ウクライナをはじめ各国で、UGV(無人車両)を戦場の救急輸送に活用する動きがあります。より少ない人員で安全に負傷者や物資を搬送できることがメリット。

「担架をもって決死の救出」といったイメージが覆されるのでしょうか。

ウクライナ“軍”ではない団体に納入された無人車両

 各国から様々な装備品が集まるウクライナ、その供与先は必ずしも“軍”だけではありません。エストニアのUGV(無人車両)メーカーのミルレム・ロボティクスが、同社のUGV「テーミス」(THeMIS)をウクライナの慈善団体に納入したと発表しました。

「最前線の負傷兵を担架で運べ」って時代じゃない! 救命に無人...の画像はこちら >>

ウクライナの慈善団体に納入されたUGV「テーミス」(画像:ミルレム・ロボティクス)。

 テーミスは2022年10月の時点で、お膝元のエストニアをはじめとする14か国(うちNATO加盟8か国)に導入されている、履帯(いわゆるキャタピラ)で走行する多用途UGVです。

 テーミスは遠隔操作式の機銃やミサイルランチャーを搭載すれば戦闘任務、各種センサーを搭載すれば偵察任務にも使用されますが、ウクライナの慈善団体に納入されたテーミスは、物資の輸送や前線の戦闘で負傷者を治療体制の整った後方へ輸送する「CASEVAC」(負傷者後送)に使用されます。

 一般論として、前線から負傷者を担架に載せて後送する場合、1名の輸送につき2名以上の人員が必要となります。また前線に医療器具などを輸送する際にも、輸送する物資の大きさ次第ではやはり1名以上の人員が必要です。

 後送を担当する人員は一時的に前線を離れることになるため、その分部隊の戦闘力は低下します。また、過去の紛争では医療器具などの輸送にあたる人員が敵の襲撃を受け、負傷者だけでなく、その救命を行うはずの人員が命を落とすという事例も少なからず発生しています。

 ミルレム・ロボティクスはテーミスを使用すれば、1名以上の負傷者をテーミスのオペレーター1名で後送できると述べています。またテーミスには最大1200kgの貨物が搭載できるため、重量の大きな医療器具や大量の輸血用血液などもオペレーター1名で前線へ輸送できます。

無人航空機を組み合わせた救命システムも

 負傷者後送にUGVを活用するための試みは各国で進められており、シンガポールのSTエンジニアリングは2022年6月にフランスのパリで開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ2022」で、負傷した将兵の後に特化したUGV、その名もズバリの「CASEVAC」を発表しています。

 このCASEVACは全長0.9mの電動装輪式UGVで、担架に載せた負傷した将兵1名を輸送できます。GPSまたはネットワークシステムを使用する自律走行能力や、一度走行したルートを往復する「プレイバック」機能も備えており、前線から治療態勢の整った後方へ自動的に負傷した将兵を後送することができます。

「最前線の負傷兵を担架で運べ」って時代じゃない! 救命に無人車両 ウクライナでも
Large 221013 ugv 02

ユーロサトリ2022にSTエンジニアリングが出展した負傷者後送用UGV「CASEVAC」(竹内 修撮影)。

 タイ陸軍はUGVではなく、3種類のUAV(無人航空機)を組み合わせた負傷兵救命システムの開発を進めています。

 3種類のUAVのうち最も小型の「RAPID MERT」は、ガソリンエンジンとバッテリーのハイブリッド機関で飛行するクワッドコプターで、負傷者の応急措置を担当する衛生兵への輸血用血液や薬品などの輸送を主任務としています。

 RAPID MERTが輸送した血液や医薬品での救命が困難な場合は、ヘリコプターの離着陸が困難な環境でも離着陸できるUAV「MERT-P」で軍医や衛生兵を投入、応急措置ののち、胴体下に負傷した将兵を載せて飛行するUAV「MERT-R」で、治療設備の整った後方へ負傷者を輸送する仕組みとなっています。

日本メーカーはどうしてる?

 川崎重工業の子会社であるカワサキモータースは、10月5日から7日まで東京ビッグサイトで開催された「危機管理産業展2022」に多用途四輪駆動車「MULE」の無人走行型デモンストレーター(技術実証車)を出展しました。

 MULEはレジャー用に開発された車両ですが、高い不整地走行性能は海外で高く評価されています。またMULEシリーズの「MULE PRO-FXT」は陸上自衛隊海上自衛隊に汎用軽機動車として採用されているほか、「MULE PRO-FX(EPS)」も大手消防車メーカーのモリタから小型オフロード消防車「Red Ladybug」のベース車両として採用されるなど、国内でも官公庁を中心に需要が増加しています。

 無人走行型のMULEはオペレーターによる遠隔操作に加えて、STエンジニアリングのCASEBACと同様の自律走行能力やプレイバック機能も備えており、負傷者の後送にも十分使用できるのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 防衛省は令和5年度予算の概算要求で、5年以内に防衛力を強化するための施策の一つとして、「無人アセット防衛能力」の整備を打ち出しています。

 その一環として導入を計画しているUAVやUGVを、防衛省が負傷者の救命や後送に使用するかは不明ですが、有事だけでなく大規模災害の救助活動においても迅速に医薬品などを輸送できるUAVや、少ない人数で負傷者を後送できるUGVの救命用途での活用も、検討すべきではないかと筆者は思います。