JR東日本が北陸新幹線安中榛名駅前に展開する大規模宅地分譲地「びゅうヴェルジェ安中榛名」。その全601区画がこのほど完売しました。

そこに至るまでの取り組みを取材したところ、同社が採用したユニークな販売促進戦略が浮かび上がってきました。

ハロウィンパーティーや芋煮会も

 北陸新幹線・安中榛名駅の南側に広がるJR東日本の大規模宅地分譲地「びゅうヴェルジェ安中榛名」(群馬県安中市)。その全601区画が2016年6月末、販売開始からおよそ13年で完売しました。

 安中榛名以外にも「パストラルびゅう桂台」(山梨県大月市、994区画)、「びゅうフォレスト喜連川」(栃木県さくら市、532区画)などの大規模宅地分譲地を抱えるJR東日本ですが、完売は今回が初めてといいます。

 どのようにして完売を実現させたのか、JR東日本の販売促進策や努力について担当者に聞きました。


安中榛名駅前に広がる「びゅうヴェルジェ安中榛名」(写真出典:JR東日本)。

——そもそもなぜ、JR東日本が宅地分譲ビジネスに参入したのでしょうか。

古澤拓郎さん(JR東日本 事業創造本部 プロジェクト企画・地域開発グループ)「当社は民営化後、鉄道事業以外でもお客さまに身近なサービス・事業を提供するという経営方針を掲げてきました。1992(平成4)年に『フィオーレ喜連川』(栃木県さくら市)の販売を開始し、その好調もあって『びゅうフォレスト喜連川』『びゅうヴェルジェ安中榛名』『パストラルびゅう桂台』を手掛けることになりました」

——「フィオーレ喜連川」の販売が始まった当時はバブル期で、地方のニュータウン開発も活発だったと思います。参入にはこうした時代背景も関係しているのでしょうか。

古澤さん「当時は地価の高騰もあって、住宅を買えるのが東京から離れた場所に限られたという事情はありました。しかし当社としては、そのような時代背景を超えたものとして、昨今のトレンドでもある地方移住や田舎暮らしを“先取り”したと捉えています」

——今回完売した「びゅうヴェルジェ安中榛名」の開発までの経緯を教えてください。

古澤さん「長野新幹線(当時)開業による安中榛名駅の新設に伴い、新たな価値を提供したいと考えました。喜連川も安中榛名も、軽井沢や那須のようなブランドが確立されておりませんでしたが、気候的な条件も良いことから選定しました」

——具体的にどのような販売促進策を実施したのでしょうか。

古澤さん「こうしたタイプの物件はターゲットを明確にする必要があるため、ファンの方を増やし、支持していただくことが重要です。安中榛名の場合、物件に興味がある方向けの会員組織を作りました。そこにおいて『どのような街に住みたいですか』という話を販売開始の1年以上前から会員の方と進め、一緒に街をつくるスタイルを採用しました」

——完売に至ったポイントはどこにあるのでしょうか。

古澤さん「お客さまの意見に私たちからの提案をミックスして作り上げたコンセプトと、『こういう暮らしができそうだ』というお客さまの考えとのあいだにズレがなかったことが一番のポイントと考えています。さらに、一部の方が入居されたあとも、ハロウィンパーティーや芋煮会などを通じて、住民の方々と一緒に街を盛り上げる取り組みも頻繁に行いました。その結果、住民の方同士の結び付きが強くなり、プラスの効果を生みました」

喜連川の新街区にノウハウ結集へ

——今後もほかの分譲地で同様の販売促進策を実施する予定でしょうか。

古澤さん「今年秋に販売開始を予定している『びゅうフォレスト喜連川』の新街区『One’s One’s』では、これまでの物件で培ったノウハウを結集して取り組んでいく予定です」

山本健介さん(JR東日本 東京工事事務所 事業創造課 喜連川グループ)「地方創生といった文脈も喜連川にはあり、地元のさくら市が定住人口を増加させる施策を行っています。東京からの移住者が多い『びゅうフォレスト喜連川』は移住者の受け皿として『さくら市まち・ひと・しごと創生総合戦略』に明記されましたので、これに連動した施策を検討していきます」

山本太志さん(JR東日本 東京工事事務所 事業創造課 副課長)「桂台では大月市などが定住支援策として、新築住宅取得者に対し補助金(市内在住者は最高120万円、市外は同150万円)を支給しており、当事業でも、これに連動した販売促進施策を行っております。現在は地元の方が購入するケースが多いですが、今後はより幅広い地域のお客さまにご購入いただけるよう努めていきます」


インタビューに応じる(左から)山本健介さん、古澤拓郎さん、山本太志さん(2016年8月、青山陽市郎撮影)。

——宅地分譲ビジネスにおける今後の展開を教えてください。

古澤さん「『びゅうフォレスト喜連川』は『One’s One’s』の販売をもってプロジェクトを終了する予定で、それ以降の計画はありません。桂台についても、残っている区画の販売を継続していきます。お客さまにとって、地元に根付いた身近な会社ならではの安心感を売りに今後も頑張っていきたいと思います」

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