキーワードとなるのは「中立法」です。

中立法とは?

 そもそも「中立」は、戦争を行うことがまだ違法とされていなかった19世紀以降に発展してきた概念です。戦争に参加している国同士を「交戦国」とする一方、それ以外の国々は自動的に「中立国」に分類され、自国に対して戦争の影響が及ぶことを免れ得る一方で、中立国にはさまざまな義務が課されました。

そして、こうした交戦国と中立国との関係を規定したのが先述した中立法です。

ウクライナ支援が「参戦」にはならないワケ 背景に「戦争」「中立」という概念の変遷
Large 220330 ukl 02

ウクライナへの提供物資の、KC-767空中給油・輸送機への積み込み作業の様子(画像:防衛省)。

 中立国に課される義務としては、交戦国の軍隊が自国の領域を使用することを防ぐ「防止義務」、交戦国に対する一切の軍事的援助などを慎む「避止(ひし)義務」(これらを合わせて「公平義務」ともいいます)、そして交戦国が自国に対して合法な形で害を与えたとしてもそれを容認する「黙認義務」の3つが挙げられます。

ウクライナへの支援はどう評価される?

 ウクライナへの支援という観点では、上記の義務のなかでも避止義務との関係が注目されるところですが、実のところ、とくに第2次世界大戦以降は、中立義務のなかでも避止義務や防止義務は必ずしも厳格に順守されてきたわけではありません。これは第1次世界大戦以降、進展した戦争違法化との関係で、戦争をしている国々に関して「違法に武力を行使している国」と「合法的に武力を行使している国」という区別が可能となったことが影響していると考えられています。

ウクライナ支援が「参戦」にはならないワケ 背景に「戦争」「中立」という概念の変遷
Large 220330 ukl 03

携行式多目的ミサイルFGM-148「ジャベリン」(画像:アメリカ陸軍)。

 もともと、中立法が発展してきた19世紀当時は戦争に訴えることが原則的に禁止されていたわけではなく、そのため戦争に参加している国々の間に合法な側と違法な側という区別はありませんでした。だからこそ、交戦国双方を公平に扱うことを基盤とする中立法が発展したのです。

 ところが、2度の世界大戦を経験し、現在の国際法では戦争を含めた一切の武力行使が原則禁止され、例外的に自衛権の行使などが合法な武力行使として認められています。そのため、武力行使に関して違法な側と合法な側という区別が可能となり、これまでのように交戦国双方を公平に扱うことは不合理とされるようになったとともに、合法に武力を行使していると考えられる国を支援する動きが見られるようになりました。

 そこで、現在では自国が中立国になるかどうかはその国の任意であり、自国が武力紛争に巻き込まれることを避けるために中立の立場を選択することも可能な一方で、交戦国の片方に軍事的な支援を行いつつも、武力紛争に直接参加するわけではない「非交戦国」なる立場があり得るという主張もなされています。

 非交戦国という概念は、古くは第2次世界大戦参戦前のアメリカがイギリスに対して武器などを支援していた事例を契機に盛んに議論されるようになりましたが、現在でも学説上の議論が続いています。

中立法に関する日本の立場

 一方で、日本政府はこうした中立法に関して、現在の国際法の下ではもはや伝統的な中立という概念は維持され得ないと整理しています。たとえば、ベトナム戦争に際してアメリカ軍が日本の基地を使用していたことに関連して、日本政府はアメリカの行動を合法な自衛権の行使と整理した上で、そのような合法な措置をとっている国に対して基地の提供を通じた支援を実施することは問題ないという整理を行っています。

 また、今回のウクライナへの支援に関しても、日本政府は国内上の制約である「防衛装備移転三原則」などの観点での整理は行っていますが、国際法上の説明はとくになされていません。つまり、日本政府としては、今回のウクライナへの支援については国際法上、問題にはならないと整理していると考えられます。

ウクライナ支援が「参戦」にはならないワケ 背景に「戦争」「中立」という概念の変遷
Large 220330 ukl 04

イギリスとスウェーデンが共同開発した携行式対戦車ミサイルNLAW(画像:サーブ)。

 このように、今回のウクライナのように「合法な武力の行使を行っている国に対して支援を行うことは国際法上、問題とはならない」という整理については、ある程度、国際的な理解が深まりつつあるといえるかもしれません。しかし、どちらが合法に武力を行使しているのかという問題は、通常は必ずしもはっきりと判断できるものではありません。

 今回のウクライナへの各国の支援は、ロシアの軍事侵攻に対して国際社会全体がほぼ一致してその違法性を明確に認識したからこそ、可能になったという側面もあるのかもしれません。

編集部おすすめ