2022年11月に実施された海上自衛隊の国際観艦式は、史上2回目です。栄えある1回目は2002年のこと。

今回と規模はほぼ同じでしたが、ロシア海軍から3隻も参加したとか。この20年でどう変わったか見比べてみます。

首相が乗る観閲艦も20年で様変わり

 2022年11月6日に開催された海上自衛隊の国際観艦式は、実に20年ぶりの大イベントとなりました。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって規模は縮小されたものの、アジア太平洋地域を中心に13か国の艦艇・航空機が日本に集結し、祝賀航行や多国間共同訓練を通じて友好を深めるとともに、海軍同士の連携強化を図りました。

 今回の国際観艦式は、海上自衛隊としては2回目。2002年に行われた初の国際観艦式から20年、いったいどのように変化したのでしょうか。

ふたつの国際観艦式を見比べながら、海上自衛隊の進化を見てみましょう。

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2022年の海上自衛隊 国際観艦式で航行する護衛艦「ひゅうが」その左奥に見えるのは「たかなみ」(右手前)と「あさひ」(深水千翔撮影)。

 まず、自衛隊の最高指揮官である首相(内閣総理大臣)が乗艦する観閲艦もこの20年で様変わりしました。2002年当時は艦首側に背負い式砲塔を備え、甲板上に格納庫を置いた護衛艦「しらね」(基準排水量5200トン)が用いられていたのに対し、2022年は空母のような全通甲板を持つ海自史上最大護衛艦「いずも」(同1万9950トン)になりました。艦種は同じヘリコプター搭載護衛艦(DDH)であるものの、船体の形状も大きさも全く別物となっており、これだけでも20年という歳月と海自を取り巻く環境の変化を感じることができます。

 なお、観閲艦にDDHが選ばれる理由としては、まず「首相や大臣などを乗せたヘリコプターの着艦が可能」「艦内で栄誉礼や音楽隊の演奏などを行える広さがある」「大使や大使館付き武官など招待者を乗せるスペースがある」この3点があげられます。

そのため巨大な格納庫を持つ「いずも」型護衛艦はその役割にピッタリ当てはまっているといえるでしょう。

 ちなみに2012年と2015年の海上自衛隊 観艦式では「しらね」の同型艦「くらま」が観閲艦を務めており、「いずも」が観閲艦として式典に参加したのは今回が初めてです。予備の観閲艦もひと回り小さいものの、「いずも」と同じように空母型の全通甲板を持つ護衛艦「ひゅうが」(同1万3950トン)であり、全通甲板タイプのDDHが海上自衛隊の顔となったことを象徴しています。

 また、2022年に就役した新型護衛艦(FFM)「もがみ」「くまの」(同3900トン)が加わると共に、1988年に就役した古参の練習艦「しまかぜ」(同4650トン)も参加。これにより、「しまかぜ」は2002年と2022年、両方の国際観艦式に登場した艦となりました。2015年の観艦式で行われた同艦搭載の73式5インチ砲による空砲発射は、残念ながら今回は実施されませんでした。

ロシアから軍艦3隻が来日した2002年

 前回の国際観艦式は、東京湾において停泊式で行われましたが、今回は相模湾を舞台に移動式での実施となりました。移動式は観閲部隊だけでなく、受閲部隊も隊列を組んで航行し、両部隊がすれ違う形で観閲を受けるため複数の艦艇で速力を合わせる必要があり、高い技量が要求されます。そのため、日本ではあまり見ることができない個性豊かな外国艦艇による隊列と迫力ある航行を見ることができました。

海自「国際観艦式」20年で変化した“顔ぶれ” 国際関係を象徴? 存在感増した国、消えたロシア
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2002年の海上自衛隊 国際観艦式で横須賀に停泊する海上自衛隊の護衛艦「しらね」(右)と「いかづち」(深水千翔撮影)。

 参加隻数は2002年が11か国17隻の外国艦を含め計41隻だったのに対し、2022年は12か国18隻の外国艦を含め計38隻でした。ちなみにイギリス海軍のリバー級哨戒艦「スペイ」が無事に到着すれば「13か国19隻」となるところでしたが、残念ながら今回は悪天候に阻まれ間に合いませんでした。

 2002年の国際観艦式ではロシア海軍からミサイル巡洋艦「ヴァリャーク」、タランタル級コルベット「R-18」、キロ級潜水艦「モゴーチャ」の3隻が参加。韓国海軍も駆逐艦「広開土大王」、補給艦「天池」、フリゲート「済州」の3隻を派遣しています。さらに太平洋の向こう側からチリ海軍の帆船「エスメラルダ」が駆けつけました。ロシアの巡洋艦「ヴァリャーク」は横須賀基地において一般公開が行われ、珍しいロシア艦を一目見ようと大勢の見学者で賑わっていました。

 一方、2022年の国際観艦式はインド太平洋諸国との間で安全保障上の結びつきが強くなったこともあって、インドとパキスタンがそれぞれ2隻ずつ艦艇を派遣したうえ、インドネシア、ブルネイ、マレーシア、シンガポール、タイといった東南アジア諸国の海軍も艦艇が来日しています。はるばるニュージーランドからは南極海で活動する補給艦「アオテアロア」が参加。

ギリギリまで参加が明らかでなかった韓国も補給艦「昭陽」を派遣し、祝賀航行部隊に加わりました。

 オーストラリアはなんと4隻もの艦艇を派遣。観艦式では駆逐艦「ホバート」、フリゲート「アルンタ」、補給艦「スタルワート」、潜水艦「ファーンコム」が隊列を組み、カナダやブルネイの艦艇と共に航行しました。

国際観艦式じゃなくても来日する外国艦船

 特に、日本やアメリカと共にQUAD(クアッド)と呼ばれる枠組みを構成しているインドとオーストラリアは、2015年の観艦式にも艦艇を派遣しており、海上自衛隊が主催する観艦式では定番の国になりつつあります。台風で中止になったものの、2019年の観艦式では、豪印共に今回と同じ数の艦艇が並ぶ予定でした。

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2015年の観艦式で観閲艦を務めた護衛艦「くらま」(深水千翔撮影)。

 今回の国際観艦式の後、11月8日から15日にかけて日米豪印による共同訓練「マラバール」が行われており、観艦式に参加した外国艦ではアメリカ海軍の巡洋艦「チャンセラーズビル」、インド海軍のフリゲート「シュバリク」、対潜コルベット「カモルタ」、オーストラリア海軍の「アルンタ」「スタルワート」「ファーンコム」が、海自艦艇や航空機と共に対潜水艦戦や対空戦といった戦術訓練を日本近海で実施しています。

 なお、2002年の国際観艦式にはフリゲート「プレリアル」を、次に行われた2015年の観艦式にはフリゲート「ヴァンデミエール」を派遣したフランス海軍は、今回は艦艇の参加はなく、哨戒機ファルコン200を祝賀第12群として来日・参加させています。同機は10月中旬から北朝鮮船舶の違法な海上活動を監視するため普天間飛行場に展開しており、これも近年の国際情勢を象徴する機体のひとつといえるでしょう。

 ちなみに、台風で中止となった2019年の観艦式は、カナダ、中国、シンガポール、イギリス、米国、インド、オーストラリアの艦艇11隻が来日・参加し計46隻で実施される予定でした。近年は通常の観艦式でも複数国の外国艦が祝賀航行部隊に加わることが当たり前になっているため、2025年の観艦式でも珍しい外国艦艇が参加することは間違いないでしょう。

 そのころには海上自衛隊だけでなく周辺諸国の海軍も新鋭艦を導入していることが確実であるため、どんな艦艇を見ることができるのか、筆者(深水千翔:海事ライター)は今から楽しみです。