相次ぐロシア海軍艦艇の津軽海峡通航 国際法上はどうなる?

 防衛省・統合幕僚監部は2026年2月4日、ロシア海軍の艦艇が津軽海峡を西進して日本海へ向かう際に撮影した画像を公開しました。今回確認されたのは、ロシア海軍のステレグシチーIII級フリゲートで、艦番号は「335」となっており、太平洋艦隊所属の「グロームキー」とみられています。

【画像】監視中に撮影! これが、日本本土に接近したロシア艦です

 同艦は2月4日午前3時頃、青森県尻屋崎の北東約50kmの海域を西進しており、海上自衛隊は横須賀警備隊所属の多用途支援艦「すおう」と第2航空群所属のP-3C哨戒機で警戒監視および情報収集を行いました。

 実は、2月1日にも同じステレグシチーIII級の「グレミャシュチイ」が津軽海峡を通過しており、今回の「グロームキー」とは逆方向の太平洋側へ向かっていました。このように、ロシア海軍の艦艇は津軽海峡を頻繁に航行しており、4年ほど前の2021年10月には、中国とロシアの艦隊が合同で津軽海峡を航行し、話題となりました。しかし、このように日本の陸地から非常に近い津軽海峡を、他国の軍艦が通航することは、国際法上問題ないのでしょうか。

 結論から言えば、今回の通過は国際法上、何の問題もありません。というのも、そもそも今回ロシア艦艇が通過した津軽海峡の中央部分は、どこの国にも属さない海域である「公海」だからです。ともすると「津軽海峡って日本の領海じゃないの?」という声が聞こえそうですが、実はそうではありません。

 確かに国際法上、沿岸国は基線(領海や排他的経済水域などを設定する際の基準線)から12海里(約22km)までのあいだで領海を設定することができますし、それ受けて制定されている日本の国内法である「領海法(領海及び接続水域に関する法律)」第1条でも、「我が国の領海は、基線からその外側12海里の線(中略)までの海域とする」と定められています。

 しかし、これは「領海の幅を必ず12海里に設定しなければいけない」という意味ではなく、その範囲内でより狭い範囲で領海を設定することは国際法上、何の問題もありません。そこで、日本政府は津軽海峡を含む5海峡(宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道、大隅海峡)について、前述した領海法の附則第2項の規定に基づき、領海の幅を基線から3海里(約5.5km)に制限したのです。これらの海域を「特定海域」といいます。

 こうした取り決めに基づき、津軽海峡の中央部分は公海とされ、そこではいかなる国の艦船に対しても航行の自由が保障されます。

つまり、軍艦の航行に関しても法的には何の問題もないのです。

特定海峡が「めっちゃ重要だった理由」とは

 加えていえば、たとえば青森県から北海道にフェリーで向かう際には、一度日本の領海を出て、国際海域を航行してから再び日本の領海に入ることになります。他国に入国するわけではないのでパスポートなどは必要ないものの、日本の領域を出たという意味では「プチ海外旅行」といえなくもないかもしれません。

他国の軍艦が「津軽海峡を堂々通過」→ それダメ…じゃないです...の画像はこちら >>

津軽海峡の領海と公海などの様子。濃い青は内水、青は領海、水色は公海を示す(画像:海上保安庁)。

 ちなみに、なぜわざわざ領海の幅を制限して特定海域を設けたのかについて、日本政府は従来から、「海洋国家、先進貿易国として、国際交通の要衝たる海峡における商船、大型タンカー等の自由な航行を確保することが総合的な国益の観点から必要である」と説明しています。

 その一方で、次のような見方も長年なされています。すなわち、海峡全体を日本の領海としてしまうと、アメリカを含む他国の核兵器を搭載した軍艦や潜水艦がここを通過した際に、一時的にであれ核兵器が日本の領域内に持ち込まれる形になり、日本政府が堅持している「非核三原則」の「持ち込ませず」という部分に抵触してしまいます。そこで、あえて公海部分を残したのではないか、というわけです。

 一方で、よく「津軽海峡は国際海峡だ」という意見を目にしますが、これについては若干の捕捉が必要です。そもそも「国際海峡」とは、国際航行に使用される海峡のことで、日本において、この意味における国際海峡としては先述した特定海域が該当する、というのが日本政府の立場です。

 一方で、海洋に関するさまざまな規定などについて定める「UNCLOS(国連海洋法条約)」では、その第3部に「国際航行に使用されている海峡」という規定が設けられているのですが、日本の「特定海域」はここでいう「国際航行に使用されている海峡」に関する規定が適用されません。

 というのも、UNCLOS第36条には「この部の規定は、国際航行に使用されている海峡であって、その海峡内に航行上及び水路上の特性において同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在するものについては、適用しない」と規定されているからです。ここでいう「国際航行に使用されている海峡」とは、公海または排他的経済水域同士を結ぶような海峡のことです。そして、その中央部分を公海としている特定海峡については、この部の規定が適用されないのです。

 つまり、厳密にいうと、日本政府が定めたところの津軽海峡など5つの「特定海域」は、UNCLOSで規定されている「国際海峡」にはあたらないということになるのです。

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