国鉄時代の車両で感じられる、車内の「におい」を再現したというルームフレグランスが登場しました。通勤電車からブルートレインまで共通するにおいだといい、嗅げば「まるで列車のなか」というもの。

どのようなものでしょうか。

鼻をつく独特のにおい?

 国鉄時代の車両における車内のにおいを再現したという、ルームフレグランスが登場。2017年10月3日(火)からインターネット上のクラウドファンディングサービス「Readyfor」にて、支援の返礼品という形で購入を受け付けています。

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「国鉄の香り」ルームフレグランス。左は5mlのサンプルボトル。中央は25mlの製品版で、本を模したパッケージに納められる(髙橋 竜さん提供)。

 出品者は合同会社ビイエルテイ(東京都港区)代表の髙橋 竜さん。「国鉄スピリットを受け継ぐ」というブランド「COQTEZ」を立ち上げ、その第1弾として、「国鉄の香り」ルームフレグランスと、国鉄車両のシートに見られる青モケットを再現した「国鉄青モケットクッション」を商品化したといいます。

 鉄道をテーマにしたフレグランス商品としては世界初だという「国鉄の香り」。どのようなにおいなのか、髙橋さんに聞きました。

――「国鉄の香り」とはどのようなものでしょうか?

 昔の国鉄車両に乗ったときに感じられる、少し鼻をつく、何ともいえない独特のにおいを再現したものです。聞くところによると消毒剤のにおいだそうですが、その正体はわたし自身もよくわかっていません。

 わたしは、かつてブルートレイン「あさかぜ」の最後尾車両として使われ、現在は福岡市東区の貝塚公園に保存されているナハネフ22形客車の修復活動に携わっているのですが、1965(昭和40)年に製造されたこの車両もいまなお、そのにおいが残っています。イベントでこの車両を公開した際には、昔を知る方々が口々にこのにおいを「懐かしい」とおっしゃっていました。ディーゼルカーなどでは軽油のにおいのほうが強いかもしれませんが、昭和30、40年代ころに製造された車両で、通勤電車や電気機関車に牽引された客車では、広く共通するにおいだと思います。

「もっとエグい感じ」 実態のわからないにおい、どう再現?

――具体的に何のにおいかがわからない状態で、どのようにそれを再現したのでしょうか?

 自然由来の製品を手掛けるバリバリー(名古屋市緑区)さんに、フレグランスの製造を依頼しました。しかし、実態のわからない香りを再現するということもあり、2度断られています。そこを何とか……とお願いし、調香師の須山麻衣子さんにリニア・鉄道館(名古屋市港区)で展示されている国鉄時代の特急電車内のにおいを嗅いできてもらい、その香りを作っていただきました。

 最初に届いたサンプルは、ヒノキの香りを思わせるさわやかな感じでした。「もっと臭くてエグい感じです」と再製作をお願いし、後日、より臭くてクセのあるふたつ目のサンプルをいただきました。ふたつのサンプルを持ってナハネフ22形の車内で嗅ぎ比べをしたところ、実際のにおいは、最初にひとつ目のサンプルに近いさわやかな感じがし、後からエグい感じがくる、というものだったのです。このため、両方のサンプルを掛け合わせたような香りを完成版としています。

――そもそもなぜ「国鉄の香り」を作ったのでしょうか?

「国鉄の香り」フレグランスは当初、クラウドファンディングで募ったナハネフ22形客車の修復活動支援において、返礼品のひとつとして作ったものです。新幹線やブルートレインをこの世に生み出した旧国鉄の十河信二(1884~1981)総裁と、島 秀雄(1901~1998)技師長、このおふたりに敬意を表し、わたし自身もこの世にないようなものを返礼としたいという思いがありました。

なお、今回は「国鉄の香り」を商品化しクラウドファンディングを行うものですが、売上の一部はナハネフ22形客車の修復基金に拠出します。

車内を再現、「国鉄の香り」商品化へ!? 制作者と識者に聞く、そもそもどんなにおい?

福岡市の貝塚公園に保存されているナハネフ22形客車、修復後の姿(髙橋 竜さん提供)。

――フレグランスはどう使うのでしょうか?

「国鉄青モケットクッション」に吹きかけて嗅いでいただければ、列車のなかにいるかのような感覚になります。あくまでわたしの感想ですが。青モケットクッションでなくても、やはり家具やソファーに吹きかけて楽しんでいただくのがよいと思います。

結局どんなにおいなのか

 実態のわからない「国鉄の香り」。

その言葉から思い出されるにおい、あるいは記憶は、人によってもさまざまでしょう。

 貝塚公園と同じナハネフ22形客車を展示している鉄道博物館(さいたま市大宮区)の奥原哲志学芸員によると、「確かに、当時の車両で共通するにおいをお感じになる方はいらっしゃいます」とのこと。「やはり塩素系の、消毒剤のようなにおいですが、当時の消毒剤について詳しくはわかっていません。ただ展示車両について言えば、たとえばタバコのにおいが染みついていたようなものもあり、ひと通り清掃していますので、それぞれが当時のにおいを残しているわけではないかもしれません」と話します。

 1938(昭和13)年に生まれ、数々の国鉄車両に乗車した鉄道研究家の原口隆行さんによると、「昭和30年代には都市部の電車で、検査から出場したばかりのときなどに消毒剤のにおいを感じました。しかしより印象に残っているのは、SL時代の客車に染み込んだ煤煙や、床が木造の車両で強かったニスのにおいなどですね」と振り返ります。

「電気機関車が牽引するブルートレインの客車や、電車特急などでは、車両のもともとのにおいというより『人』のにおいが思い出されます。ひと晩走って朝起きたときの車内は、もわっとした空気があって、何ともいえないにおいが漂っていた」そうです。

車内を再現、「国鉄の香り」商品化へ!? 制作者と識者に聞く、そもそもどんなにおい?

京都鉄道博物館に展示されている国鉄時代の寝台電車583系。原口隆行さんは「ひと晩走って寝台から座席に切り替わったあとに乗車すると、何ともいえないにおいを感じた」という(太田幸宏撮影)。

 ちなみに「国鉄の香り」フレグランスを調香したバリバリ―の須山麻衣子さんは「Readyfor」のページに「クッションの肌触り、車窓から見える景色ガタゴト響く振動、旅の途中で食べたお弁当。この香りを嗅ぐと、ひとたびその光景が目の前に一瞬にして広がります」とのコメントを寄せています。

 やはり、「国鉄の香り」といって思い出される記憶は、人それぞれ異なるようです。

【画像】「国鉄青モケットクッション」とは

車内を再現、「国鉄の香り」商品化へ!? 制作者と識者に聞く、そもそもどんなにおい?

国鉄車両のシートを再現したもの。「国鉄の香り」フレグランスとのセットも(髙橋 竜さん提供)。