高速道路の新たな深夜割引への移行が、2025年7月頃に延期されました。理由は「データ処理」の準備が追い付かないこと。
2024年7月にNEXCO3社が発表した新たな深夜割引の実施は当初、2025年3月末頃に実施されるはずでしたが、延期が発表されました。12月25日、NEXCO3社はこの深夜割引について、西日本社長の村尾和俊氏が代表して次のように述べました。
夜のSA/PAにはトラックがあふれる。深夜割引のための時間調整で長時間駐車するケースも多い(中島みなみ撮影)。
「想定よりシステム整備に時間を要しており、2025年夏頃に延期させていただきました。準備をされていた物流事業者には申し訳ありませんが、ご理解いただきますようお願い申し上げます」
現行の深夜割引は、対象時間である0時~4時に少しでも高速道路を走っていれば、時間外の走行も含めて通行料金が30%が割り引かれる制度です。割引時間帯前にほぼ目的地まで走り切り、時間調整をして割引時間帯になってから流出すれば、走行区間全体が割引対象になります。
このため、SA/PAの駐車可能台数を超える利用車が、高速バスの停留所や路側帯にまで違法駐車して時間調整するケースも目立ちました。また、コスト削減のため短い深夜時間帯に走行させる労働環境についても課題が指摘されました。
新たな深夜割引は、この2つの課題を解決し、プライバシーの確保を両立させるため、当初から大量のデータ処理による“不確実な割引”を余儀なくされていました。
延期の大きな原因となったのは、NEXCO3社のデータ処理仕様の違いです。
これまでの割引は、ETCレーン入口と出口の2か所の時間さえわかれば、即座に割引が可能でしたが、新しい割引は、「対象時間に走った距離だけ」しか対象にならないことが大きな変更点です。

深夜割引の延期を説明するNEXCO西日本 村尾和俊社長(中島みなみ撮影)。
そのため、利用車が何時にどこを通行したかが割引金額を大きく左右します。例えば、事故渋滞でほとんど先に進めず、いたずらに時間が過ぎてしまえば、同じ距離を走っていても割引金額が少なくなる可能性があります。
新しい制度では、深夜割引のために約50kmごとにETC無線通信専用アンテナ(フリーフローアンテナ)を設置し、通過記録を取ることにしました。理想的には高度なGPSなどを使って走行ルートと時間をトレースすることができれば、正確な問題のない料金請求になるのですが、そのためのデータ処理やプライバシー問題を考えると、まったく現実的ではありません。
そこで、ETCレーンの入口と出口の通過記録に加えて、ポイントごとの距離と時間で走行中の平均スピードを計算することで、割引対象時間中の走行距離を推定することに決めました。
ただ、それでも、通過記録のデータを集約して、データ計算をする中間処理が必要です。各社の規格を超えて円滑なネットワークを維持するための相互接続性を確実にするために、延期を決断しました。
利用車の時間と距離を把握することは、今後予定する「ロードプライシング」の導入も容易にすることが考えられます。
利用車の走行スピードを把握することは、もう一つの課題である労働環境の改善にもつながると、高速道路会社は考えました。

左からNEXCO西日本 永田順宏取締役常務執行役員、NEXCO中日本 中井俊雄取締役常務執行役員、NEXCO東日本 田中博幸取締役常務執行役員(中島みなみ撮影)。
職業ドライバーの連続運転時間は4時間以内です。現行の深夜割引はいちど割引時間帯に乗り入れてしまえば対象時間帯を気にする必要はありませんが、次からは対象時間帯だけしか割引対象にはなりません。そのため次の“上限”を設けています。
まず対象時間が7時間(22時~翌5時)に広がるため、連続運転の上限を超えて運転することの防止策として、4時間30分以上の走行では30分間を休憩時間とみなし、割引対象から外すことにしました。
さらに、車種別の法定速度を考慮し、1時間あたり大型車以上の貨物車は90km、それ以外の車両は105kmという割引上限距離を設定し、過重運転の防止に配慮しました。
利用車からすれば、最高時速が120km/hに設定された区間でも割引上限距離が同一に設定されていることには違和感を覚えますが、計算処理のための変数をできるだけ少なくする、という配慮だったのかもしれません。
走行環境に左右される新しい深夜割引制度は、そのため従来のように割引額が即時に決済されません。いったん正規料金で支払った後、クレジットカードなどの請求日に合わせて割引額を還元する形です。
深夜に走る場合は、走行前に割引額を確認しておくことが必要になってきます。