映画館の「ロマンスシート」から名付けられた?

「ロマンスカー」といえば小田急の特急列車を思い浮かべると思います。しかし、かつては「ロマンスカー」が小田急だけのものではなかったのをご存じでしょうか。

【え…】「ロマンスカーが走ってた路線」に今も走る「ロマンスカー」(写真)

 小田急電鉄によると、同社で「ロマンスカー」という名称が定着し始めたのは、1950年に登場した1910形車両のころではないかといいます。当時、映画館では恋人同士が横並びで座る2人掛けの座席を「ロマンスシート」と呼び、それを彷彿とさせるクロスシートを備えた特急であったことから、「ロマンスカー」とした説があるといいます。

 ただし、当時「ロマンスカー」と呼ばれていた車両は他社にも存在しました。

 元祖ともいえるのが、京阪電鉄で1927年に登場した1550形電車です。登場当初のパンフレットには「ロマンスカー」と紹介され、「クロスシート」を備えた特急列車をそう呼んでいたとされます。しかし1954年、車内にテレビを設置した2代目特急車両「テレビカー」が看板列車となると、次第に京阪で「ロマンスカー」という呼称は使われなくなっていきました。

 とはいえ、1959年発刊の社内報には「ロマンスカー」を歌詞に含む歌が紹介されていたり、1960年の広告には「テレビ付ロマンスカー」という表現が使われていたりしました。なお京阪の車内テレビは2013年までにすべて撤去されています。

 実は戦前には、神戸市電700形のように路面電車にも「ロマンスカー」をうたう車両があるなど、「ロマンスカー」の語は様々な鉄道で使われていました。

すでに「ロマンスカー」は商標登録済み

 戦後は名鉄でも「スーパーロマンスカー」を略した「SR車」が存在しましたが、次第に同社では「パノラマカー」が看板特急として定着。他の私鉄でも、南海の「ズームカー」、近鉄の「ビスタカー」など、それぞれ独自の名称を持つ特急が看板となっていきました。

「ロマンスカー」なぜ小田急の“専売特許”に? 昔はたくさんあ...の画像はこちら >>

長野電鉄2000系(画像:写真AC)

 さらに、東武にも1729系「デラックスロマンスカー(DRC)」がありましたが、DRCの引退に伴い小田急は1991年に「ロマンスカー」を商標登録しています。

 なかでも比較的長く「ロマンスカー」と紹介されることもあったのが、1957年に登場した長野電鉄の特急2000系電車ですが、小田急が商標登録をしたこともあるのか、次第にロマンスカーの語は使われなくなり、2012年に引退しました。その間、小田急からロマンスカー10000系「HiSE」を譲り受け、形式名を1000系としたうえで特急「ゆけむり」として2006年にデビューさせ、現在も長野の地を走っています。

 こうして、かつては各地に存在した「ロマンスカー」の名称は、唯一使い続けた小田急のみが受け継ぐことになり、現在では「ロマンスカー」といえば小田急の特急列車を指す言葉として定着しています。

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