自転車の取締りが強化されるなか、その広報啓発の基礎となる「自転車安全利用五則」が書き換わりました。あいまいだった歩道の走行については、明確に「歩行者優先」の方針に。

増加する自転車関連の事故を減らす具体的な数値目標も示されました。

自転車の走る場所、装備を限定し、乗り手に安全運転を迫る

 岸田文雄首相を会長とする「中央交通安全対策会議」は2022年11月1日、自転車の安全利用を促進するための「自転車安全利用五則」を書き換え、乗り手の責任をより厳しくする方向で広報啓発を実施するよう、警察、国土交通省、地方自治体などに対策を求めました。

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「自転車は車道」の原則が強く広報されることに。写真はイメージ(画像:写真AC)。

「自転車安全利用五則」は、警察、自治体、交通安全運動に携わる人が広報啓発を行う基本方針といえるもの。中央交通安全対策会議が決めた新しい「五則」は、次のようなものです。

1.車道が原則、左側を通行 歩道は例外、歩行者を優先
2.交差点では信号と一時停止を守って、安全確認
3.夜間はライトを点灯
4.飲酒運転は禁止
5.ヘルメットを着用

 一読すると、ごく基本的な項目ばかりですが、2007年から2022年10月まで続いた古い「自転車安全利用五則」には、こんな表現がありました。旧五則の抜粋です。

3.歩道は歩行者優先で 車道寄りを徐行
5.子供は、ヘルメットを着用

 歩道と車道の両方を走ることが長く続いた自転車は、その影響で歩道走行も問題なくできるような気がします。首相以下閣僚が出席する先の会議の決定でも、今までは「歩道は歩行者優先」でした。しかし、これからは自転車の通行も「車道が原則」「歩道は例外」ということが明確です。

 自転車の歩道走行は原則として、補助標識などで除外されていない限りできません。

通行するときには、特に歩行者に注意して徐行しなければならない、ということが定められていますが、この点についても自転車の歩行者を妨害しない乗り方が、なおいっそう求められることになります。

 新しい五則を使って「学校、幼稚園、保育所、福祉施設及び社会教育施設等における交通安全教育、自転車利用者が参加する各種の講習等のあらゆる機会において、自転車交通ルール等の周知を図ること」を、対策会議は関係者に求めていて、今後は乗り手の年齢を問わず、安全教育や広報啓発に反映されるようになります。

ヘルメット着用を全年齢に向けて“奨励”

 もう1つの大きな変化は、ヘルメットの着用です。以前の五則ではヘルメットの着用は、子供に対して呼び掛けられたものでした。今後はあらゆる年齢層にヘルメット着用が呼び掛けられます。

 今年4月の道路交通法改正でも、このことは「努力義務」として盛り込まれました。乗り手だけでなく、子供らを乗せることができる2人乗りなど同乗者がいる場合や、子供が自転車に乗る場合の保護者の責任としても、着用させるよう務めること、とされています。法律の施行は1年以内。この改正内容についての具体的な日程はまだ決まっていませんが、まもなくすべての利用者への着用が呼び掛けられることになります。

「努力義務とは『奨励』のこと。義務までではないが、強いメッセージを込めている」と、内閣府交通安全対策担当は話します。

 また対策会議は、国土交通省や地方自治体の道路管理者に対しても「自転車に係る通行実態・事故実態を踏まえ、自転車通行空間の整備を推進すること」を求めています。

“道路の左側の整理”は今後、ますます重要になりますが、道路の管理は国や地方に分散し、対策会議ではあるべき姿については触れられていません。

自転車「歩道は例外」徹底へ 書き換わった国の基本方針のポイント 乗り手の責任より厳しく
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車道と分離された自転車レーン。ごく一部の道路でしか見られない(乗りものニュース編集部撮影)。

事故を減らすために「乗り手の責任」問う

 交通事故は全体で減少傾向ですが、反対に自転車が関与する割合は目立つようなりました。

 警視庁まとめた都内における2022年中(9月末日まで)の自転車が関与する交通事故は1万271件。交通事故全体の46.6%を占めています。また、前年同期比で1718件増えています。

 また、自転車が関与する事故の中でも、自転車が第一当事者(事故が発生するきっかけとなった当事者)となる事故が5507件(前年同期比+1618件)。自転車の死者21人(前年比+8)も増えています。

 政府は2025年までに、年間の道路交通事故による24時間死者数を2000人以下、30日以内死者数でおおむね2400人以下とする交通安全基本計画を掲げています。この被害者を減らすための対策が、これまで以上に自転車の乗り方に向けられています。自転車だから… …、こんな言い訳がきかない時代がきているようです。

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