日の丸も描かれたスペシャル・マーキングが施されたドイツのユーロファイター戦闘機が、インド・太平洋地域に展開しています。関係者に製作の裏側を聞いてみました。

果たして来日するのでしょうか。

ドイツ空軍一世一代の大規模展開訓練

 2022年夏、ドイツ空軍は「ラピッド・パシフィック2022」と呼ばれるインド・太平洋地域への大規模な部隊展開訓練を実施しています。派遣部隊の内訳はユーロファイター戦闘機6機、A400M輸送機4機、A330MRTT空中給油・輸送機3機で、人員は約250名。トータル13機もの軍用機をインド以東に派遣するのは極めて珍しいことですが、これは近年の台湾情勢や、中国の軍事的活動の活発化を鑑みたものです。ドイツは国際情勢からインド・太平洋地域の関与を強めつつあり、今回の展開訓練もその具体的な動きのひとつといえるでしょう。

 加えて、派遣されたユーロファイターのうち1機には、本訓練に対するドイツ空軍の意気込みを表すかのように、機体全面を覆うような特別塗装が施されています。

展開訓練では複数の国に部隊が訪れて共同演習や現地軍との交流を行いますが、塗装にはそれを表すかのように訪問国の国旗がデザインされています。

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ダーウィン基地の公開イベントで展示されたドイツ空軍のユーロファイター戦闘機「エア・アンバサダー」。機体には訪問国の国旗がデザインされており、右翼上面に描かれた日の丸が見える(布留川 司撮影)。

 訪問国はUAE、シンガポール、オーストラリア、韓国、日本ですが、機体上面には各国の国旗が描かれており、なかでも右翼上面の大きな日の丸が特に目を引きます。また、垂直尾翼の右側には世界地図と今回の展開訓練の移動ルートも描かれていました。

 こうして見て見ると、この特別塗装機は派手なデザインで注目を集めるだけでなく、見た人に訓練の目的であるインド・太平洋地域での軍事的交流まで意識させてくれるものとなっています。

だからか、ドイツ空軍はこの塗装機を「エア・アンバサダー(空飛ぶ親善大使)」と呼んでいるそうです。

塗装では再現ほぼ不可能な細かいデザイン

 8月末現在、ドイツ空軍部隊はオーストラリア北部にあるダーウィン空軍基地におり、同国で開催されている「ピッチ・ブラック2022」に参加しています。27日には地元住民へのパブリックイベントとして開催された、ダーウィン基地の公開イベントにも参加し、前出の「エア・アンバサダー」が注目を集めていました。そこで、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)はパイロットや整備員に、この機体について色々聞いてみました。

その名も「空飛ぶ親善大使」特別なユーロファイター戦闘機は来日するか 関係者に聞く秘話
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ダーウィン基地の公開イベントで展示されたドイツ空軍のユーロファイター戦闘機「エア・アンバサダー」。会場では来場者とドイツ空軍クルーとの交流も行われていた(布留川 司撮影)。

 まず、この特別塗装機、どういう風にスペシャル・マーキングを施したのかという点です。ハナシによると、これは正確には塗装ではなく、図柄を印刷した特殊なフィルムを張りつけているとのこと。隊員たちは「ラッピング」と呼んでいましたが、これは民間旅客機などではお馴染みの手法で、ドイツに限らずヨーロッパの軍用機が特別塗装をまとう際も主流になりつつあります。

 印刷のため、塗料を使うよりも複雑な図形を綺麗に再現できるという利点があります。「エア・アンバサダー」の意匠も単純な図形ではなく、複雑なグラデーションや国旗の皺などを多く描いた複雑なものとなっており、それが大きな戦闘機のほぼ全面に渡って表現されています。

 同じデザインを、エアブラシなど使って塗装で再現しようとするのは、作業時間と手間を考えるとほぼ不可能であるため、このデザインはフィルムによるラッピングだからこそ実現できたといえるでしょう。

ラッピングの作業日数は約5日

 ラッピングの作業日数は5日程度だそうで、最初は1日かけて機体全面を丹念に洗浄。これは施工後のフィルムを綺麗に貼るための作業ですが、同時に施工後の剥離を防ぐことにもなるそうです。フィルムと機体の間にわずかでも異物が入ると、飛行中にそこが抵抗になってしまい、それがフィルムの剥離に繋がってしまうと言っていました。

 残りの4日間でフィルムの貼り付けをしたとのことですが、フィルムは1枚ではなく複数に分かれているため、正確な位置合わせをしながらの作業だったといいます。貼り付け後はヘラを使って空気を押し出し、機体にピッタリとフィットさせますが、この作業は本当に丁寧に行ったらしく、「女性のネイルのお手入れみたいだった」と整備員が笑いながら教えてくれました。

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ダーウィン基地の公開イベントで展示されたドイツ空軍のユーロファイター戦闘機「エア・アンバサダー」(布留川 司撮影)。

 しっかりとした施工にはドイツ空軍も自信があるらしく、筆者と話したドイツ軍人も「剥がれたりはしないよ」と自信を持って言っていました。その表れかわかりませんが、この特別塗装機は、他の機体と同等のペースで訓練などに使用しているそうです。

 ドイツ空軍の展開訓練部隊は、「ピッチ・ブラック2022」参加後は、部隊を分けて個別に移動。輸送機部隊は韓国に移動し、ユーロファイター戦闘機の一部は日本に来るとのこと。「エア・アンバサダーも来ますか?」という筆者の問いに、イベントに参加した隊員は「Yes」と明るく答えてくれました。

 ドイツ空軍機の来日時期は9月下旬、航空自衛隊との共同訓練も予定されているので、レアなドイツの特別塗装機を楽しみに待ちましょう。