レトロな建物が立ち並び観光客にも人気の「門司港」、その駅前一等地の再開発が二転三転しています。旧JR九州本社ビルの活用は、事業者に選ばれた海外企業が撤退したうえに、駅前で貴重な「鉄道遺産」が出土。

今後どうなるのでしょうか。

門司港レトロの「旧JR九州本社ビル」をホテルに…のはずだった

 かつて大陸の玄関口として栄えた「門司港駅」周辺の再開発が揺れています。香港企業がホテルに改装する予定だった旧JR九州本社ビルは計画が白紙になった上、門司区役所の移転予定地からは旧門司駅の機関庫と見られる遺構が出土。特に「初代門司駅関連遺構」を巡っては北九州市が提案した遺構の移築費用を市議会が認めず、その扱いについて意見が割れている状態が続いています。

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JR門司港駅。もともと門司駅として開業し、関門トンネル開通に際し改称した(深水千翔撮影)。

 門司港には、かつて日本を代表する貿易港だった時代の栄華を思わせる近代建築が数多く残っており、「門司港レトロ」の名前で観光地となっています。関門海峡に面するエリアでは、国の重要文化財に指定されている門司港駅(旧門司駅)駅舎や、旧門司三井倶楽部本館をはじめ、旧日本郵船門司支店や旧大阪商船門司支店、旧九州鉄道本社、旧門司税関、旧横浜正金銀行門司支店、旧大連航路上屋など、ここが物流と経済の中心地であったことを伝える建物を今も見ることができます。

 お洒落なカフェも並び、休日は観光客で賑わう門司港ですが、駅前の一等地に活用されていない建物があります。それは「旧JR九州本社ビル」。本来なら2021年にホテルとしてオープンするはずでした。

 旧JR九州本社ビルは三井物産の門司支店として1937(昭和12)年に竣工しました。

6階建ての近代的なアメリカ式オフィスビルで、東京の三井本館などにも関わった松田軍平が設計したものです。他の建物に比べて地味な印象も受けますが、柱形の頭頂部が傾斜していたり、玄関部分を黒御影石で縁取りしつつレリーフが装飾されていたりと、九州一の高層建築として建てられた当時の意気込みを垣間見ることができます。

 太平洋戦争後の財閥解体に伴って1953年に日本国有鉄道が取得すると門司鉄道管理局庁舎となり、国鉄の民営化後は2001年までJR九州北九州本社が置かれていました。JR九州は老朽化を理由に建物の解体を検討していましたが、「門司港の変遷を伝える歴史的な価値の高い建物」であるとして2005年に北九州市が市有地との等価交換で土地と建物を取得。新たな観光拠点として活用するため、建物全体を保存・修繕できる事業者を探すことになります。

海外の投資会社、けっきょく撤退

 そして2019年11月、北九州市の公募型プロポーザルを通じて香港の投資会社「オデッセイ・アセット・マネジメント・リミテッド」が事業者に選ばれました。

事業費は30億円で事業期間は30年以上を予定。2020年春頃には改修工事に入り、2021年夏頃に香港系のワーフホテルズが運営を行う100室規模のブティックホテルが開業するという計画でした。

 しかし2020年2月にオデッセイがホテル開発のために設立した特別目的会社(SPC)と市有財産使用貸借契約(無償)を締結して以降、事業を行う上で必要な修繕工事契約などが確認できない状態が続きます。北九州市は2023年に入り、事業の進捗が確認できる書類の提出を求める催告通知書を2回にわたって送りましたが、同年10月にオデッセイから「事業を断念する」との連絡が入りました。理由は「物価高騰などにより事業費が大幅に増加し、事業資金の調達の見込みが立たないため」としています。

 こうして旧JR九州本社ビルの活用事業は振り出しに戻り、2024年5月に事業者の再公募を始める予定です。

 並行してもう一つ、2019年度に始まった再開発事業が、門司区役所などの公共施設を門司港駅周辺に集約し2027年度の供用開始を目指す「門司港地域複合公共施設整備事業」です。

 これは、使い勝手が悪く老朽化が進んでいる門司市民会館、門司生涯学習センター、門司勤労青少年ホーム、門司図書館、旧国際友好記念図書館、門司区役所庁舎、港湾空港局庁舎を1つの建物にまとめることで、人口減少が進む中で運営費用などを削減しつつ利便性の向上とサービスの効率化を図るのが目的です。

 特に1930(昭和5)年に建てられた門司区役所は国の登録有形文化財となっているものの、傾斜地に立地している上に手狭でバリアフリーに対応しきれないといった課題があり、市民の多くが利用する区役所の移転は急務となっていました。

どうなる「九州の玄関口」再開発が大揺れ “海外企業が撤退”さらに“鉄道遺構が出土” 門司港レトロに見合う姿になるのか
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レトロな街並みが残る門司港。左は旧大阪商船ビル。かつては外国航路の待合室だった(深水千翔撮影)。

 しかしこの複合施設の建設予定地で2023年、「旧門司駅の遺構」が発掘されたのです。

 発見されたのは、1891(明治24)年に開業当時の機関車庫の基礎部分で、鉄道黎明期の建築技術を伺える貴重な資料とされています。

でてきた遺構「一部保存はいらない」

 北九州市の武内和久市長は一部を移築して保存する方針を示していましたが、産業遺産学会などは現地保存を要望。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関として世界遺産登録の審査などを行っているイコモス(国際記念物遺跡会議)の日本支部「日本イコモス国内委員会」も、「国の史跡指定を目指し、遺産群の全体を現地で適切に保存」することを求めました。

 さらに北九州市は一般会計補正予算案に旧門司駅関連遺構の移築費用として2000万円を盛り込みましたが、北九州市議会では市側の説明不足やプロセスを疑問視する声があがり、移築費用を削除する修正動議を賛成多数で可決しています。これにより遺構を移築するための工事は行えなくなりました。

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鉄道遺構が出土した門司港駅前の再開発地区(深水千翔撮影)。

 武内市長は「一部保存はいらないというのが、議会の皆様の議決」と説明。市議会の主要会派から「複合公共施設整備は計画通り現地で進める。遺構については重要と思われる箇所で、遺構の存在が確認された場合、発掘調査と記録保存を行う。ただし文化財指定に向けた価値付けは求めない」ことが事実上確認できたと述べています。

「旧JR九州本社ビル」と「複合公共施設整備」。いずれも門司という土地で培われた歴史が尊重される決着になることが望ましいでしょう。門司港駅前の一等地を巡る動きから目が離せません。