北朝鮮の弾道ミサイルの脅威が高まるなか、認知度が急速に高まったのが地対空ミサイル「ペトリオット」PAC-3。これを運用するのが航空自衛隊の高射部隊です。

なかでも首都圏の防空を主任務とする第1高射群を取材してきました。

日本で最も歴史ある地対空ミサイル部隊

 24時間365日絶え間なく日本の空を守っている航空自衛隊。海だと海上保安庁、陸だと警察などの法執行機関があるものの、空については自衛隊以外に警戒監視についている公的組織が存在しないため、航空自衛隊がほぼすべての事象に対応する必要があります。

 そのためか、航空自衛隊というと戦闘機でスクランブル(緊急発進)というイメージが強いですが、航空自衛隊の装備は戦闘機だけではありません。航空機以外にも様々な地上装備があり、なかでも戦闘機とともに日本の領空に睨みを利かせているのが、地対空ミサイル「ペトリオット」です。

「ペトリオット」を運用する部隊は「高射群」といい、航空自衛隊に6つ編成されていますが、そのなかで首都圏の防空を担当するのが埼玉県の入間基地に所在する第1高射群。今回、特別な許可をもらい、訓練の一端を見せてもらいました。

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派米訓練でペトリオットの実射を行う航空自衛隊の高射群(画像:航空自衛隊)。

 第1高射群は、その数字が表すように航空自衛隊の高射群のなかで最初に編成されました。さかのぼると、1963(昭和38)年1月に陸上自衛隊の地対空ミサイル部隊として「第101高射大隊」の名で習志野駐屯地において新編。翌1964(昭和39)年4月に航空自衛隊へ移管され、第1高射群に改編されたという歴史ある部隊です。

 60年近くものあいだ、一貫して首都圏の空を守り続けてきたことから、弾道ミサイルの迎撃が可能な「PAC-3」も最初に配備されており、近年では皇居にほど近い防衛省本省が所在する市ヶ谷基地内にも分遣班を派遣して、都心上空の守りをさらに強固なものにしています。

運転操作には慎重さと声がけが必須

 第1高射群は、指揮を執る群本部のほかに、高射隊の戦闘を指揮統制する「指揮所運用隊」、各種機材の整備やミサイルなどの補給を担当する「整備補給隊」、そして実際に「ペトリオット」発射機(ランチャー)などを運用し、戦闘を行う第1から第4までの4つの「高射隊」、合計6個隊からなっています。

 このうち群本部とともに入間基地に所在するのは、指揮所運用隊、整備補給隊、第4高射隊の3個隊のみで、第1高射隊、第2高射隊、第3高射隊については各々、習志野(千葉県船橋市)、武山(神奈川県横須賀市)、霞ヶ浦(茨城県土浦市)の各分屯基地に配置されています。

 このほかに、前出のとおり市ヶ谷基地に分遣班を派出するなどしているため、地図などで見てみると、首都圏を守るように高射隊が置かれていることがわかります。

首都圏を守る! 切り札は「ペトリオット」航空自衛隊第1高射群の役割 災害派遣も
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トレーラーヘッドを切り離し、射撃姿勢をとった「ペトリオット」発射機(柘植優介撮影)。

 今回、入間基地で見せてもらったのは第1高射群第4高射隊の「ペトリオット」発射機の陣地進入の様子。基地の一角に設けられた射撃陣地にトレーラー型の発射機が自走してきて、トラクター(トレーラーヘッド)を切り離したのち、ランチャーを上げて射撃準備を完了するまででした。

 運転を担当する隊員に話を聞いてみたところ、運転席は高いので見晴らしは良いものの、トレーラー構造のため、狭い道を走るときや曲がる際に気を使うとのこと。また後ろが見にくいため、バックの際などは同乗する隊員とともに周囲に気を配り、慎重な操作が求められるということでした。

 実際、陣地進入の際は、いったん車を停めると、すかさず同乗する隊員2名が車から降り、ふたりで周囲の安全を確認しながら車両をバックさせていました。また動作の節々で必ず大きな声で意思疎通をとりながら確実な操作を心掛けていたのが印象的でした。

え、「キッチンカー」配備?

 今回の取材は入間基地内での訓練でしたが、第1高射群は状況に応じて基地の外に出て、港や公園などあらゆる場所に展開する必要があることから、野外で生活するための自活用装備も運用しているとのこと。そのひとつとして見せてもらったのが「野外炊具1号」でした。

これは野外における炊事や喫食に使用するもので、炊飯や汁物、揚げ物、炒め物などを作れるトラック牽引タイプのキッチンカーといえる装備です。これがあれば約200人分の主食と副食を、同時に調理できるそうです。

 そして、もうひとつが「3 1/2t水タンク車」。一見するとガソリンや軽油などを運ぶタンクローリーのようですが、荷台に搭載しているのは貯水タンクで、このなかに飲料水を最大5000リットル(5t)入れ、運ぶことが可能です。これも、屋外展開する第1高射群には必須の装備だといいます。

首都圏を守る! 切り札は「ペトリオット」航空自衛隊第1高射群の役割 災害派遣も
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第1高射群第4高射隊に配備されている3 1/2t水タンク車(前)と野外炊具1号。こういった車両は災害派遣でも活躍している(柘植優介撮影)。

 野外炊具1号や3 1/2t水タンク車は、ほぼ同様のものが陸上自衛隊などにも配備されています。そして陸上自衛隊と同じように、入間基地所在のこれらの車両も災害派遣など被災地で活動した実績を有しているとのことでした。

 日本の周辺には、北朝鮮をはじめ弾道ミサイルを保有する国が複数あります。弾道ミサイルは戦闘機では対処不可能なため、海上自衛隊のイージス艦などが迎撃できなかったら、航空自衛隊の高射群が撃ち落とすしかありません。

 また、明らかに敵意むき出しで日本の領空に進入してきた敵機についても、空自の戦闘機部隊が防ぎきれなかった場合は、やはり地対空ミサイルで対処する必要があります。

そのような理由から、空自「ペトリオット」部隊は迎撃の最終手段であり、首都圏を守る第1高射群は首都圏防空の最後の砦といえるでしょう。

【動画】ペトリオットって何? 航空自衛隊入間基地での第1高射群の訓練
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