阪神電車の尼崎センタープール前駅は、近隣施設に由来する駅名ですが、付近に泳げる場所はありません。「プール」そして「センター」は、はたして何を意味しているのでしょうか。
阪神電車の尼崎駅(兵庫県尼崎市)から普通列車で西に2駅のところに、「尼崎センタープール前」(同)という駅があります。
梅田駅から約11km、神戸三宮駅から約20kmの場所にある尼崎センタープール前駅(2010年2月、恵 知仁撮影)。
しかし、駅付近に水泳用のプールは見当たりません。なぜこのような駅名なのか、阪神電車に聞きました。
――尼崎センタープール前駅に隣接した水泳用プールはないのでしょうか?
ありません。大きなボート池を備えた尼崎競艇場が駅に隣接しており、それに由来する駅名です。
――なぜ「尼崎競艇場前」ではないのでしょうか?
もともと1952(昭和27)年に競艇場のための臨時駅として開業したのですが、そのときからの駅名ですので、いまとなってはわかりません。
そもそも、なぜ競艇場を「センタープール」と呼ぶ? 背景にある構想「センタープール」の由来について、尼崎競艇場に聞きました。
――まず、「センタープール」とはボート池を指すのでしょうか、それとも尼崎競艇場の愛称なのでしょうか?
どちらの意味合いもあります。
――では「センタープール」という呼称は、何に由来するのでしょうか?
「尼崎の真ん中だから」「プールのセンターに位置する艇が強いから」「ここを尼崎の『センター』にしたいという開業当時の市長の意向による呼称」など、諸説あります。
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阪神電車の車窓に見える尼崎競艇場(2010年2月、恵 知仁撮影)。
さらに、尼崎市の地域研究資料館にも話を聞きました。
――「センタープール」という呼称は、何に由来するのでしょうか?
『尼崎競走場40周年誌』という本に、元・尼崎市長である野草平十郎さんの談話として、次のような由来が記されています。それによると、尼崎競艇場のある場所はもともと湿地帯で、蚊の温床にもなっていました。この一部をさらに掘って大きな池をつくりボートレース場を誘致し、街づくりの財源を確保するとともに、堀った土で周辺を埋め立てて開発するという構想のもとにつくられたのが、尼崎競艇場です。「センタープール」という呼称は、尼崎競艇場を核として快適な街をつくっていくという意気込みが示されたもので、当時の阪本 勝市長による命名とされています。
――呼称はいつごろから使われていたのでしょうか?
建設当時の市報を見ると、この競艇場を「レースのないときは少年少女の楽しいリクリエーションセンターとして活用する」という計画が書かれています。これが1952(昭和27)年3月のもので、5月の市報になると、「センタープール」の呼称が普通に使われていますので、このあいだに決まったのでしょう。
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尼崎市地域研究資料館および『尼崎競走場40周年誌』によれば、「尼崎競艇場を中心とした街づくり構想から生まれた名前」ということで、「ここ(競艇場)を尼崎の『センター』に」説が真相のようです。
【地図】尼崎センタープール前駅の位置

駅に隣接した尼崎競艇場のボート池は、地図にもはっきりと示されている(国土地理院の地図を加工)。