JR東日本が、乗車人員1日61人の無人駅にラウンジ「更級の月」を建設。その目的と内部、そして「味」はどうなっているのでしょうか。
1日平均の乗車人員が61人(2015年度)という山中の無人駅に、JR東日本が夜景ラウンジ「更級の月(さらしなのつき)」を設けます。
その場所は長野県千曲市、「姨捨山伝説」の地でもある篠ノ井線の姨捨(おばすて)駅です。同駅周辺は善光寺平(長野盆地)と棚田を一望できることから、古くより「日本三大車窓」のひとつに数えられています。特に夜景は、街の灯りがいわゆる「宝石をちりばめたよう」に眼下へ展開。それを楽しむための観光列車「ナイトビュー姨捨」は、「日本夜景遺産」に認定されるほどです。
正面に姨捨駅のホームと線路、「日本三大車窓」の風景が広がる夜景ラウンジ「更級の月」(2017年3月、恵 知仁撮影)。JR東日本は2017年5月1日(月)より、同社の“フラッグシップ”となるクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島(トランスイートしきしま)」の運行を始めるにあたって姨捨駅に注目し、その「日本三大車窓の夜景」を楽しむコースを設定。無人駅の同駅にこのたび、「四季島」乗客向けの夜景ラウンジ「更級の月」が設けられました。
ただJR東日本長野支社によると、このラウンジは将来的に「四季島」乗客以外にも利用してもらうことを考えているといい、豪華クルーズトレインはハードルが高くとも、それ以外の形で「日本三大車窓の夜景ラウンジ」を楽しむことができそうです。
夜景ラウンジの名称について、姨捨駅付近が平安のころから「名月の里」として知られていること、「更級」という古くからあるこの地の名前の響きを伝えたいという思いから、「更級の月」にしたとのこと。
ちなみに姨捨駅は、全国でも数少ないスイッチバック方式の駅。
姨捨駅の夜景ラウンジ「更級の月」、ホーム・線路と平行になる形でカウンターテーブルが設けられており、飲食を楽しみながら正面に夜景を眺めることが可能。もちろん「トレインビュー」です。
その内部は、とにかく「信州」であるのが大きな特徴。信州が「みそ」で知られることから「みそ蔵」をイメージしており、壁の下部には竹細工を装飾して、みそ蔵にあるみそ樽の「たが」を表現。「信州らしさ、姨捨らしさを意識した、蔵を感じさせる空間」がコンセプトといいます。

この夜景ラウンジ「更級の月」建設にあたって、資材やデザイン、製作をできる限り信州エリアで行うことが考えられました。カウンターのテーブルは、姨捨駅のある長野県千曲市のヒノキ。加工業者も地元で、アクセントとして、千曲市の名産であるアンズの木を使い、姨捨駅舎の窓枠の形「亀」のモチーフが埋め込まれました。
ハイチェア、ローテーブル、ソファは長野県飯綱町在住の木工芸家、松本啓直さんが製作。
2017年5月から11月に実施される「四季島」1泊2日コースでは、この姨捨駅におよそ1時間滞在。車内で夕食を楽しんだのちの訪問であるため、夜景ラウンジ「更級の月」ではお酒に力が入れられています。

このたび用意されたお酒はもちろん長野県のもので、日本酒は純米や古酒、発泡タイプなど4種類。担当した「ホテルメトロポリタン長野」の佐藤 昇担当支配人は「夜景を見ながら地酒をお楽しみいただきたい」と話します。信州名産のワインは「夕食後なので軽めで口当たりの良いもの」(佐藤さん)を用意しているそうです。お酒が飲めない人向けには、地元・千曲市の名産であるアンズが入ったハーブティーが用意されました。
また「四季島」乗客の姨捨駅滞在中、地元の協力を得た「おもてなし」が行われるほか、信州のみそをはじめとする地元名産品の販売も実施されます。
「更級の月」の食事は「宝箱」2017年5月から11月に実施される「四季島」1泊2日コースにおいて、この姨捨駅「更級の月」で提供される料理は、夕食後の訪問であるため、担当した「ホテルメトロポリタン長野」の料理長、上海正博さんは「あくまでお酒のさかなを用意」しながら、「長野を満喫できる『宝箱』」をイメージしてメニューを考えたと話します。

姨捨駅「更級の月」で提供される2017年5月のメニューは以下の通りです。
●信州ピンチョス
千曲産杏ぴくるす
長野県産鹿肉ソーセージ
信州聖高原味噌漬けチーズ
●信州の芽吹き
タラの芽、山ウド、アスパラガス、白霊茸、フルーツ人参、安曇野大豆豆腐、信州正油豆
●信州伝統野菜の香の物
野沢温泉 野沢菜漬け
須坂村山 早生牛蒡正油漬け
王滝村 王滝蕪酢漬け
●長野県産旬のフルーツ
内容は2か月ごとの変更が基本ですが、フルーツなど、その時期その時期で旬のものを使うそうです。
「窓に広がる姨捨の夜景、地域素材の食・飲み物、そして県産材をふんだんに使用したラウンジと、余すところなく信州を味わっていただくことで、姨捨が『TRAIN SUITE 四季島』の旅のなかでより一層記憶に残る場所となることでしょう」(JR東日本 長野支社)
ちなみに「宝箱」の箱は、ハイチェアなどを手がけた木工芸家の松本啓直さんによるもので、フタには「四季島」のマークが入れられています。
JR東日本が考える「クルーズトレイン」の役割とは?夜景ラウンジ「更級の月」の外観は、1934(昭和9)年に建設された姨捨駅舎のデザインに合わせられました。

そのほか姨捨駅では「四季島」運行にあたり「更級の月」建設と合わせて、以下の整備が行われています。
・上りホーム(松本方面)の待合室を、眺望が望めるよう整備。
・下りホーム(長野方面)を「四季島」停車に合わせて約18cmかさ上げ。
・跨線橋を美化したほか、ガラス部分を広くして眺望を楽しめるようにした。
・跨線橋下の上屋を整備。
・駅舎本体の劣化した屋根の全面葺き替え。
・待合室の床など内装の美化。
JR東日本は鉄道の「変わらぬ使命」として「地域との連携強化」を掲げており、クルーズトレインを通じて地域の人々とともに地域が持つ魅力の掘り起こしや磨き上げを行い、地域の力にもなる「架け橋」としての役割を、クルーズトレインに持たせて行きたいと考えているとのこと。「四季島」の運行を通じ、地域のさまざまな魅力を掘り起こし、情報を発信することで、地域の活性化に貢献していくとしています。
ちなみに、姨捨駅を訪問する2017年5・6月出発「四季島」1泊2日コースの旅行代金は、1人32万円から45万円です(2名1室、びゅうトラベルサービス取り扱い分)。
【写真】駅名の看板が「ちょっと変」な姨捨駅
