2016年12月5日に廃止された、JR北海道・留萌本線の一部区間。多くの人が名残を惜しんだその「ラストラン」を、バスが陰から支えていました。
2016年12月5日(月)で95年の歴史に幕を閉じた、JR北海道・留萌(るもい)本線の留萌~増毛(ましけ)間。特に運行最終日の12月4日(日)は、地元住民はもとより、全国各地から多くの人が留萌市や増毛町を訪れていました。
多くの人が集まった、運行最終日の留萌本線・増毛駅(2016年12月4日、須田浩司撮影)。一方で、留萌本線の留萌~増毛間に並行するかたちで路線バスを運行している沿岸バス(北海道羽幌町)では、不測の事態に備えようと、鉄道運行の最終週である12月3日(土)と12月4日(日)の2日間、特別体制で列車の補完につとめていました。
留萌本線と並行する沿岸バス「留萌別苅線」は、留萌市立病院、留萌駅前と増毛、大別苅(おおべつかり)のあいだを結ぶ全長およそ27.5kmの一般路線バス。1日9往復運行されており、日本海沿いの美しい車窓を堪能できる路線としても知られています。
通常、この「留萌別苅線」には、旧来のツーステップバス(出入口の踏み段が2段)や、高速乗合バス仕様車が投入されていますが、鉄道のラストランにともない、列車の撮影や各駅間の移動で多くの人がバスを利用すると想定されました。
「最後の列車」、その隣には重要な任務を持った4台のバス列車の運行終了で混雑が予想されたことから、沿岸バスは「豊富留萌線」(豊富駅~羽幌~留萌駅前~留萌十字街)を中心に運転している乗降性の優れたワンステップバス(出入口の踏み段が1段)を、線路と並行する「留萌別苅線」へ3台投入。災害など列車の運行障害に備えて続行便の配車も行うなど、終日混雑していた列車の補完につとめています。

列車ラストランにともなう多くの訪問者を想定し、対策が行われたこの「留萌別苅線」では、列車が走っていない時間帯を中心に、留萌~増毛間の移動や各駅間の近距離移動でバスを使う人が目立ちました。

また沿岸バスは、増毛発の最後の列車(深川行き4936D)に乗れなかった人のために、JR北海道から要請を受け、列車代行バスを4台待機させていました。

列車運行最終日の夜、増毛駅には最後の列車に乗ろうと、多くの鉄道ファンらが列をつくっていました。沿岸バスでは、列車に乗りきれなかった人を場合によっては、留萌本線と函館本線が接続する深川駅まで輸送することになると覚悟していたそうですが、幸いにも、ほとんどの人が最終列車に乗車。ほっと胸をなでおろしたそうです。せっかく来たからには、列車に乗って欲しいですしね。
鉄道の最期にバスが行った「粋なはからい」留萌本線・留萌~増毛間の廃止を控えた2日間限定で、沿岸バスが同線と並行する「留萌別苅線」に投入したワンステップバスには、密かに心温まる演出がなされていました。
中ドア付近の側面LED表示器に、「増毛駅さん 九五年間ありがとうございました」という、95年の歴史を歩んだ留萌本線と増毛駅に感謝を表すメッセージを設定していたのです。LED表示器を活用した、同社の「粋なはからい」がうかがえるひとこまになりました。

「LEDの表示は社内でもほとんど周知していなかったのですが、留萌本線のラストランを撮影に来た方たちのあいだで、SNSを介し拡散されたようです」(沿岸バスの担当者)
私(須田浩司)も列車運行最終日の12月4日(日)に現地を訪問しましたが、至るところでこの「ありがとうLED」を撮影する姿が見られました。

今後、留萌~増毛間における交通は、沿岸バス「留萌別苅線」のほか、バスが運行されない早朝・深夜時間帯については、増毛町から委託を受けたタクシー事業者による予約制乗合タクシーが1往復運行されます。
この地域は、特に冬期において暴風雪や高波などで頻繁に道路の通行止めが発生する厳しい環境ですが、鉄路なきあとの公共交通を担う事業者にはこれまでと同様、安全かつ円滑な輸送の維持が求められます。
ちなみに増毛町は、海の幸とお酒が美味い場所としても有名です。毎年5月下旬には、特産の甘エビや“最北の酒蔵”国稀酒造のお酒をはじめ、山海の幸を堪能する一大イベント「増毛えび地酒まつり」も開催されます。
【地図】留萌本線が走る場所
