羽田空港に乗り入れ、都営浅草線方面や横浜、横須賀方面への列車も運行する京急電鉄は、いくつかの理由で鉄道ファンに人気があります。その理由は沿線で暮らす“非鉄”な人にもメリットがありそうです。
京急電鉄は東京から横浜、さらに三浦半島方面まで路線を有する鉄道会社です。泉岳寺~品川~横浜~浦賀間を本線とし、京急蒲田~羽田空港国内線ターミナル間を結ぶ空港線、京急川崎~小島新田間の大師線、金沢八景~新逗子間の逗子線、堀ノ内~三崎口間の久里浜線という4つの支線を持っています。
京急電鉄は、最近は羽田空港へのアクセス路線として国内外にも知られています。しかし、そのルーツは支線の大師線でした。1872(明治5)年、新橋~横浜間に官営鉄道が開業すると、川崎駅から人力車、または徒歩で川崎大師に参拝する人が増加。この人気にあやかり、大師電気鉄道が1899(明治32)年に川崎駅(現・京急川崎~港町間)と大師駅(現・川崎大師駅)を結んで開業しました。この大師線が京急電鉄の前身です。
快特をはじめ「モーニング・ウィング号」「ウィング号」などに使用されている2100形電車(画像:photolibrary)。
なお、大師電気鉄道の創業から現在の京急電鉄まで、車両の色は赤系統です。これは米ロサンゼルス近郊に大路線網を築いたパシフィック電鉄の車体色にあやかったといわれています。ちなみに、京急電鉄のコーポレートカラーは湘南の海を連想する水色。駅名標も水色があしらわれています。
それでは、筆者(杉山淳一:鉄道ライター)の独断と偏見による京急グッドポイントを紹介します。異論反論は大歓迎。SNSでこの記事とシェアしていただければ幸いです。
【1位】羽田空港、成田空港のアクセスが便利京急電鉄は、都営浅草線の直通列車をはじめ、横浜・新逗子方面を発着するエアポート急行など、羽田空港と乗り換えが1回以内で到達できる範囲が広く便利です。“蒲田要塞”とも呼ばれる京急蒲田駅やその付近の立体交差化の完成で、羽田空港発着の列車と本線列車の接続もさらに便利になりました。
空港線の始発列車は5時19分の京急蒲田発で、5時29分(土休日は5時30分)に羽田空港国内線ターミナルに着きます。この列車には京急本線の品川5時2分発、神奈川新町4時52分発の列車から乗り換え可能。空港線の終発も遅く、品川行きは羽田空港国内線ターミナル0時12分発(土休日は0時00分発)です。この列車は京急蒲田駅で特急・金沢文庫行きに接続します。
人気の国内航空路線でも、各方面の始発便、終着便は都心アクセスの面から空席が出やすいようです。京急沿線に住むと、こうした空いている始発便、終着便を利用しやすくなります。京急沿線は“羽田空港の地元”といえるでしょう。
京急本線・品川~横浜間の所要時間は、最速種別の快特で17分。これは併走するJR東海道線の普通列車とほぼ同じです。しかし、快特は京急蒲田に停車するため、停車駅がJRよりひとつ多いことを忘れてはいけません。京急本線・品川~横浜間の最高速度は120km/h。これは首都圏トップクラスのスピードです。また、京急川崎~横浜間では、併走するJRの列車を追い越す場面も見られます。京急ファンが大好きな光景のひとつです。
「普通」なのにすごい!【3位】私鉄最長の12両編成、空いている増結編成は狙い目京急電鉄の車両は1両の長さが18m。これは乗り入れ先の都営浅草線、京成電鉄も同じです。JRや他の大手私鉄の多くは20mですから、京急の車両は少し小ぶり。しかし、他の大手私鉄の最長10両編成に対して、京急線内は最長12両編成です。18m×12両で1編成の長さは216m。
京急電鉄で12両編成に対応しているのは品川~金沢文庫間の特急停車駅のみです。都営浅草線は8両編成までのため、この区間にまたがって走る列車は、上りは金沢文庫で4両増結、品川で分割、下りは品川で4両増結、金沢文庫で分割となります。12両対応区間内で利用するなら、増結編成のほうが比較的空いています。
【4位】種別「普通」の走りがすごい京急電鉄で各駅に停車する「普通」の走りはすさまじいものがあります。
なにしろ、日中は快特が5分間隔で走り、朝夕はそこに特急やエアポート急行も加わるなかで、「普通」は各駅に丁寧に停まらなくてはいけません。特に都内区間は駅間が短く、駅まで歩く距離が短いというメリットがある反面、駅の数が多いため所要時間は増えます。
そこで「普通」は、快特や特急などの通過列車に追い越されたあとで発車すると勢いよく加速し、後から追ってくる通過列車のために、次の追い越される駅へ急いで逃げ込まなくてはいけないわけです。この加速感を楽しむために、わざと「普通」を選んでも楽しいでしょう。
ダイヤ乱れの際に発揮される「熟練の技」とは【5位】職人技の証「行っとけダイヤ」京急はダイヤの乱れが発生しにくく、回復も早いと認知されています。そのための工夫がいくつかあります。まず、乗り入れ先の車両も含めて編成両端の車両を、モーターを搭載した電動車とし、線路上のセンサーを迅速・確実に作動させること。
さらに、ポイント切り替えや出発信号の管理を自動化せず、熟練した運行管理者が行っています。ダイヤが乱れた場合、京急電鉄では熟練の技によって、列車の運転打ち切りと強制的折り返し、途中駅からの種別変更などのテクニックを駆使して、力技で正常運転に復帰させます。
こうして、結果的に素早く正常ダイヤに戻るわけですが、その間、乗客は自分の列車が突然打ち切りになったり、快特に乗ったつもりが「普通」になって後続列車に追い越されたりします。この状態が「とりあえず発車させてしまえ」と見えるため、鉄道ファンからは「京急の行っとけダイヤ」などと揶揄されています。しかし、もともとダイヤの大きな乱れが少ないため、めったに見られない貴重な体験ともいえます。
【6位】座って通勤「ウィング号」主要駅の横浜や京急川崎を通過する有料座席指定列車があります。平日朝上り2本の「モーニング・ウィング号」と、平日夕方以降下り11本の「ウィング号」です。品川~上大岡間はノンストップ。途中の横浜、京急川崎、京急蒲田などには停まらず、三浦半島と都心を直結する列車です。
どちらもクロスシート(枕木方向の座席)の2100形電車を使い、ゆったり座って通勤できる列車として人気があります。料金(Wing Ticket)は1乗車あたり300円。
関東大手私鉄で東海道新幹線と乗り換えができる駅は、京急電鉄の品川駅と小田急電鉄の小田原駅だけです。品川駅には2027年にリニア中央新幹線が開業する予定ですから、京急沿線は、東海道新幹線、リニア中央新幹線、羽田空港と、国内外の主要都市へ乗り換え1回で行ける好立地です。
都心側ターミナルの品川は、オフィスビル、ビジネスホテルが並び、整然としています。レジャー施設としては品川プリンスホテル内の映画館、水族館、ボウリングセンター、コンサートホールがあります。しかし、大型家電店やファッションアイテムを扱う店が少なく、渋谷、新宿、池袋、上野のような雑多なにぎわいはありません。ちょっと寂しい感じもします。でも大丈夫。京急沿線には川崎も横浜もあります。上大岡駅は京急百貨店と直結しています。買い物にはとても便利な沿線です。
そして、ついに品川駅も大変貌の予感。
三浦半島方面に注目すると、マグロが名物の三崎港、海軍カレーやヨコスカネイビーバーガーで知られる横須賀、海水浴で人気の三浦海岸、イルカ・アシカショーや水族館で知られる油壺マリンパークなどがあります。京急電鉄の乗車券のみで乗れる快特で遊びに行けます。
往復の乗車券、訪問先の路線バスのフリー乗車券、食事やレジャー施設を楽しめるチケットがセットになった「よこすか満喫きっぷ」や「みさきまぐろきっぷ」も便利です。平日は都心へ通勤し、休日は海へ。これが理想の京急ライフといえそうです。
グッズで自宅が駅のホームに!?【9位】駅売店がセブン‐イレブン 京急グッズも京急電鉄の駅売店はコンビニエンスストアのセブン‐イレブンです。街なかの店舗と違って小規模で品揃えも限られますが、ATM設置店舗もあり、公共料金などの支払いもできます。話題のコンビニスイーツもあります。「京急のど飴」など、京急グッズを扱っている場合があり、立ち寄ってみたくなります。

乗車目標バスマットと方向幕タオル(筆者:杉山淳一の自宅で撮影)。
京急グッズ専門店は鮫洲駅(東京都品川区)の改札外に「おとどけいきゅう」があります。電車をモチーフにした文房具やおもちゃのほか、乗車目標バスマット、方向幕タオルなどユニークなアイテムもあります。
【10位】鉄道ファンのビュースポットがたくさん神奈川新町の車庫は沿道のほか、構内を渡る歩道橋からも電車を見られます。2012年の映画『僕達急行 A列車で行こう』のロケ地にもなりました。金沢八景~金沢文庫間も大きな車両基地があります。この区間だけは複々線になっており、同じ方向の電車が併走する様子も眺められます。また、鉄道車両のメーカー、総合車両製作所があり、運が良ければ全国に出荷される新型車を発見できるかもしれません。
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鉄道の魅力がたっぷり、暮らしにも便利な京急沿線は、東京近郊で住みたい沿線として穴場かもしれません。
【写真】品川駅にある京急本線の「起点」

品川駅のゼロキロポスト。ここから都営浅草線の泉岳寺駅へ本線が延伸されたあとも、起点は品川駅のままとされている(杉山淳一撮影)。