細く狭かったり、荒れ果てていたりする国道は、愛好家から「酷道」と呼ばれますが、総延長では国道をはるかに上回る都道府県道などにもそうした道路があります。たとえば県道は「険道」などと呼ばれますが、どのような道があるのでしょうか。

総延長13万kmの都道府県道にも…

 総延長約5万6000kmに及ぶ国道(高速自動車国道を除く)には、そのイメージとは裏腹に、細く、舗装も荒れたような道も存在します。そのような道を国道ならぬ「酷道」と呼び、好んで走ったり、成り立ちを調べたりして楽しむ愛好家もいます。

 もちろん、国道だけでなく、都道府県道や市町村道などにもそうした道は存在し、インターネット上では県道ならぬ「険道」などという言葉も見られます。

県道ならぬ「険道」 数は「酷道」よりも膨大? 初心者にはお勧...の画像はこちら >>

長野県道・群馬県道112号大前須坂線の県境部。この先は立ち入り禁止となっている(平沼義之撮影)。

 都道府県道は総延長で約13万km、市町村道は約102万7000kmと、日本の道路のなかでは国道よりもはるかに多くを占めています。「険道」などと呼ばれる道路には、どのようなものがあるのでしょうか。各地の「険道」や「廃道」(廃止された道)をめぐった記録を紹介するウェブサイト「山さ行がねが」の管理人で、2017年9月5日(火)に著書『廃道踏破 山さ行がねが 伝説の道編』(実業之日本社)が発刊予定の平沼義之さんに話を聞きました。

――インターネット上では国道の「酷道」以外に、県道を「険道」などとする呼び名が見られますが、ファンのあいだではどのように呼ばれているのでしょうか?

「険道」のほか、府道ならぬ「腐道」、都道ならぬ「吐道」、道道ならぬ「獰(どう)道」などという言葉も聞いたことはありますが、個人的にはちょっとばかり悪趣味な言葉遊びに感じることと、その道を趣味ではなく生活で利用している人の気持ちを考えると、あまり賞揚したいとは思いませんね。「酷道」という言葉は実は案外に歴史が古く、戦後間もない頃から連綿と使われていますが、「険道」などは2000年頃からインターネット上でふざけて言われるようになったものだと思います。

未成区間、点線区間、「階段県道」も!? 「険道」の実態

――「険道」などの道路にはどのようなものがあるのでしょうか?

 県道に絞って、紹介するに相応しいと思えるものを挙げていきましょう。

文字通り「険しい」県道

・栃木県道266号中塩原板室那須線(那須塩原市)

 栃木県北部の山間部を結ぶ全長50kmもの観光道路「塩那スカイライン」として構想され、一部未成に終わった道路です。

その工事跡が、容易に近づけない山上に取り残されています。現在も県道に認定されていますが、多くの区間は年中通行止めのうえ、一部で「廃道化工事」が進められています。

・静岡県道288号大嵐(おおぞれ)佐久間線(浜松市)

 静岡県と愛知県にまたがる佐久間ダム湖の左岸を通る道路です。対岸を通る長野県道・愛知県道・静岡県道1号は3県を跨ぐ長大「険道」として知られているのですが、それよりもさらに険しい県道、いや廃道です。かつてはクルマも通れましたが、現在は崩壊が進んでおり、全線踏破は命懸けです。静岡県も管理の匙を投げてしまい、中間部の約8km(全長の半分弱)は正式に廃止されています。

「つながっていない」県道

・長野県道・群馬県道112号大前須坂線(長野県須坂市~群馬県嬬恋村)

 草津白根山(標高2160m)の近くで長野県と群馬県を結ぶ路線ですが、県境である毛無峠の群馬県側は、クルマはおろか、人も通り抜けることが難しい「点線県道」(国土地理院の地形図において、幅員1.5m未満の登山道などを示す表記と同じ点線で示される)です。付近にはかつて多くの鉱山があり、その遺構も豊富に残っています。長野県側から群馬県境部に達すると、通行禁止の看板やロープとともに「群馬県」と書かれた大きな標識が現れ、それもこの県道を有名にしています。

個性的?な県道

・神奈川県道515号三井相模湖線(相模原市)

 東京に最も近い険道のひとつです。1.7mという「幅員制限バー」(編注:道路の両脇に金属製のバーが立ち、クルマの通行を強制的に制限している)や、一部廃道化している区間もあるなど、「アトラクション」が盛りだくさんです。

・新潟県道50号小出奥只見線(魚沼市)

 全長約32kmのうち奥只見ダム側の「奥只見シルバーライン」と呼ばれる区間が有名で、とにかくトンネル、トンネル、トンネル、トンネル! トンネル好きなら一度は体験したい本邦最強の“もぐら”県道です。

「奥只見シルバーライン」22kmのうちに19本、長さにして18km余りに及ぶトンネルがひしめきます。

・富山県道67号宇奈月大沢野線(黒部市~富山市)

 県道の中でも上位に位置する「主要地方道」でありながら、随所に不通区間があります。富山市寺家(じけ)にある3本のトンネルはどれも非常に狭く、「険道」ファンの心を掴んで離しません。

県道ならぬ「険道」 数は「酷道」よりも膨大? 初心者にはお勧めできない道路たち

栃木県北部の山間部を通る県道266号中塩原板室那須線(平沼義之撮影)。
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神奈川県道515号三井相模湖線で見られる「幅員制限バー」(平沼義之撮影)。
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「階段国道」ならぬ「階段県道」区間がある島根県道23号斐川一畑大社線(平沼義之撮影)。

・島根県道23号斐川一畑大社線(出雲市)

 島根半島を一巡する「主要地方道」ですが、途中に自動車通行不能区間があります。その一部は階段になっており、青森県にある有名な「階段国道」(国道339号)ならぬ「階段県道」というべき存在です。ほとんど誰も訪れないマイナーぶりが、かえって魅力です。

「酷道」のその先に… 膨大にある「険道」

――国道の「酷道」と、「険道」などを比べた場合、道路の見た目上の特筆すべきちがいはあるのでしょうか?

 見た目上のちがいといえば、国道あるいは「酷道」には「おにぎり」と呼ばれる番号を示した標識があるのに対し、県道あるいは「険道」などには「ヘキサ」と呼ばれる六角形の標識があることくらいでしょうか。

 国道は「指定区間」の有無によって管理者が異なっており、指定区間内は国(国土交通省)が、区間外は都道府県が管理しています。そして都道府県道も、その管理主体は都道府県です。

「酷道」といわれるような国道は全て指定区間外ですから、管理者がともに都道府県であることからも、「酷道」と「険道」の見た目上に特筆すべき違いがないのです。

――「険道」ならではの特徴や見どころ、楽しみ方はあるのでしょうか?

 まず、「険道」は「酷道」と成り立ちが異なります。現在ある「酷道」の多くは、過去に県道から昇格したものです。国道は複数の県道をまとめて1本のルートとして指定したものが多いため、異なる歴史的経緯を持つ道の集合であることが多いですが、「険道」はもっとシンプルな成り立ちのものが大半で、距離も国道よりずっと短いものがほとんどです。

「険道」は「酷道」以上にローカルな存在なので、民家の軒先を通るようなローカル色の強い風景がよく見られます。また、標識などで案内されず、一見してそこが県道だということがわからないようなものが多くあるのも、「険道」の特徴でしょう。

※ ※ ※

 平沼さんによると、「『酷道』のように時代にそぐわない状態のまま放置され、実質的に廃道状態となっている道が、特に県道には膨大にあります」とのこと。そのため、「酷道を巡りつくしてしまった人や、インターネット上にも踏破情報がないような道を自分で踏破したいと思うような人が、『険道』に注目している部分がある」といいます。平沼さんもまた、「手垢の付いた『酷道』ではなく、自分で調べて、何があるのかわからないような『険道』を踏破するのが好き」だと話します。

「とにかく膨大に数があるので、たくさん楽しみたい人にはもってこいです」(平沼さん)

 ただし、ここで紹介したような「険道」には危険な場所もあり、立ち入り禁止となっている場合も少なくありません。現地に向かう際は状況を確認し、交通規制やルール、マナーを遵守するのはもちろんのこと、十分な装備をしたうえで、少しでも危険を感じた場合は撤退するよう、自重を心がけてください。

【地図】紹介した「険道」の位置

県道ならぬ「険道」 数は「酷道」よりも膨大? 初心者にはお勧めできない道路たち

「険道」は山間部を中心に、全国に点在する(国土地理院の地図を加工)。

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