世界一の利用客が集まる駅、新宿。片田舎の小さな駅として開業してから140年、周辺は驚くべき発展を遂げました。
世界一の利用客が集まる駅、新宿。その数はギネスブックにも「Busiest railway station」として、1日当たりの利用客が270万4703 人(2022年)として記録されています。しかし、この地に駅が開業したのは、もともと町が賑わっていたからではありませんでした。
新宿駅北側の大ガード。青梅街道をまたぐ(画像:写真AC)。
新宿駅が誕生したのは1885(明治18)年のこと。私鉄の日本鉄道が、品川~赤羽間とともに開業しました。
当時の東京は、新橋~横浜を結ぶ官設鉄道(現・東海道本線)と、上野~前橋を結ぶ日本鉄道(現・高崎線)がすでに開業していましたが、新橋~上野間は江戸時代からすでに町が繁栄していたことや、新橋と上野の標高差を解消する建築技術が追いついていなかったことなどから、すぐに着工することはできませんでした。そこでこの2路線を結ぶ路線として開業したのが、品川と赤羽を結ぶ品川線(現・山手線・埼京線)です。
開業時の品川線に設けられたのは、北から板橋・新宿・渋谷の3駅。新宿には青梅街道と甲州街道が通り、人の往来がありました。
この地の都市化が進むきっかけとなるのが、品川線の開業から4年後の1889(明治22)年に甲武鉄道(現・中央線)新宿~立川間が開業し、接続駅となりターミナルとしての第一歩を踏み出したことです。
新宿駅に「ふたつの新宿駅」が誕生!?その後、甲武鉄道は1889年のうちに立川~八王子間を開業させると、こんどは新宿から東、都心部を目指し延伸を続けます。1894(明治27)年に新宿~牛込間、翌年には牛込~飯田町間、1904(明治37)年に飯田町~御茶ノ水間が開業します。

甲武鉄道の電車デ963形。松本電鉄(現・アルピコ交通)でハニフ1として保存されたのち、さいたまの鉄道博物館へ渡った(画像:PIXTA)。
ちなみに牛込駅は2020(令和2)年に200m西に移設した現在の飯田橋駅付近に、飯田町駅は飯田橋駅の東、水道橋駅との中間あたりにありました。
甲武鉄道が1904年に電車運転を始めたことなどから、新宿駅は開業から21年がたった1906(明治39)年に構内の改良工事が行われます。開業時には現在の東口あたりにあった駅舎を、甲州街道に面した現在の東南口あたりに移転させました。
この移転にあわせて、甲武鉄道は新宿駅構内に“ふたつのホーム”を設けました。ひとつは二代目駅舎に近い「甲州口」、もう一つは青梅街道に近い大久保寄りの「青梅口」で、甲武鉄道の電車はどちらのホームに停まるという運行をすることになったのです。
同じ駅(電停)でふたつのホームに停まるという運行は、いまも鹿児島市電などで例があるものの、電車の両数が少なかった頃の珍しい形態でしょう。
そしてこの年の10月には甲武鉄道が、11月には日本鉄道が相次いで国有化され、新宿駅も官設鉄道の駅となりました。戦後は国鉄、そしてJRとなり現在に至ります。
関東大震災で東京の人の流れが変わった新宿の人の流れを大きく変えるきっかけとなったのが、1923(大正12)年の関東大震災です。
新宿駅の駅舎も大破しましたが、被害がより大きかったのは東京の東部、下町の人口密集地帯でした。被災した人々は、被害の小さかった東京西部や多摩地域に移住し、中央線や京王電気鉄道(現・京王電鉄)で通勤するようになり、新宿駅の利用者が急増していきます。
震災の翌年には中央線のふたつのホームを1か所にまとめ、2年後の1925(大正14)年には現在の東口あたりに三代目となる鉄筋コンクリート造りの新駅舎が完成。駅周辺の開発とともに、発展していくことになります。
西武「新宿駅」実は用意されていた!戦後の新宿駅を大きく変えたのが、1964(昭和39)年、東口に完成した新宿ステーションビル(現・ルミネエスト新宿)です。駅と商業施設が一体化した「民衆駅」となったことで、人の流れも大きく変わっていきます。

JR新宿駅東口のルミネエストは新宿ステーションビルとして1964年開業。当初は西武新宿線の乗り入れスペースが用意されていた(乗りものニュース編集部撮影)
このビルには西武新宿線の改札スペースも用意されていましたが、残念なことに西武新宿駅からの延伸が頓挫し、使用されることはありませんでした。
以後、1976(昭和51)年には南口に新宿ルミネが、2016(平成28)年には新南口にバスタ新宿が開業したほか、1984(昭和59)年まで駅の南東側にあった新宿貨物駅の跡地に1996(平成8)年、タカシマヤタイムズスクエアが開業するなど、商業施設とリンクしながら世界一の駅へと成長を続けてきました。
いま新宿駅周辺は築50年以上の老朽化した建物が多いことから、東京都と新宿区が「新宿の拠点再整備方針~新宿グランドターミナルの一体的な再編~」に基づき再開発を進めています。2040年を目標に各駅ビルを建て直し、駅周辺エリアとの回遊性も向上させた「新宿グランドターミナル」の実現を目指しています。
現在、こうした新宿駅をはじめとした駅と街についてのパネル展示「未来へつながる 鉄道とまちづくり展」が、街びらきした高輪ゲートウェイシティで2025年6月28日まで開催されています。