高齢者による自動車事故が増加しているというニュースは、ご存知の方も多いでしょう。その代表的な例が高速道路の逆走事故ですが、それ以外でも身の回りの自動車事故に高齢者が関わっている割合が着実に増加していることが、統計でも証明されています。
2015年5月9日(土)。首都高湾岸線において、走行中の乗用車に逆走していた乗用車が衝突。幸いどちらのドライバーも命に関わることはありませんでしたが、軽いケガを負うことになりました。そしてその逆走していたドライバーは、79歳の女性でした。
こうした高齢者による高速道路の逆走事故の多さは、数字においても明らかです。昨年9月に高速道路各社と警察庁がまとめた統計によると、2011年から2013年にかけて起こった高速道路における571件の逆走(事故に至らない案件も含め)において、その約7割が65歳以上の高齢者によるものだという結果が出ています。
そして高速道路の逆走に限らず、高齢者ドライバーの事故はここ数年で明らかに増加しています。警視庁交通総務課統計によると、2013年から過去10年間で交通事故件数そのものは8万4513件から4万2041件に半減したのに対し、その件数に占める65歳以上の高齢者ドライバーの割合は、2003年では10.2%でしたが、2013年には19.2%までに増加しています。
また、原因別に見た高齢者ドライバーによる交通事故発生状況のデータによると、最も多いのが「脇見や考え事をしていたなどによる、発見の遅れ(67.1%)」と出ています。そして少数ですが、「相手の予測を見誤った判断の誤り(10.0%)」や「ブレーキとアクセルを踏み間違えるなどの操作上の誤り(5.9%)」も挙げられています。
先の「高齢者ドライバーの事故が増えている」という警視庁交通総務課統計を受け、警視庁ウェブサイトでは次のみっつの要因を挙げ、注意喚起を促しています。
「注意力や集中力の低下」
「瞬間的な判断力の低下」
「過去の経験にとらわれる傾向にある」
現在世間では、高齢者の加齢による能力低下が影響しやすい「注意力や集中力の低下」と「瞬間的な判断力の低下」が注目されがちです。しかし実は最後の「過去の経験にとらわれる傾向にある」も見逃せない要素であることが、データや関係者の言葉で分かってきます。
駐車場事業やカーシェア事業を手がけるパーク24は、「クルマの運転は、ご自身で上手いと思いますか?」という質問に対し、免許取得年数が30年以上の人は4割が自分の運転が上手いと感じ、逆に下手だと感じている人は6%しかいない、という調査結果を2015年5月、発表しました。
免許取得から30年以上といえば、おおよそ50代以降のドライバーを指します。そしてそのなかには65歳以上の高齢者ドライバーも含まれると考えられ、彼らにとっては年を重ねることは衰えではなく、むしろ経験が豊富であるというポジティブな捉え方をしているとも読み取れます。
自己流運転をする高齢者が目立つそして多くの高齢者ドライバーが集う「高齢者講習」の現場を見ると、その豊富な経験が運転に過信を与える傾向がわかってきます。
東京都目黒区で「高齢者講習」を行う日の丸自動車学校の担当者は、「あくまで教習に訪れる人なので運転自体は慎重」と前置きをしつつも、「高齢者ドライバーはむしろ経験があるため、自己流の運転になりがちな人も目立つ」といいます。そして「そうした人たちは、一時停止や徐行、左右確認などがおろそかになりがち」と指摘します。
教習所内はスピードも比較的遅めで、教習所内で事故につながるような運転はほとんど見られないとその担当者はいいますが、先に挙げたキャリアが30年以上になるドライバーのデータをあわせて考えると、“高齢者だからこそ過信が生まれる”状況は、高齢者の自動車事故を考える上で押さえておくべき要素といえそうです。
ただし、日の丸自動車学校の担当者は、「高齢者講習を受けにくる多くの方は、かなり緊張感を持って臨んでいる」と付け加えます。
「わざわざ高いお金を払って免許を取りにくるわけですから、みなさん真剣に教習へ臨みます。
“高齢者だからこその過信”という事故原因を未然に防ぐ意味でも、「高齢者講習」は少なからず効果を発揮しているようです。